サイエンス

インスリンのジェネリック薬はなぜ存在しないのか?

by Heather Aitken

特許の切れた医薬品を他の製薬会社が製造・販売する「ジェネリック医薬品(後発医薬品)」は、先発医薬品と同じ成分で価格が安いため、薬を定期的に服用する人にとってはありがたい存在です。しかし、糖尿病治療に使われるインスリンは、特許取得から約90年が経つにも関わらず未だにジェネリック医薬品が存在しません。その理由について、アメリカの雑誌Pacific Standardがまとめています。

Where's the Generic Insulin? - Pacific Standard
http://www.psmag.com/health-and-behavior/why-is-there-no-generic-insulin

アメリカにはI型糖尿病・II型糖尿病の患者を合わせると合計2580万人の糖尿病患者がいて、患者の約25%にあたる670万人が糖尿病の治療にインスリンを使っているそうです。糖尿病は適切に治療しないと命の危険もある病気ですが、保険適用外の場合はインスリン投与に月120ドル~140ドル(約1万4000円~1万7000円)がかかるとのこと。

by Alden Chadwick

糖尿病の情報をまとめたサイトInsulin Nationが2014年に糖尿病患者へのインタビューを実施した結果、ある患者は、インスリン代を捻出するために医者の往診と歯の治療をあきらめたと語ったそうです。また別の患者は、薬局でインスリンが安く売られているのを見つけたら多めに購入して、糖尿病を患っている家族や親戚にも分けていると明かし、インスリンが高価であることの問題点が判明しています。

by Tim Parkinson

医薬品の特許が切れると、他の製薬会社が同じ成分・効果をもつジェネリック医薬品を製造することが可能になります。新薬発見と開発のコストがかからないため、ジェネリック医薬品は先発薬よりも安く販売されます。インスリンの特許は1923年に初めて登録されて約90年が経過しているので、既に安価なジェネリック薬が登場していてもおかしくないはず。しかし、「製薬会社による度重なる特許更新」と「薬の複製の難しさ」から、後発の製薬会社がインスリンのジェネリック薬製造に前向きではない、という現実があります。

1923年の特許登録から、薬の効き目を速くしたり、効果が長時間続くようにしたり、より純度の高い錠剤を作ったり、という細かな改良を加えていくことで、製薬会社はインスリンの特許権を継続させています。また、インスリンは他の薬よりも複雑な構造をもっているため、複製が難しく、FDA(アメリカ食品医薬品局)もインスリンについては他の薬より厳しい基準を課しています。さらに特許更新のたびにFDAの基準も変更されるので、インスリンのジェネリック薬開発は、労力に見合う成果を得られないとのこと。これらの理由から、インスリンの特許を保有する製薬会社がいつまでもインスリンを高値で売り続けているのです。

by Sarah

現在、アメリカのジェネリック薬製造会社Boehringer IngelheimがFDAに対してインスリンのジェネリック薬「Basaglar」の販売許可を申請中ですが、ジェネリック薬が市場に現れるまでには、早くても10年、長ければ50年以上かかる見込みである、とPacific Standardは分析しています。

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log