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薬用クリームの価格を40倍にまで値上げした製薬会社がジェネリック医薬品との競争に敗北し破産申請

by Karolina Mis

アメリカ・シカゴの製薬会社であるNovum Pharmaはほぼすべての資産を売却し、2019年2月3日にデラウェア州の裁判所に破産を申請しました。破産の理由は「製造している薬用クリームの価格をおよそ40倍にまで値上げをしたことで、ジェネリック医薬品との競争に負けたから」と報じられています。

A Chicago pharma company raised the price of its skin gel to $7,968. Now it's bankrupt. - Chicago Tribune
https://www.chicagotribune.com/business/ct-biz-novum-pharma-files-for-bankruptcy-20190205-story.html


Infamous pharma company declares bankruptcy after 3,900% price hike | Ars Technica
https://arstechnica.com/science/2019/02/infamous-pharma-company-declares-bankruptcy-after-3900-price-hike/


アメリカの医療現場では、PBM(Pharmacy Benefit Manager、薬剤給付管理)プログラムが当たり前となっています。PBMとは保険会社と調剤薬局の間にある中間業者のこと。日本では保険適用となる医薬品は公定価格が定められるのに対して、アメリカでは保険適用の医薬品でも製薬会社やPBMが自由に価格を決めることができます。

2016年9月、Novum Pharmaは自社製品の大幅な値上げを敢行。189ドル(約2万円)だった「Alcortin A」と201ドル(約2万2000円)の「Aloquin」は7968ドル(約88万円)に、121ドル(約1万3000円)だった「Novacort」は5952ドル(約65万円)にまで、卸値が段階的に上げられました。そのため、シカゴ市内の一部の薬局ではAlcortin Aが8000ドル(約88万円)で販売されていたそうです。


値上げされたクリームの1つであるAloquinはヨードキノールと抗生物質とアロエから抽出したエキスを含み、湿疹やにきびに処方されるわずか60グラムのクリームです。しかし、特に命を救ったり効果的な薬だったりするわけではなく、臨床データが少ないためにアメリカ食品医薬品局(FDA)からの評価は「おそらく有効」にとどまっています。また、その製造コストはヨードキノールを含めても30~40ドル(約3300~4400円)程度のものだとArsTechnicaは主張しています。

PBMプログラムは製薬会社やPBMが自由に薬価を定められるだけではなく、PBMが「医薬品を安く仕入れて手広く売りさばく」ことを求めるため、比較的安価なジェネリック医薬品が市場に出回りやすいという特徴があります。薬価の高騰によって保険の負担料も増えたAloquinやAlcortin Aを拒絶するPBMや薬局が増加し、同程度の効能を持つジェネリック医薬品に切り替えるケースが続出し、Novum Pharmaの製品はますます売上を落としていくことになります。

by Mike Mozart

破産した理由としてNovum Pharmaは「製造上のトラブル、卸売業者や主要な薬局チェーンとの争い、未承認のジェネリック医薬品が市場に出回ったこと」を挙げています。また、Novum Pharmaの最高再編責任者であるThomas O'Donoghue氏は「健康保険制度の下で自社の薬品をなかなか展開できなかった」と述べています。

Novum Pharmaは2015年から数回にわたって薬の値上げを行いましたが、値上げを行うことで売上が下がって業績が悪化し、下がった売上を取り戻すために再び値上げを繰り返し……の悪循環に陥っていた模様。O'Donoghue氏は破産申請書の中で「これらのクリームの値上げは、ビジネスのための最低レベルの収益性を保証するために必要でした。しかしその結果、Novum Pharmaのビジネスモデルが衆目を集め、処方拒絶率の増加につながりました」と述べています。

アメリカでは30以上の製薬会社が2019年に入って値上げを行い、何百もの薬の価格が高騰したと報じられています。そのほとんどが10パーセント未満の値上げに収まっていて、Novum Pharmaのように無謀な値上げを敢行する製薬会社はないようですが、それでも薬を処方してもらう一般人からすると死活問題です。


ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院のCraig Garthwaite氏は「製薬会社は思い通りに薬の価格を値上げできると考えているでしょうが、同じ効能のジェネリック医薬品があれば、PBMはいつでも競合するジェネリック製品に需要をシフトさせることができます」と、ジェネリック医薬品と競合する医薬品を販売する製薬会社に対して警告しています。

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in メモ, Posted by log1i_yk

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