教師の固定観念が学生の成績や学習意欲に大きな影響を与えることが判明
教育はさまざまな国においても重要な課題であり、何十年にもわたる研究と何億円もの予算がかけられています。さまざまな人種がひしめくアメリカでは「人種間で学力格差が存在する」というステレオタイプを抱く教育者も多く存在する中、インディアナ大学の研究者が1万5000人以上の生徒と150人の教員を対象に大規模な調査を行い、「教師が固定観念を持っていると学生のやる気や成績に大きな影響を与える」と論じています。
STEM faculty who believe ability is fixed have larger racial achievement gaps and inspire less student motivation in their classes | Science Advances
http://advances.sciencemag.org/content/5/2/eaau4734
Huge study finds professors’ attitudes affect students’ grades | Ars Technica
https://arstechnica.com/science/2019/02/huge-study-finds-professors-attitudes-affect-students-grades/
教師が「人種間で学力格差が存在する」というステレオタイプを持っているからといって、「人種差別主義者の教師があからさまに生徒をけむたがっている」ということを意味するわけではありません。しかし、教師の「どれだけ高度な教育を行っても、生徒の成長には限界がある」という固定観念が生徒の学習意欲に影響を与え、生徒が成長する芽をつぶしてしまう可能性を研究チームは指摘しています。
そこで、研究チームがインディアナ大学のSTEM(科学・技術・工学・数学)コースのすべての教員にアンケート調査を行ったところ、643コースを担当する150人の教授・教員が回答しました。このアンケートではステレオタイプを抱いているかどうかの質問のほか、教員の経験や民族性も調査されたとのこと。さらに、研究チームはアンケートに回答した教員が担当するクラスに出席した合計1万5000人以上の学生の成績データを集め、同時に学生から「教員に対するフィードバック評価」も匿名で収集しました。
その結果、ステレオタイプを持つ教員とステレオタイプを持たない教員の間で、受け持つクラスに属する学生の成長には大きな違いが見られました。
以下のグラフは、固定観念を持つ教員の学生グループ(左:Fixed)と持たない教員の学生グループ(右:Growth)の平均成績を棒グラフにまとめたもの。灰色の棒グラフは白人・アジア人の学生の平均成績を、黒色の棒グラフはラテンアメリカ系アメリカ人・アフリカ系アメリカ人・ネイティブアメリカンなど少数民族の学生の平均成績を示しています。Fixedグループでは、少数民族の学生の成績は白人・アジア人の成績よりも平均して0.19ポイント低いものとなっていますが、Growthグループの学生では学力格差が0.10ポイントまで下がっていました。
また、学生のアンケート結果から、固定観念を持つ教員は「学生の学習と発達を重視する」ことが少なく、動機付けの少ない教育が行われていることが判明。平均してすべての学生、特に少数民族の学生のやる気を低下させていたことがわかりました。
研究チームは「固定観念を持つ教員のクラスでは、固定観念を持たない教員のクラスに比べて、人種間に達成感のギャップが大きく生じている」と指摘。さらに研究チームは「教員の経験や地位、性別、民族性など、他の要因ではクラス間に有意な違いを見いだすことはできなかった」と述べていて、「教員の考え方や観念が、授業を受ける学生のやる気と達成感を形成することを示唆している」と主張しています。
Ars Technicaはこの研究を受けて「教員側に固定観念を捨てさせて、より多くの成長を学生に期待するような考え方を採用するようにすれば、教育はより効果的なものとなり、学生にとっても大きな利益になるでしょう」とコメントしています。
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