インタビュー

「我々は如何にして美少女のパンツをプラモの金型に彫りこんできたか」著者・廣田恵介さんインタビュー


本書「我々は如何にして美少女のパンツをプラモの金型に彫りこんできたか」は、ぱっとタイトルだけを見ると「女の子プラモのパンツの話」のようなタイトルであり、実際にそういったプラモのデータも掲載されています。しかし、データだけではなく、著者・廣田恵介さんが思春期に出会った「うる星やつら」のヒロイン・ラムのプラモデルを軸として、当時15歳の廣田さんはいかにしてこの因縁に囚われることになったのかという人生を追いつつ、そもそも誰がこのプラモデルにパンツをモールド(型として作ること)しようとしたのか、プラモデル界で美少女のパンツとはどういった存在だったのか、当時を知る人々にインタビューして事情を調べ上げた一冊です。

この本はいかにしてできあがったのか、そして廣田さんはこの本に何を込めたのか、本人にお会いしていろいろな話を伺ってきました。なお、話題の中に出てくるプラモの多くは書籍内に写真が掲載されています。

株式会社双葉社 | 我々は如何にして美少女のパンツをプラモの金型に彫りこんできたか(ワレワレハイカニシテビショウジョノパンツヲプラモノカナガタニホリコンデキタカ) | ISBN:978-4-575-31151-8
http://www.futabasha.co.jp/booksdb/book/bookview/978-4-575-31151-8.html


廣田恵介(以下、廣田):
2009年に「550miles To The Future」という同人誌を出して、その中の特集記事として「人類は、いかにしてプラモデルの金型にパンツを彫り込んできたのか。」と書いたんですが、これを双葉社の編集者が見て「本にしましょう」と声をかけてくれたのが、今回の本を作ったきっかけです。

GIGAZINE(以下、G):
おおー、同人誌きっかけ。あとがきにも書かれていましたね、このネタは鉄板の持ちネタでマチ★アソビでも語ったことがあると……。

廣田:
同人誌の時には、持っているプラモデルを集めて粗く整理しただけだったんですが、今回の本ではもっと内容を増強して、パンツがないものまで取り上げています。これは1979年にポピーが出した「花の子ルンルン」のプラモデルで、胴体をよく見てもらうとブラジャーとパンツを着用しているのがわかります。

G:
本当だ、首回りと腰回りに装飾が……。

廣田:
そして、兵隊フィギュアといえば「無名の大勢の兵隊」だったところを、1980年ぐらいから実在人物をモデルにしたものをタミヤが作り始めました。本にも取り上げたのが「1/25 ドイツ軍・ロンメル元帥」です。

G:
タミヤなんですね。

廣田:
このバンダイのガンダム『キャラコレ』はタミヤに影響を受けていますからね。台座がもうそっくりで、箱の大きさも一緒です。本の中では、当時静岡でガンプラの企画・開発・設計をなさっていた松本悟さんにお話をうかがっています。


G:
掲載されていたカタログの中で異色の存在だと思っていたロンメル元帥、こういうことだったんですね。

廣田:
コートの中は足元だけが作られています。

G:
さすがにパンツがモールドされていたらショックです(笑) このロンメル元帥は、なぜコートがパーツ分けされているんですか?

廣田:
足元を見てもらうと、ブーツがモールドされているのがわかりますよね。並べて足元が見えたときに、ブーツの上までは再現しているぞ、というのがあるのだと思います。必然性はあるわけです。

G:
なるほど、確かに。

廣田:
ところが、これはちょっと時代が下った1983年のイマイのプラモデルで、1/12のリン・ミンメイなんですが、パッケージだとチャイナ服を着ていて、足元から腰までスリットが入っていますよね。

G:
はい。

廣田:
特にミンメイなんて人気のある女の子キャラクターなのですが、中身を見てみると、前後に分割されたボディの中、チャイナ服のスカートの途中に仕切り板が入っていて、その下に膝下の足パーツを取り付けるんです。つまり、パンツを作る気がゼロなんです。

G:
ええー、パッケージのイラストから受けるイメージと違う!

廣田:
たぶん、「なぜこれをプラモデルにするのか」を考えなかったのでしょう。1970年代のアニメ、当時は「テレビまんが」と呼んでいましたが、イマイは「テレビまんがのキャラクターグッズでいいのだろう」と考えて、ファンがどう受け取るかまでは詰め切れなかったんでしょうね。

G:
1983年ということは、「キラメキラムちゃん」よりも後ですよね。

廣田:
「キラメキラムちゃん」は虎縞ビキニの上下と、足を上げたポーズなので盛り上がった腹筋も造形されているんです。それと比べると、「わかっていない」感じがあります。

G:
ラムちゃんの方は露出が多いせいかもしれませんが、太ももの造形もなんだか艶めかしいですね……。

廣田:
ラムちゃんを見て「この方向はアリなんだ」と気付いたメーカーが日東科学(ニットー)です。1985年に出たプラモデルで二重のちょっと変わったパッケージが採用されていますが、これにも意味がありまして、実はこの当時、ちょうどアダルトビデオが出始めたんです。つまりこの二重はVHSをイメージしているんです。

G:
なるほど、それでこのパッケージに!

廣田:
アイドルビデオだとかグラビア雑誌だとか、そういうところとリンクしたものがあるんです。これは「やるっきゃ騎士」の「1/8 美崎静香」ですが、「やるっきゃ騎士」という作品タイトルよりもキャラクター名の方が大きいというのもアイドル路線の影響があります。さらにはキャラクターの年齢を入っていたりするんですよ(笑)

G:
ああー、「それっぽさ」が増しますね。

廣田:
このあともうちょっと洗練されて、バンダイがパーツ部位ごとにカラー成形で色分けした「いろプラ」を出します。ところが、このころになるとプラモデルであるメリットがなくなってくるのでいったん流れは終息して、1990年代ぐらいから、今のPVC製の完成品が出る流れが現れます。

G:
1980年代前半がまるで特異点のようですね

廣田:
そうですね、ガンダムのキャラコレが出たのが1981年、「キラメキラムちゃん」が1982年、美崎静香は1985年……この時期にいろいろなものが登場したのは間違いないです。「キラメキラムちゃん」でも、この星形の台座は壁にかけられるようになっていましたが、誰がこのプラモデルを壁に飾るんだという話ですよね(笑) これはファンシーグッズの「お人形さん」から来た流れだと思いますが、でも、現在の「台座に据える」という方向がこの時期に生まれたという点は重要です。ただ、データ的なことはみんなが知っているので、今回、本にするにあたって編集者から「廣田さんがラムちゃんのフィギュアに出会ったとき、どう思ったんですか」と聞かれて、それに答えるものをというのがベースになっています。


G:
なるほど。

廣田:
僕がラムちゃんと出会ったのは思春期のど真ん中、プラモデルが好きで、「うる星やつら」も好きでした。でも、虎縞ビキニはいいけれどパンツは……という気持ちです。「ハイスクールラムちゃん」でパンツがモールドされましたが、僕はそういう性的な目線では見ていなかったので、「そういうつもりで見ていたんじゃない」という抵抗感がありました。でも、思春期であれば、反応してしまうのは当然のことでしょう。しかも、プラモデルは自分で塗らなければいけないものだから、最初から色が塗ってあればそういうものだと納得できただろうけれど「俺が色を塗るのか」という葛藤があるし、塗ったら塗ったで、スカートを接着すると見られないんだなと思っている自分が嫌なんです。

G:
虎縞ビキニはラムちゃんの代名詞のような服装ですが、制服の下のパンツはそうはいきませんもんね。

廣田:
しかも、説明書にもこのスカートを接着するところで「残念だなあ」と書いてある。これは全国の模型ファンに共通した思いだったとは思いますけど、そう思ってしまう自分が嫌だった。オタクっぽい人って、中学ぐらいになると自分の逃げ場をアニメとか、誰にも邪魔されない場所に求めますよね。ところが、高校ぐらいになるとそこが安住の地ではないことに気付くんです。パンツのモールドされたプラモデルがあると「こういうものにお前らは興奮しているんだろう」と思われかねない。こちらからすると、そんな単純なものではないけれど、かといって言い訳もできない。「じゃあ、僕はあのときどうすればよかったんだ」というのが、本書の裏テーマのようなものですね。


G:
一番敏感な時期を迎えたときに、さらに敏感にならざるを得ないアイテムがあった、と。

廣田:
結局、僕はうる星やつらから距離を置きました。作品を性的な目線で見る人は確かにいて、同一視されたくはなかったから。今だったら許せる気持ちはあります。

G:
このとき、うる星やつらを「完全に捨てた」と本にありました。

廣田:
プラモデルをライターで溶かしてましたからね、なぜそんなに恨んでいたのかと(笑) よっぽど嫌だったんだろうなと思いますね。でも、そうやって一周回ってきたからこそ、今の気持ちになったのだと思います。そういう気持ちを込めた本なので、「作者の自分語りがうざい」という人はきっと大勢出てくると思います。「パンツ文化を追った資料集として読みたい」という声が、きっとあると思います。でも、それだったら僕じゃなくてもいいんです。お金をかけてデータを集めて並べて、大勢で力を合わせてやれば、資料集やカタログならきっと誰にでも作れます。でもそうはしたくなかった。当事者意識のない、「このとき初めてパンツがプラモデルに刻まれました。そして文化が発展していき……」なんてことは、「最近のガンプラはすごい」と同じで、誰にでも言えることです。それを今更、50歳を目前にして作る意味が僕にはなかった。

G:
なるほど。

廣田:
僕にとっては10代は苦しくて、その苦しさを込めないと意味がなかったんです。学校は面白くないけれど、アニメやプラモデルは好きで、そこに救われてきたという人たち。「引きこもり」や「ニート」なんて記号化されますが、そういう人たちの青春はもっと複雑なものです。僕の青春もひどいものでした。それこそ、僕は大人になった今でも、社会はリア充のものだと思っています。すべての問題が大人になったら解決するかというと、しませんでした。そんな僕は、15歳でラムちゃんに出会って、そのスカートをどうするべきだったのか。その戸惑いの視点を持つ僕にしか語れないものがあると、そしてこのチャンスを逃すことはできないと思いました。

G:
それこそ廣田さんの人生を変えてしまったかもしれない「ハイスクールラムちゃん」ですが、これを買わずに通過するということはできなかったですか?

廣田:
買うまではそういうものだとは知らなかったんですよ。でも、「ときめきの聖夜」でラムちゃんに出会ってファンになったからには、キャラクターグッズとして購入するのは義務だろうと。そこで買ってみて、パッケージを開けてみたら、パンツがあった……。

G:
これ、線だけがモールドされているなら虎縞ビキニだと逃げられたかもしれないのですが、リボンがありますもんね……。

廣田:
しかも、これが公の商品として出ている。「乗り越えなければ」と思いました。

G:
塗らずに……とはいかないですか。

廣田:
いかないですね(笑)。当時はまだ「アニメ」という言葉はそんなに使われていなくて、一般の人は「テレビまんが」と呼んでいました。同級生も「マンガなんか見てておもしろい?」というような言い方でした。割り切って「ラムちゃんがかわいいから見てる」と言えればいいんでしょうけれど、僕はそこを避けて「いやいや、ギャグが面白いし、作品として優れているから見てるんだ」という気持ちでいたところに、「ときめきの聖夜」が放送されたので、恋心みたいなものが混じり込んでしまったんです。それがすごくやっかいで、「萌え」なんてないころですから、うまく処理できなくて「この気持ちはなんだろうな」と。当時、二次元少女に恋をするというのは「ビョーキ」とカタカナで表記されていて、テレビでは山本晋也監督が「ほとんどビョーキ」という言葉を流行らせていた。ちょっと変わった性的な欲望という意味では「ビョーキ」なのかなと思ったけれど、エロ同人誌はすごく嫌いだったので、そっちには行くまいと思っていました。

G:
エロい同人誌を好んでいた人たちは一線を引いて、あちらとは違うぞ、と。

廣田:
尊いものというか、清いもの、恐れ多いものという見方だったんです。僕が女性を描くとしたらかわいく描くとは思いますが、「かわいい=性欲の対象」ではないです。単純に「オタクな奴らは二次元の少女を脱がしたいんだろう」と思われている節がありますが、むしろ、脱がしたくないんです。たとえば宮崎駿監督も「風の谷のナウシカ」で、ナウシカの胸をあんなに大きく描いたのに、いざお風呂に入るシーンだとすごく小さくなっているんです。インタビューの中でその点について「恐れ多くて描けない」と答えていて、そうだろうなと思いました。ヒロインと主人公との恋物語はあっても、そこからセックスには直結しないんです。マンガの中だと「セックスのない世界」がありえますよね。この後に出てきた恋愛シミュレーションゲームでも、恋愛が成就すると「終わり」です。代表的な作品である「ときめきメモリアル」でも、パンチラは確かなかったと思います。

G:
「恋愛シミュレーションゲーム」はゴールが告白であることが多いからか、すごく健全なイメージがありますね。

廣田:
告白されたらそこで終わり、じゃないですか。これはアリだな、と。高校時代に性欲の混じり込まない恋愛をするというのは、ひとつの理想というか、神聖なものなので侵してはならないという気持ちはいまだにどこかにあります。僕は30歳も近くになってから恋愛シミュレーションゲームにハマって、「トゥルー・ラブストーリー」というシリーズなんですけど、結婚してからもプレイしていました。奥さんから「キモい」とメールが来て、「そういうところが嫌なんだ」と言われて離婚しました。

G:
ゲームは結婚生活とは別のものとしてですよね?

廣田:
別物としてですが、30代はずっとやってました。やっぱり二次元の絵というのがよかったんでしょうね。今は、二次元の絵が好きな人は当時と比べて桁違いに多いと思います。二次元趣味はすべてが変態的な性欲ではなくて、なかなか終わってくれない思春期を救ってくれているのだということは言いたいです。なのに、性犯罪と二次元やフィギュアはやたら関連づけられて、やり玉に挙げられることがあります。「フィギュアは児童ポルノではない」ということについては、僕は2回も反対署名を集めました。僕らのような青春を経験していない人にはわからない部分で、「オタクはキモい」というイメージにしたいんでしょうけれどね。でも、性犯罪をする人にはリア充が多いですよ。オタク的な人もゼロではないけれど、たとえば痴漢を捕まえてみたら奥さんがいることは珍しくありません。

G:
社会的な地位のある人が性犯罪を犯す話は耳にします。

廣田:
公務員とか警察官とか、ありますよ。僕はその人たちを責めます。女性の人権を踏みにじっているわけですから、その点において責めるわけです。エロいから責めるわけではない。いま、いわゆる児童ポルノ禁止法は「性的に興奮するから禁じる」ということになってしまっているけれど、性的な興奮は関係ないです。児童の人権を踏みにじっているから禁止するんです。警察には何度も電話して「どういうものが児童ポルノになるのか」と聞くのに「いや、一概には言えません」と。それなら何とでも言えちゃう。

G:
うーん……。

廣田:
性的に興奮するかどうかではなく、人権を踏みにじっているものを禁止するという、そういう趣旨の法律でしょう。興奮するかどうかの基準になる一般男性はいったいどこにいるんですか。「男性が興奮したらNG」とか言う人たちが文化を殺すんです。ちょっとそれるかもしれないけれど、10月に上演される「美少女戦士セーラームーン」のミュージカルで、15歳のアイドルが役を降板することになったんです。それは昔、彼女がジュニアアイドルとしてDVDなどを出していたのが原因のようなのですが、別に販売禁止になるようなものではなかった。でも、「セーラームーンが汚れる」「イメージが悪くなる」という人がいる。むしろ自分はどれだけキレイなんだと僕は思います。「自分だって汚い」ということを認めないと。僕はラムちゃんのスカートを外せるようにしてパンツが見えるようにしたとき、「こんな俺は汚い、作品に泥を塗っている」とさえ思いました。でも、どこかで折り合いを付けるというか、受け入れるんです。すべてがキレイでカッコイイなんて、それはウソをついて生きていますよ。僕の本を「こんな下品なものを」って思う人もいるだろうけれども、僕はこのパッケージを作ってきた人たちを裏切らない。先ほど言った「1/8 美崎静香」は新田さんという方がパッケージ・デザインしたのですが、話を聞いてみると、やはりちょっと後ろめたい気持ちを抱えながらもこれを作ったと。そのサービス精神を裏切りたくないし、他人事とは思いたくない。恥ずかしさを通過してきたからこそ、今のフィギュア文化の隆盛がある。自分だけが嫌な思いをしたくないというのは虫がよすぎるのではないか……というのが、一番いいたいことなのかもしれません。


G:
今のフィギュアはPVC製のものが多いのではないかと思うのですが、プラスチック製だったプラモデルから連綿とつながりがあるのですか?あるいは、どこかから派生していたり……?

廣田:
詳細なところはぜひ別の機会にやれたらと思っています。ガレージキットとして過激なものが出たり、折り合いを付けながら「パンツは見せてもいいけど、それ以上はやるな」とか「公式フィギュアだけれどちょっとエロい感じで」とか、いろんな「乱反射」のようなものがあって、落ち着くところに落ち着いたのではないかと思います。ただ、僕から見ると、市販されているフィギュアは「1種類」のような気がします。概念が同じというか、構造が同じというか……かわいくて、適度にパンツが作ってあって、見ようと思えば見られて、色もきれいに塗ってあって。「こんな個性的なもの、よく売ってるな」なんてものはほとんどありません。プラモデルを買う人にしても、そこそこ保証された品質しか見ていないんですよ。キャラクターが好きで買うから当たり前かもしれませんが、模型というものの本質ではないという気がしています。

G:
ふむふむ……。

廣田:
ロンメル将軍のところからつながっているものはあります。物を見る角度、色を塗る以前の「メーカーが何を考えてこういうものを作ったのか」といった部分で、いろいろと評価するところ、語れるべきところがあります。パッケージを含めて、何かしらチャレンジしたところがあるわけなんですが、そういうところを今の模型文化や模型ジャナーナリズムはなぜか見落としています。「キレイに塗って、できの悪いところを改造しましょう」という考えなんです。僕は、できの悪いところはそのまま受け入れて、じゃあなんでできが悪くなっちゃったのか考えた方が面白いんじゃないかと。ニットーの美少女プラモにしても、瞳のデカールが6種類ついているんです。なぜ6種類もあるんだろう?というのは面白い。美崎静香には顔が2種類あります。「なぜ?」って思いますよね。


G:
見比べてみると口のあたりがちょっと違うんですね。

廣田:
「だからどうした」みたいな感じですよ(笑)。 でも、何がおもしろいのかをどこかにみつけて、それを誰かが言わないと、この文化はこのまま死んでしまいます。パンツの歴史の話に戻ると、「○○年にコレを出した」というだけなら誰でもできます。でも、「なぜパンツにこだわるのか」というところを、自分の心に聞いて解き明かさないと。この「自分の心に聞く」というのは勇気が必要なので、誰にでも求められるものではないと思う。僕はたまたま勇気があったので、今回こういう風にしました。

G:
廣田さんが一周回って戻ってこられたからこそですね。

廣田:
そうですね、一周回って余裕ができたからこそ「いいよねコレ」と言えるというのはあります。単に「懐かしい」とか「レアだから」という理由でやったわけではないです。たとえば、マチ★アソビで「フィギュアメーカーのデザイナーの仕事ってどんな仕事?」というトークイベントをさせてもらったとき、中身はプラモデルのパンツの歴史の話でしたけれど(笑)、ビニールを開けるとニコ生で「開けちゃうんだ」というコメントがありました。そうじゃないぞ、と。僕たちは、成形されている状態に込められたメーカーの意図や、ここから何を感じるかというところを大事にすべきと考えていて、ビニールを開けずに箱に入れたままにしておくのでは意味がない。もっと「自分の物、自分たちに向けられた物」だと思いたい。自分たちが買った物なので。自分たちの物としてどこを見るべきか。それを他人事のように「この時からラムちゃんのパンツが作られるようになりました」と切り離すのはちょっと違うのではないかと。

G:
切り離すと、データとして置いておくという感じですね。

廣田:
なぜキャラクターのプラモデル、フィギュア、立体物に興味を持ったのか。そもそも、なぜアニメファンになったのか、なんでこんなオタク趣味になってしまったのかというところを突き詰めると、どうしても暗い話にならざるをえない。人付き合いとか、親との折り合いが悪かったとか、学校で友達ができなかったとか、そういうところにつながってくる。それを誰も語ってこなかった。オタク論みたいなものはいっぱいあっても、すべて他人事でした。僕は自分のこととして言うべきだと思ったし、みんなにもそうしてほしいと願います。

G:
暗い話に……ということですが、本の中には、高校の時のプラモデル仲間も出てきます。

廣田:
確かにいましたが、意見が違うんですよ。仲間の中でエロ同人誌に思いっきりはまっているやつもいました。彼からは「なんでお前は買わないんだ、うる星やつらが好きなんだろう」と言われました。向こうからすれば、好きなアニメのエロ同人誌を買って当たり前。でも、僕は好きだからこそ買わない。「あ、違うんだな」と思いました。

G:
同世代で「ハイスクールラムちゃん」などを買った人はいませんでしたか?

廣田:
これを買ったやつはいなかったですね。ミンキーモモを買ったやつはいました。そいつは前からミンキーモモが好きで、でも僕は女児向けのアニメに高校生がはまるのは不健全だと思っていたので、「それはちょっとどうなの?」と思っていたという(笑)。彼のよかったところは、性格が明るかったことと、公認の彼女がいたことですね。彼女に文句を言われながらもやっていたので、きっと幸せな青春だったのかもしれない。


G:
廣田さんがプラモデルに入られたのは、ロンメル将軍とかミリタリー系から?

廣田:
そうです。タミヤの1/35のミリタリーミニチュアの戦車やジープ、歩兵とか、そっちからですね。そのうちにガンプラブームがやってくるんですが、ガンダムも作るけど戦車も作るという感じでした。

G:
そんな中で、バンダイがララァやイセリナなど女性キャラクターのプラモデルを出してきたと。

廣田:
イセリナはなぜいるのか分からないですね(笑)

G:
ララァは重要キャラクターですが、イセリナはいま振り返っても出番が少なく、キーというキャラクターでもないですもんね。

廣田:
3話ぐらいしか出ていないですね。代わりに、せめてミライさんは出すべきだろうと。でも、そこのズレみたいなものも面白い。変わったラインナップですよ。

G:
その中で、フラウ・ボゥのプラモデルが、実は木型だとパンツまで彫られていたということを本書で知りました。

廣田:
あれはちょっと嬉しかったです。木型職人の諸星さんとしては作りたかったという気持ちがすごく伝わりました。

G:
実際にはスカートの中はペタッと埋められてしまっていたわけですね。

廣田:
金型の都合上、難しかったんでしょうね。でも、パンツは再現すべきだなと思いました。アニメでも影になったときには黒で塗られるから、プラモデルでも黒く塗っちゃえばいいかなと当時は思ったんですが、そうではない。

G:
話は変わりますが、今回の本を出すにあたって模型誌からの取材などはなかったのでしょうか。

廣田:
来ていないですよ、「廣田さんが勝手にやるならどうぞ」という感じです(笑)。模型誌は「うまい人に作ってもらって模型はナンボ」というスタンスがあって、「ダメなところは改造しよう」というんです。でも、なぜメーカーはこう設計したのか、どれだけつまらなく見えるものでも、何かがあるはずなんです。ダメならダメなりに、なぜダメなのかを考える価値がある。模型誌のいう「ダメなところは改造」だと、「どうしてこうなっちゃったんだろう?」みたいな部分がなくなってしまって、もったいないなと思います。今、僕は作る前のプラモデルのどこが優れているのかという記事を書いたりしています。うまい人はうまく作ればいいですが、それとは別の価値として、色を塗らなくても面白いよね、作らないで眺めるだけでも面白いよね、という文化が発達していないなと感じています。


G:
プラモデルには「作らないと、塗らないと」というハードルは感じますね。

廣田:
いやいや、塗らなくてもいいんですよ。ちょうど昨日、戦車の模型を作りましたけど、色は塗っていないですから。それでも十分おもしろい。ガンプラにしても、見ただけで100人が100人「すごい」と言うものになっていますが、みんながそこしか言わない。

G:
というと……?

廣田:
説明書を見てごらん、と。いろいろな武器の設定が書いてあったりするんですが、バンダイが悪ノリして「そんな設定、今までなかったじゃん!」みたいなことが書いてあったりしますから(笑)。たとえば、グフはヒートロッドというムチみたいな武器を持っていますが、その材質が、金属ではなく特殊な材質だと書かれていて「ガンダムの歴史に新たな1ページを加えてやった」みたいな思いが伝わるんです。

G:
知らなかった……。

廣田:
ジオン軍のモビルスーツでビームサーベルを装備するのはゲルググからなんですが、テレビアニメを見ると、どう見てもグフの持っているサーベルがビューンと光が伸びるビームサーベルっぽいんです。「どういうことなんだ?」と。これが、プラモデルだとビームではなく「高分子化合物の発熱体」と書かれている。これが公式設定ではないかもしれないけれど、面白いですよね、

G:
ヒートサーベルとか呼ばれるアレですね。

廣田:
メーカーさんが「ここを見てくれ!」というところを見るだけではなく、他のところを見ないと。そこにこそ、もう1つの面白さがあるんです。「俺だけが発見した魅力」みたいな目線があってもいいはずですよね。「こういう基準でプラモデルを集めている」とか。僕は、プラモデルで成型されたアニメ美少女があったら全部買うようにしています。「ガールズ&パンツァー」も作品としてそこまでファンではないですが、プラスチックモデルキットがあったら買っています。

G:
「ガールズ&パンツァー」は戦車と女の子がセットだから、ありそうですね。

廣田:
あとは「メカトロウィーゴ」に、「日常」のはかせとなの、坂本のおまけがついてくるものも買いました。アニメ美少女がプラモデルという制約の中で形になるのが楽しいんです。手で作ったりガレージキットで作ったりするのは結構当たり前なので。パンツのあるなしに関係なく(笑)、そういう「メーカーさんが金型にアニメ美少女を放り込む」ということ自体がおもしろくて喜ばしいんです。これが面白く感じられるようになったのは、先ほどお話ししたような、高校時代のもやもやしたところがあって、そこをくぐり抜けたからなのかなという気がしています。

G:
PVC製のフィギュアの女の子はとても多い気がするのですが、今でもプラモデルの女の子はそこそこ出ているものですか?

廣田:
MAX渡辺さんのマックスファクトリーが、「MaxFactoryプラスチックモデルシリーズ」とその後継の「PLAMAX」というシリーズで、オリジナルの軍服を着た女の子を、わざわざプラモデルで出しているんです。

PLAMAX MF-01 minimum factory ネーネ


G:
おおー。

廣田:
ちゃんとパンツも作ってあり、太ももをぐっと押し込んで接着するんです。プラモデルであるという制約、そして色分けするというところも含めて、エンターテインメントになっていると僕は絶賛しました。組み立てること自体がエロい行為になっていて、工程を楽しめることになっているんです。これはすごいことで、ユーザーの心理を「分かりすぎている」と思います。もっと無神経でもいいのにと(笑)

PLAMAX MF-02 minimum factory バーニー


G:
いやー、これはすごい……。

廣田:
2016年8月の新商品として「リン・ミンメイ」がラインナップされていますが、すごくいいですよ。見せてもらいましたが、もはや神の領域、「色を塗っちゃいけない」とすら思います。

PLAMAX MF-04 minimum factory リン・ミンメイ -愛・おぼえていますかVer.


G:
塗らないプラモデル。

廣田:
これはパンツが別パーツで、衣装の色とかもきれいで、これはこういう表現なんだと納得です。もう、色を「塗れない」プラモデルにしたらどうかと思いますよ。プラモデルは色を塗らなければ価値がないと思っている人は戸惑うでしょうね。もちろん、塗ってもいいけれど、塗らなければいけないということはないというのがはっきりとわかります。

G:
多くの人は「塗る」前提で考えるんですね。

廣田:
「塗ってナンボ」だと考えているからですね。でも、このminimum factoryは「パンツに太ももをはめこむことが楽しい」とか、そういうことも知り尽くした人間が企画していて、せっかく色つきパーツで作られているので、色は塗らなくていいし、改造しなくてもいいんです。

G:
それだとプラモデル作りへのハードルが下がって、気が楽ですね。

廣田:
いろいろ考えられている商品で、胸のパーツも別パーツなんです。こう、胸がむにゅっと寄せられているパーツが成形されていて、服のパーツにはめ込むと胸の盛り上がりが嫌でも出てしまう。でも、そうしなければ組み立てられないようになっているんですよ。

G:
いつぞや出てきたような「逃げられない」ヤツだ!

廣田:
自分はそんなに巨乳フェチというわけではないし、そんなことまでしたくないぞと思いつつも、そうしなければ作れないようにできています。これはメーカーからのメッセージですよ。それを受信もせずに改造している場合じゃない!(笑) 「改造前提」「塗装前提」ばかりというのは、開発している側もモヤモヤしているんじゃないでしょうか。

G:
かつてパンツのモールドに込められた思いにも、似たようなものがあったのかもしれませんね。

廣田:
この本を作っていて、もうデザイナーさんも入っていよいよ制作のラストスパートだという時、編集者からの「この本は、やっぱり廣田さんがこの手のものから逃げなかったのがえらいところ。思春期や性的嗜好に真剣に向き合った、そこに価値がある」という言葉に、すごく勇気をもらいました。


G:
ラムちゃんのパンツに出会ってそこに悩みを抱いたからこそ、「なぜラムちゃんのパンツをモールドしたのか」ということをインタビューしたり、その流れの中にあるプラモデルの話をすることに大きな意味が生まれていると思います。資料部分も充実しているので、ぜひ興味のある人は手にとってもらえれば……。

廣田:
「その本、すごくいいよね!」と言ってくれていた人たちの中には、この表紙が出てきたとたん、黙ってしまった人もいました(笑)

G:
……というインパクトのある表紙ですが(笑)、ぜひ手を止めずに、中まで読んでもらえば伝わるものはあるんじゃないかと思います。本日は長時間、ありがとうございました。

「我々は如何にして美少女のパンツをプラモの金型に彫りこんできたか」は6月21日発売、価格は税込1944円です。Amazon.co.jpの「模型・プラモデル」カテゴリで1位に立っています。

我々は如何にして美少女のパンツをプラモの金型に彫りこんできたか : 廣田 恵介 : 本 : Amazon.co.jp

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in インタビュー,   アニメ, Posted by logc_nt

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