「金よりも高価」といわれる宝石から作った顔料「ウルトラマリン」を使った絵画あれこれ
by cwizner
世界で最も高価な「色」と呼ばれる、宝石「ラピスラズリ」を原料とした顔料は、海路でヨーロッパまで運ばれたことから「海を越えた色」という意味を込めて「ウルトラマリン」と呼ばれます。画家を借金の泥沼に陥れたというウルトラマリンが芸術作品でどのように使われていたのか、その作品がハーバード大学美術館のブログ記事でまとめられています。
Artists and Their Tools | Index Magazine | Harvard Art Museums
https://www.harvardartmuseums.org/article/artists-and-their-tools
Lapis Lazuli: A Blue More Precious than Gold
https://hyperallergic.com/315564/lapis-lazuli-a-blue-more-precious-than-gold/
ウルトラマリンは古くは紀元前6~7世紀の壁画で使われ、その人気が頂点に達したのはルネサンス期のヨーロッパでした。イエス・キリストの母である聖母マリアが身につけた青いローブなどでしばしばウルトラマリンが使われたといいます。1453~1454年に描かれたフラ・アンジェリコによる「Christ on the Cross, the Virgin, Saint John the Evangelist, and Cardinal Torquemada」でも、青い衣装にウルトラマリンが使われていました。
by Harvard Art Museums
18~19世紀になると、絵の具を乾燥から防ぐため、現代の絵の具のチューブの前身となる、動物のぼうこうや象牙を使った入れ物が作られるようになりました。そしてこれと同時にラピスラズリは瓶に入れて保管されるようになります。
実際に使われていた顔料とその入れ物がこんな感じ。
ハーバード大学美術館のコレクションでは、このように顔料がカラーホイールに従って陳列されているとのこと。
顔料の数々は1909年から1944年までハーバード大学に付属するフォッグ美術館の館長だったエドワード・W・フォーブスによって集められたもの。フォーブスは素材の性質によってアートを理解しようとするという、それまでになかったアプローチを試みました。このような科学的アプローチによって絵画や美術品の管理者は色の劣化、特にラピスラズリのように、新しく登場した合成の顔料によって使われなくなった「時代遅れの」顔料について理解を深めることが可能になりました。
ウルトラマリンがなぜ人気を博し、画家の支援者たちが膨大なコストをかけても作品にウルトラマリンを使いたがったのかというと、その理由の1つにラピスラズリによる顔料が歴史的な「伝説」を持っていたことが挙げられます。ラピスラズリはツタンカーメンの石棺や、クレオパトラのアイシャドーとして使われていました。スパイス貿易と同じ長いルートを辿らなければならないこともあり、非常に希少価値が高く、美術品にウルトラマリンを使うことが名誉あることだとされたわけです。
ウルトラマリンを絵画に多用したことで有名な画家の1人がヨハネス・フェルメールです。フェルメールの絵画についてロンドンのナショナルギャラリーは「全体的な色の効果は統一されていますが、それでもウルトラマリン特有の存在感は、コレクターたちに対する絵の知覚価値をあげています」と説明。多くの画家は空を描くためにラピスラズリを多用することをためらい、細かなディテールに使って効果を高めるという使い方をしますが、フェルメールは「ヴァージナルの前に座る女」という絵画でカーテンにラピスラズリの明るい青を大胆に使い、カーテンが輝いているような効果を与えました。また、女性のドレスではターコイズの緑と混ぜて使われ、女性の手の影を強調するためにもウルトラマリンが使われています。
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有名な「真珠の耳飾りの少女」でもラピスラズリの輝くような青い色彩が見られます。
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フェルメールは、ミケランジェロやフラ・アンジェリコのような宗教的モチーフを題材とする画家に続く形でウルトラマリンを使うようになったといわれています。時期的にはフラ・アンジェリコの方が先だったこともあり、ウルトラマリンは「フラ・アンジェリコブルー」とも呼ばれているとのこと。
ペルジーノの「Polittico della Certosa di Pavia」や……
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ジョヴァンニ・バッティスタ・サルヴィの「The Virgin in Prayer」でもウルトラマリンの鮮やかな青が目を引きます。
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バチカン宮殿のシスティーナ礼拝堂に描かれた、ミケランジェロの「最後の審判」でも空の青さを表現するためにウルトラマリンが使われました。
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ティツィアーノ・ヴェチェッリオの「バッカスとアリアドネ」でも、空や、風になびく人物の衣装にウルトラマリンが使われています。
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その後、1826年に合成ウルトラマリンが登場してからも、ウルトラマリンの価値の高さは続きました。イヴ・クラインは「インターナショナル・クライン・ブルー(IKB)」としてラピスラズリを使った顔料の特許を取得し、IKBを絵画に大量に使用しました。熱狂的にウルトラマリンが使われることは少なくなったものの、依然としてラピスラズリの人気は高く、2016年にThe Guardianはラピスラズリの違法採掘について伝えています。芸術における重要性が薄れても、ラピスラズリの所有はいまだに権力を表しているとのことです。
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