メモ

「中間業者による法外なマージンによって医薬品の値段が高騰している」という批判


アメリカの医療現場では、薬剤給付管理(Pharmacy Benefit Manager:PBM)プログラムが採用されています。PBMプログラムでは、中間業者が製薬会社・製剤薬局・保険会社・患者の間に立って薬価の調整を行いますが、この中間業者が中抜きを行っているせいで薬の価格がなかなか下がらないと指摘されています。

The Secret Drug Pricing System Middlemen Use to Rake in Millions
https://www.bloomberg.com/graphics/2018-drug-spread-pricing/


日本では、医師が出した処方箋に基づいて薬局が患者に薬を販売します。また、保険が適用される医療用医薬品の価格は厚生労働省によって決められています。一方、アメリカでは政府が薬価を決めることができないため、製薬会社が自由に薬価を設定できるようになっています。


そこで、製剤薬局や保険会社などから大口の契約をとったPBMの中間業者が、製薬会社と価格交渉を行います。中間業者が大量の医薬品を安く仕入れて幅広くさばくことで、薬価の高騰を防ぐことがPBMプログラムの狙いです。PBMの中間業者が処方箋に従って薬を顧客に販売し、製剤薬局は処方箋を出すことで中間業者から報酬を受け取ります。

アイオワ州の薬剤師であるマーク・フラームさんは州の刑務所に薬の処方箋を出しました。その処方箋に基づいて、州の薬剤給付計画管理を行っていたCVS Healthが刑務所に医薬品を販売し、同時にフラームさんが経営する薬局に報酬を支払いました。

by Javier Rapoport

しかし、フラームさんは新聞に出ていた公告を読んで、「CVS Healthから支払われた報酬」と「実際にCVSが刑務所に販売した値段」が大きくかけ離れていることに気付きました。例えば、一般的な抗精神病薬のボトル1つの場合、フラームさんがCVS Healthから受け取った薬価は5.73ドル(約640円)だったのに対して、実際にCVS Healthが刑務所に販売していた価格は198.22ドル(約2万2000円)でした。

フラームさんは、薬局に支払われる報酬と実際の販売価格に極端な価格差があると指摘し、「誰しもがPBMの中間業者が公平に事業を行っていると考えていました」と語っています。

アメリカで調剤される処方薬のほぼ9割を占めるジェネリック医薬品は、特許料や開発費用などのコストがかからないため、新薬より安価で取り扱われます。しかし、PBMの中間業者が設定する販売価格には、低所得者や高齢者向けの医療保険である「メディケイド・プログラム」が適用されるため、マージンが上乗せされて高騰化した薬価のほとんどは州政府が支払うこととなります。アメリカではこうしたジェネリック医薬品もPBMの中間業者で取り扱われており、1年で数兆円規模のマージンが州政府から中間業者に支払われているとBloombergは指摘しています。

実際にBloombergがいくつかの薬が「薬局への報酬」と「実際の販売価格」の価格差を調べたところ、販売価格そのものは下がってはいるものの、価格差は確実に広がっていることがわかりました。以下の画像は、白血病の薬「イマチニブ400mg」のオハイオ州における販売価格(黒色の線)と薬局への報酬(灰色の線)の推移をグラフにしたもの。2016年第2四半期では482ドル(約5万4000円)だった価格差が、2017年第4四半期には3342ドル(約37万円)にまで拡大していることがわかります。


また、以下のグラフは、統合失調症やうつ病に処方される「アリピプラゾール5mg」のニューヨーク州における価格差を示したもの。アリピプラゾールはジェネリック抗精神病薬で、2017年に急激に販売価格が下がったものの、やはり薬局への報酬と販売価格の価格差は広がっています。


インディアナ州で処方される、B型肝炎のジェネリック治療薬である「エンテカビル0.5mg」の価格差推移を示したグラフが以下。2015年第2四半期に122ドル(約1万3000円)だった価格差が、2017年第4四半期には709ドル(約7万7000円)にまで広がっています。2017年第4四半期では、その販売価格のおよそ85%が、中間業者のマージンとなっています。


こうしたPBM中間業者による高額のマージンには大きな批判が集まっています。トランプ大統領は、2018年5月に、中間業者は大きな富を得ているとして排除する方針を示し、PBMプログラムが破綻していると強く批判しています。

ウェストバージニア州やペンシルバニア州など、一部の州ではメディケイドプログラムにおけるPBM適用の見直しを開始しています。また、オハイオ州は医薬品の価格差の拡大について詳細な報告書を作成し、CVS Healthとの契約を2019年に終了する予定にあると述べています。

オハイオ州メディケイド部の広報であるトム・ベッティ氏は「私たちはブラックボックスを一斉に開くつもりです。PBMの中間業者は、価格がどのように決定されているかを秘密にしていて、そのために長年努力してきています」と指摘しています。一方でオハイオ州で事業を展開していたCVS Healthは、医薬品の価格差に関する報告書の公開を阻止するよう、州に訴えています。

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in メモ, Posted by log1i_yk

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