消費者の商品選択を誘導する「おとり効果」とはどのような販売戦略なのか?
商品やサービスを顧客に提供する売り手側の販売戦略のひとつ「おとり効果」は、商品の選択で悩んでいる消費者の思考をずる賢く誘導することもあるため注意が必要だと、クイーンズランド工科大学のゲイリー・モーティマー准教授が解説しています。
The decoy effect: how you are influenced to choose without really knowing it
https://theconversation.com/the-decoy-effect-how-you-are-influenced-to-choose-without-really-knowing-it-111259
「おとり効果」とは、価格と性能などを基準に二つの選択肢で迷っている消費者に「第三の選択肢」をおとりとして提示することで、本来購入させたい商品またはサービスに誘導する販売戦略です。この「おとり効果」について、モーティマー氏は以下のように説明しています。
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ミキサーを購入しようと思い、同じメーカーの商品の中で価格と性能が違う二つの品で悩んでいる人がいるとします。安い方は89ドル(約9800円)で高価な方は149ドル(約1万6500円)と1.5倍以上の価格差がありますが、安価な方が900Wなのに対し高価な方は1200Wと大出力で、またカッターなどの付属品が7個多くついてきます。つまり、「最低限の機能で安く済ますか、せっかくだから高くていいやつを買おうか」と迷っているというわけです。
高いものはより性能が高く付属品も多いですが、「それが差額の60ドル(6600円)の価値があるか」は消費者の立場では簡単にわかりません。そのため通常ならば、このように迷っている時どちらを選択するかはその人のそのタイミングの経済力や好みの傾向によってまちまちになりますが、販売者はしばしば「おとり効果」を用いてその選択を誘導することがあります。
以下の画像では、先ほどの選択肢に加えて、「第三の選択肢」として125ドル(約1万3800円)の商品が追加されています。こちらは最も安価なものより36ドル高い代わりに、1000Wという中間の出力で付属品は4個多くなっています。
この「第三の選択肢」が登場したことにより、性能・付属品の価値を消費者が疑似的に計算することができるようになります。要するに、最も安価なものより一段階高いものを購入すると「36ドルで100Wと付属品4個増加」になり、さらに「そこから24ドル追加するだけで200Wのパワーと3個の付属品をゲット」となり、「最も高価なものがかなりお得」というように感じられることになります。
その他の興味深い実験の例として、行動経済学者のダン・アリエリー氏による「The Economist」の定期購読に関するテストが挙げられています。この実験では、イギリスの経済誌「The Economist」の「Web版のみの購読」を59ドル(約6500円)、「Web版と紙の冊子の同時購読」を倍以上の125ドル(約1万3800円)と設定した場合、68%の学生がより安価なWebのみのオプションを選択しました。これに第三の選択肢としてWebと紙の同時購入と同じ価格で「紙の冊子のみの購読」を追加した場合、32%しかいなかった「同時購読」の選択者が84%まで増加したそうです。
by Ben Terrett
このように引き起こされる「おとり効果」は「引力効果」「非対称性優性効果」とも呼ばれ、三つ目の選択肢が提示されたときに消費者が好みを変更する現象として定義されています。ここで提示される第三の「おとり」は販売することを意図したものではなく、競争的な選択肢から誘導したい選択肢へと目を向けさせるためだけに用意されます。
なぜこのような「おとり」に誘導されるのかということについて、モーティマー氏は選択肢を少なく絞りたがる消費者の心理を指摘しています。アメリカの心理学者バリー・シュワルツ氏が提唱した「選択肢が多ければ多いほど人は幸せを感じるというのは間違い」とする「選択のパラドックス」によると、選択肢が増加し選択の複雑さが増すと人は不安を感じ意志決定が妨げられると実証されています。このような不安を軽減するために、消費者は価格や質などの二つの基準のみを考慮することで選択プロセスを単純化する傾向があるとモーティマー氏は述べています。
選択の基準を単純化することで消費者は商品・サービスを購入する際のストレスを軽減させているのですが、その単純化された選択属性を操作することで「おとり」は特定の方向へ消費者を誘導し、そして消費者はまるで自分が合理的で情報に基づいた選択ができているという感覚を与えられるとのこと。
価格や性能を比較して瞬時に計算できる賢い人や「コストパフォーマンス」といったことを重視してお得な選択をしようと努める人ほどに無意識に引っかかりやすいのが「おとり戦略」であるため、商品を選択する際には「本当にこれが必要か」「これをこの価格で購入するのは適切か」ということをしっかり見極める必要性がありそうです。
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