「聖戦士ダンバイン」のプラモデル造形やデザインをデザイナー・湖川友謙を交えて熱く語った「模型言論プラモデガタリ」レポート
「プラモデルを、模型を、造形を、キャラクターを語る」ためのトークイベント「模型言論プラモデガタリ」が2019年1月10日(木)、阿佐ヶ谷ロフトAで開催されました。登壇したのはフリーライターの廣田恵介さん、フィギュア原型制作会社・エムアイシーの秋山徹郎さん、アニメーション研究家の五十嵐浩司さん、そして「聖戦士ダンバイン」「戦闘メカザブングル」「伝説巨神イデオン」などでキャラクターデザインを手がけた湖川友謙さん。
プラモデルの実物や当時頒布されていた資料、雑誌の誌面などを用いて、「聖戦士ダンバイン」のオーラバトラーのプラモデルの話を中心に、造形やデザインについての話が展開されました。
模型言論プラモデガタリ – LOFT PROJECT SCHEDULE
https://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/106141
席は自由席で、開演前には空きテーブルはない状態に。
左から秋山さん、五十嵐さん、廣田さん。まずは「秋山徹郎のフィギュアがゆるかった時代」と題したトークが行われました。
これは「ザブングル・ダグラム プラモ大図鑑」掲載の、秋山さんによる「アニメフィギュア入門」のページ。当時、ロボットのプラモデルは点数が増えてきていましたが、キャラクターのフィギュアは非常に点数が少なく、特に「戦闘メカザブングル」はほぼ皆無でした。そこで秋山さんが自作したのが、このラグ。
同じく秋山さん制作「聖戦士ダンバイン」のチャム・ファウ。
そのチャムを、イラストレーターとして知られる開田裕治さんがディテールアップした作例はバンダイの発行していた「模型情報」に掲載されました。秋山さんによれば、開田さんにほぼ「描いてもらった」というほどのディテールアップだったとのこと。記事の下の方には「24分の1ダンバイン 戦闘服チャム初公開」の情報が掲載されています。
こうした、個人作品が金型に彫られることになったのは極めて大きなポイント。1/24ダンバインにはスケールに合わせたチャム・ファウもついてきましたが、そのサイズはおよそ2cmほどでした。左手人差し指の先にあるのが1/24ダンバインのライナーに付属したチャム・ファウ。右側に置かれた色付きの戦闘服チャムは1/5スケールです。
テーブル上に飾られた秋山さん制作のヒロインズ。ほとんどの自作作品は所有しているのですが、伝説巨神イデオンのキッチ・キッチンだけは1点ものだったため所有していないとのこと。
この「戦闘メカ ザブングル」や「聖戦士ダンバイン」のキャラクターを生み出したのが湖川友謙さん。ゲストとして登壇した湖川さんは「ラグはもうちょっとイイポーズなら素敵になったんじゃない?」「これはチャムですか?だとしたら、足はなぜこんなにスマートに?」と続けざまに秋山さんに質問をぶつけていました。キャラクターの足は湖川さんがこだわったポイントらしく、「もっとアトム的じゃないとダメなんです」と語ってくれました。
4人が揃い、話は1983年にどんなアニメが放送されていたかという話題へ。ロボットアニメとしては「亜空大作戦スラングル」をはじめとした以下のような作品が放送されていて、うち、「聖戦士ダンバイン」「装甲騎兵ボトムズ」「銀河漂流バイファム」がサンライズ制作作品でした。
1983年公開の劇場アニメは「幻魔大戦」「クラッシャージョウ」「宇宙戦艦ヤマト 完結編」の3強による戦国時代だったとのこと。湖川さんは「幻魔大戦」を見た後に富野由悠季さんと3時間も電話で話しをしたそうです。
このころ、ロボットアニメの玩具を作っていたメーカーの1つが「クローバー」。もともとは女児向けの玩具を扱っていましたが、超合金などの方向にも手を伸ばすようになったメーカーです。五十嵐さんによると「無敵超人ザンボット3」「無敵鋼人ダイターン3」「無敵ロボ トライダーG7」はかなり売れていたとのことですが、その後は苦戦し、1983年8月に倒産しました。
1982年放送の「戦闘メカ ザブングル」と1983年放送の「聖戦士ダンバイン」はいずれも富野由悠季監督によるロボットアニメですが、そのロボットデザインは大きく異なります。廣田さんは、特にダンバインのデザインについて「新奇性」を指摘しました。それはまず色に現れていて、ザブングルが「青・白」といかにもロボットらしい色で塗り分けられているのに対して、ダンバインは全身が紫色。合体・変形もしません。
このデザインは他のオーラバトラーとも相性のいいものでしたが……
作品後半に登場したビルバインは赤・青・白・黄色という古典的なロボットの色で塗られ、しかも変形が可能なので「ぶち壊した」と廣田さんは主張。湖川さんもダンバインのデザインの方が好きだとのことで、「ダンバインよりビルバインの方が人気だと聞くけれどなんで?」と疑問を呈しました。
色の「塗り分け方」には王道のパターンがあります。それは、上半身・肘から先・膝から先に濃い色を配置するというもの。先ほど見たダンバインは確かにこのパターンから外れていました。
「超時空要塞マクロス」に登場するバルキリーも、パターン破りのカラーリングをしていました。ところが、アーマードバルキリーでは先祖返りした塗り分けに戻ってしまいます。
「機動戦士ガンダム」も、下半身が真っ白というのは斬新です。もともとは下半身に濃い色が入る予定でしたが、安彦良和さんから「これじゃ前と同じになる」という指摘が入り変更されたものだそうです。ただ、こちらもMSV化で「前」と同じような塗り分けが出ることになります。
ダンバインの斬新なデザインの基礎を手がけたのは宮武一貴さん。そのデザインコンセプトには「勇者ライディーン」「仮面ライダー」「小さいロボット」という3つのキーワードがありました。「勇者ライディーン」とは神秘的であるということ。「仮面ライダー」は合体・変形しなくてもフォルムで魅せられるデザインであるということ。「小さいロボット」というのは、大きすぎるロボットでは地上にいる人との会話演出に難があるため。
「ロマンアルバムエクストラ 聖戦士ダンバイン」掲載の富野由悠季監督によるコンセプト画。もともとは「大魔神」的なデザインだったものが、「昆虫」へと移行していきます
湖川さんはダンバインでメカデザインを担当した宮武さんのことを「宮武」と呼び捨てで呼ぶのですが、これは親愛の情を込めていて、もともとはお互いに相手が年上だと思っていたのですが、調べてみると同い年だったそうです。ダンバインでは、宮武さんのメカデザインを湖川さんがクリンナップしています。湖川さんは「今は意味のないせんが多いけれど、スマートな方がいいでしょう?」とダンバインの格好良さを語りました。
この「ロマンアルバムエクストラ」収録の湖川さんによるスケッチは、すべて万年筆で描かれたとのこと。「ちょっと変わったデザインがしたかった」ということで取り入れたのが、レプラカーンの「盾の中に剣を収納する」というギミック。こうした変わったデザインは「過去にあるものを出してもしょうがない」という湖川さんの考えによるもの。湖川さんが富野監督と組んだ「伝説巨神イデオン」では、突然富野さんから「色もやって欲しい」と言われて頭をひねったところ、ソロシップ側であまりにも色を使いすぎてしまったため、バッフクラン側でやむなく「白」を使うことになったそうです。
ビルバインのデザインについて「カッコ悪くてあまり好きじゃない」と語った湖川さんですが、脚部デザインについては「カッコいいと思わなかったら作らない」と気に入っている様子を見せました。ただ、富野監督はこのデザインをあまり気に入らなかったとのこと。
五十嵐さんが示したのはクローバーの「SFファンタジーフィギュア」シリーズ。メインアイテムは「1/46 ダンバイン」で、一部ダイキャストが使用されていました。この写真に湖川さんからは「顔の真ん中にあるものは鼻の穴ですか?」とツッコミ。付属するオーラショットはザブングルからの流用だったそうです。
こちらはツクダオリジナルによりいずれも宮武デザインで立体化されたドラムロ、ビランビー、ダーナ・オシー。2月から番組の放送が始まるということで、放送合わせで発売されました。
おもちゃショーのカタログでは、おもちゃメインではなくジオラマを使った作例が大きく取り上げられました。
同じくカタログ内に掲載されたビルバイン。しかし「画像はあるのに説明が一切ない」と五十嵐さんの指摘。
この1/32ビルバインは、五十嵐さんによればできはよく、コックピットにはショウ・ザマも乗っていたとのこと。
変形もきっちり再現。
カタログに掲載されたダンバインのプロポーションを見て「どう考えてもダンバインじゃないよね」と厳しい湖川さん。五十嵐さんが指さす先にあるのは通称「黒箱」と呼ばれるダンバインのパッケージ。実際のプラモ発売時は白い箱で、この「黒箱」はダンバインアイスの景品用だったのではないかという話でした。
ちなみに当時、バンダイはMSVを展開していて、ライバルはMSVだったのではないかというのが廣田さんの指摘。「模型情報」でも、ダンバインのプラモデル展開が報じられた記事と、MSVの記事が並んでいました。
1983年5月の「模型情報」に新製品として掲載されたダンバイン。しかし、MSVはザクデザート。つまり、ダンバインよりも先に商品展開が進んでいたことを示しています。そしてこのダンバインが曰く付きのシロモノで……
1983年10月の「模型情報」に、「ファンにせめられダンバインの金型を改修してしまったのだ。」という記事が掲載されます。発売された製品の金型を改修するというのは異例のことで「作る前に俺を呼んでくれれば……」とは湖川さんの弁。
湖川さんは「伝説巨神イデオン」のときはキャラクターデザインだけではなく、一部の重機動メカのデザインも担当。その際、ロッグ・マックとガンガ・ルブでは五面図を作成したとのことで、おかげでプラモデルはデザインにそっくりなものが完成。特に、ガンガ・ルブは湖川さん自身が「俺のデザインそのまま」と認めるものだったそうで、五十嵐さんが「すごいなアオシマ!」とメーカーを褒める場面も。
ダンバインに戻ると、顔面の造形が不評だったことからバンダイは金型を改修して対応を行いました。今回、廣田さんが実物をオークションで購入して持ってきてくれたのですが、なんと改修後の頭部も一緒に入っていたとのことで、こうして比較することが可能に。スクリーン上で左手の指先でつままれているのが改修後、その右下が回収前の頭部パーツ。陰影からも造形の違いがわかります。
脚の爪も、やや生物的なデザインに変更されています。
金型をわずか1年間でここまで改修されたのはまれな事例ですが、「模型情報」内の記事「3D Jam」にダンバイン改修方法が掲載されるほどに、バンダイ自身でも出来の悪さは認めていたのかもしれません。ちなみに、模型化に際しては「可動を生かす」方針だったとのことで、湖川さんは、可動をもうちょっと殺していたらなんとかなっていたかもとコメント。
オーラバトラーのプラモは体の横幅が広いことがシルエットの格好悪さに繋がっていました。では、なぜ体の横幅が広いかということで廣田さんが示したのが1/72ダンバインの組立説明書。ダンバインは関節がジョイントではなく軸可動であり、前後に分割した胴体で挟み込む構造になっていました。胴体を前後にパーツ分割するということは正面が広くなるということでもあります。これは、当時発売されたザクIIも同様でした。
ところが1984年、オーラバトラーのプラモ第20弾であるレプラカーンと第21弾であるズワァースでは、胴体を左右に割るアプローチが取られました。廣田さんは、フォルムを追求するために左右で分割したのだと指摘。
代償として、レプラカーンは背部パーツを取り付けると自立できなくなりましたが……
セクシーと評されるフォルムを手に入れました。
さらに、腕部・脚部の可動のために、胴体内を貫く内部フレームを採用。指さしているのがフレームパーツ。
ダンバインより後年の「重戦機エルガイム」や「機甲戦記ドラグナー」では、そもそも作品自体にムーバブルフレームの設定がありますが、ダンバインでは設定としては存在しないにも関わらず、プラモデルのフォルムをなんとかするために内部フレームが生み出されました。
1984年4月に発売された1/144エルガイムは、胴体内に可動フレームを持ちますが、外装は前後分割でした。
一連の話を聞いた湖川さんは「五面図がなかったせいかもしれない」とコメント。実は、イデオンでもザンザ・ルブの時にはちょっと意地悪で「五面図は作ってみな」と湖川さん自身は描かず、「戦闘メカ ザブングル」と「聖戦士ダンバイン」のときはそもそも多忙で作ることができなかったのだそうです。「バンダイに要らぬ苦労をさせたかな……」とこぼした湖川さんですが、それも他のメカデザインの仕事があったからだと思いだし「あっ、お富さん(富野監督)が悪いのか」と会場を沸かせました。
また、昨今のロボットのデザインについて「やたら頭を小さくして足を長くすればいいというものじゃないです」と苦言を呈した湖川さんは、足は短くドラムロのようにすればいいとコメント。自分自身、O脚気味なのが若いときは気になっていたそうですが、それをダンバインの時に取り入れた結果、カッコいいシルエットができあがったというエピソードも披露しました。
第2回の「模型言論プラモデガタリ」は2月21日(木)19時30分から、片渕須直監督をゲストに迎えての「模型で読み解く、『この世界の(いくつもの)片隅に』」だとのこと。
第1回は、廣田さんの「30名ぐらいだろう」という予想を覆して81名が集まる盛況イベントでした。次回の参加を考えている人は、廣田さんのTwitterをチェックしておいてください。
【模型言論プラモデガタリ】第一回、来場者81名という盛況でした。大変ありがとうございました。
— 廣田恵介 (@hirota_kei) 2019年1月10日
第二回は、1/19(日)のお昼より前売り開始予定です。正式な告知まで、しばらくお待ちください。https://t.co/O0XSiDfjFp pic.twitter.com/UR3FWQjkNf
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