伝説の麻薬王エル・チャポが「トンネル」を掘りまくって脱獄・密輸・逃走に利用した仕組みをムービーで解説
メキシコの麻薬密売・密輸組織であるシナロア・カルテルはメキシコ最大の犯罪組織であり、メキシコ国外にも影響力を広げています。別名「エル・チャポ」とも呼ばれるシナロア・カルテルの最高幹部であるホアキン・グスマンはトンネルを利用して麻薬の密輸するだけでなく刑務所からの脱獄にも成功していましたが、エル・チャポがどのようにしてトンネルを麻薬密輸・人身売買・脱獄に利用していたかを解説するムービーがYouTubeで公開されています。
El Chapo's drug tunnels, explained
刑務所の独房内に設置された監視カメラに映っている人物が、「史上最大の麻薬王」とも呼ばれるエル・チャポ。
2015年、世界で最も有力な麻薬密売人のエル・チャポは……
刑務所内からの逃走に成功しました。監視カメラに記録された映像では、エル・チャポがついたての向こうにあるシャワーへと姿を隠したようにしか見えません。
しかし、それきりエル・チャポは刑務所内から姿を消し、「世界で最も裕福で悪名高い麻薬王が刑務所から脱獄」と世界中のニュースを騒がせることになりました。
いったいどのようにしてエル・チャポが独房からの脱獄に成功したのかというと……
シャワーを浴びるスペースの床にエル・チャポは穴を掘り、そこから逃げ出したのです。
シナロア・カルテルは非常に残虐な麻薬密売組織であり、メキシコ国内で数千人もの人々を殺害したとされています。
麻薬組織と当局、そして対立する麻薬組織間での抗争は「麻薬戦争」とも呼ばれ、拷問や大量殺人を引き起こしてきましたが、エル・チャポを特異な存在にしているのは暴力ではありません。
エル・チャポが麻薬組織を成長させてのし上がり、2015年の大脱獄を成功させたシステムこそがトンネルだったのです。
1990年、メキシコとアメリカの国境沿いにあるアリゾナ州ダグラスで奇妙なものが発見されました。
それは、ドラッグを運ぶためにメキシコからアメリカまで掘られたトンネル。
連邦捜査官はトンネル内に入ると驚いたそうです。
トンネルの長さは300フィート(約90m)、電気も通されており内部は照明で照らされていました。
油圧式リフトを動かすと……
隠れ家にある秘密の入り口を開く仕組みになっていたとのこと。
まるでスパイ映画に登場するようなこのトンネルは、エル・チャポに協力する建築家によって設計されたものでした。
1980年代、アメリカへの麻薬取引はカリブ海を経由して密輸されるコカインが主流でしたが、アメリカの取り締まりによってカリブ海のルートはうまく機能しなくなってしまいました。
そこでアメリカへの麻薬密輸はメキシコを通るルートが主流となりましたが、ちょうどその頃にエル・チャポはメキシコで麻薬組織を立ち上げたのです。
コカインの原料となるコカの木は南アメリカを中心に栽培されていましたが……
マリファナはメキシコの西海岸にある山脈付近で栽培されていました。
また、アヘンやヘロインの原材料となるケシもほぼ同じ地帯で生産されているとのこと。
シナロア・カルテルが本拠を置くシナロアでは、マリファナもケシも栽培されています。
マリファナはかさばって重く、匂いも強いものですが……
エル・チャポはトンネルを使用することによって、一気に大量のマリファナを国境を越えて密輸することができたのです。
2010年までにエル・チャポのシナロア・カルテルは勢力を拡大し、アメリカとの国境沿いもシナロア・カルテルの勢力下に収まっています。
そしてシナロア・カルテルの密輸に重要な地点となったのが、カリフォルニア州のサンディエゴのメキシコ国境沿いにあるオタイ・メサ地区。
オタイ・メサがエル・チャポにとって重要な地点となったのには3つの理由があります。まず1つがメキシコ側の交通拠点となるティフアナと、アメリカ側の交通拠点となるサンディエゴ、2つの都市に近いという点。ティフアナに集まった麻薬を国境の向こう側に運ぶことができれば……
サンディエゴのブローカーを通じ、一気にアメリカ各地へと麻薬を運ぶことができます。
次に、ティフアナには空港があり、オタイ・メサには工業地帯が広がるという点。交通量が多くて騒音もひどく、麻薬を運んでいても捕まる危険性が少なくなります。
最後にオタイ・メサ近辺の土壌が、シナロア・カルテルにとって重要な点でした。オタイ・メサの西は海に面しており、土壌は弱くなっており……
東は山岳地帯で固い土壌が広がります。
オタイ・メサはその中間に位置し、手作業でも地面が掘りやすい一方でトンネルが崩れにくいという、トンネル掘削にうってつけの土壌となっているとのこと。
2010年、アメリカの捜査官はオタイ・メサに掘られたトンネルを発見。
内部には電気照明と換気システムが備えられ……
建設中には内部のがれきを撤去し、建設後には麻薬の輸送に使われたと見られるレールまでありました。
その後も大規模なトンネルが次々と発見されたそうです。
トンネル建設には数カ月もの期間と数億円の費用がかかると見られていますが、トンネルにはそれだけの価値があります。大規模なトンネルを使えば密輸業者が一気に大量の麻薬を運ぶことが可能となり、膨大な利益を得ることが可能となります。
シナロア・カルテルはバスルームやトイレの床下にトンネルの入り口を作る傾向にあり……
深く掘られたトンネルは容易に検知できません。地上近辺では、入り口がカモフラージュによって非常に分かりにくくなっているそうです。
また、エル・チャポがトンネルを利用したのは麻薬の密輸だけではありませんでした。2014年にメキシコ当局がシナロアでエル・チャポの隠れ家を襲撃した際……
エル・チャポは浴室の下に隠されたトンネルから逃走。
結局は数日後に拘束されましたが、エル・チャポは隠れ家からの逃走手段としてトンネルを掘っていたのです。
そしてエル・アルティプラーノ刑務所に送られた1年後……
脱獄する際にもトンネルを利用しました。
これはシナロア・カルテルによって掘られた最大のトンネルとされており、トンネルの出口は刑務所からおよそ0.7マイル(約1.1km)離れた場所に作られていたとのこと。
脱獄の1年前までその場所には何もなかったということから、シナロア・カルテルがエル・チャポを脱獄させるためだけに出口をカモフラージュする建物を建設していたことがわかります。
トンネルの下にはバイクが運び込まれており、エル・チャポはトンネル内をわずか10分で移動したそうです。
エル・チャポは一部で「貧者を救う義賊」としてもてはやされる傾向にあり、シナロアでは人々が脱獄を祝う様子も見られたとのこと。
しかし、2016年には再びエル・チャポの隠れ家が当局によって襲撃され、エル・チャポは再び拘束されました。
この際もエル・チャポは鏡の後ろに隠されたトンネルを使って下水道へと逃げ出しましたが……
マンホールから現れたエル・チャポはあえなく逮捕されたそうです。
記事作成時点では、エル・チャポは身柄をアメリカに移されてニューヨークで裁判が行われています。
エル・チャポが裁判所まで移送される際は厳重体制が敷かれているとのこと。
しかし、エル・チャポが拘束されているとはいえ、エル・チャポが残した組織による犯罪は途絶えることがありません。2018年には2つのトンネルが発見され……
建設中に発見された片方のトンネルには、太陽光を用いて動作する換気システムまで備えられていたそうです。
メキシコではいまだに麻薬組織による殺人や抗争が絶えず、非常に危険な状態が続いています。
・関連記事
薬物の取り締まりはなぜ失敗するのか、どうすれば撲滅できるのかを解説したムービー - GIGAZINE
「英雄」と呼ばれる麻薬王パブロ・エスコバルは一体どれぐらいすごいレベルの大富豪だったのか? - GIGAZINE
メキシコの麻薬戦争をリアルに描いた映画「ボーダーライン」のスピンオフ作品「SICARIO:Day of the Soldado」の予告編映像が公開 - GIGAZINE
メキシコは「修羅の国」という噂の通り危険な国でした - GIGAZINE
麻薬戦争と麻薬ビジネスの戦慄すべき実態を物語る衝撃的な写真集 - GIGAZINE
8トンのコカインを搭載可、最新の麻薬密輸用潜水艦 - GIGAZINE
900人の殺害に関与したメキシコの殺し屋組織のリーダーを逮捕 - GIGAZINE
クリント・イーストウッド監督本人が主演を務める80代の麻薬の運び屋を描いた映画「THE MULE」予告編が公開中 - GIGAZINE
・関連コンテンツ