僧侶や遊牧民がバスケットボールに夢中になりプロチームを結成するチベットのスポーツ事情とは？

by Woody Wood

19世紀末にアメリカで考案されたバスケットボールは、コートとボールさえあればどこでもプレイできることもあり、世界中で人気のスポーツ。標高3200mにあるチベット高原の東部アムド地域に住む遊牧民や僧侶の間でも、バスケットボールが重要な娯楽として愛されているとThe Atlanticが報告しています。

Basketball in Tibet: A Sport’s Unlikely Ascent - The Atlantic
https://www.theatlantic.com/magazine/archive/2019/01/tibet-basketball/576421/

記録によると、1935年に中央チベット政府のガンデンポタンが、4000km以上離れた中国の上海で開催されたバスケットボールの全国大会に代表チームを送ったことがわかっています。しかし、当時はチベットから上海へ向かうには、馬やヤク、ラバを使うしかありませんでした。その結果、選手の移動に数カ月かかってしまい、大会が終了するまでに上海へ到着することはできなかったそうです。

チベットには少なくとも17世紀から遊牧民が生活していて、1年を通じてヤクや羊の皮で作ったテントに住み、牧畜や出稼ぎで生計を立てていました。遊牧民のDugya Bum氏によると、若い遊牧民は1960年代頃には既に数少ない娯楽としてバスケットボールをよく遊んでいたとのこと。食肉解体した動物の膀胱(ぼうこう)と皮でできた手製のバスケットボールは、ドリブルができるほどの弾力はありませんでしたが、それでも仕事が減る冬の間に遊ぶには十分だったそうです。

オーストリアの登山家であるハインリヒ・ハラー氏は、映画化もされた著書「セブン・イヤーズ・イン・チベット」の中で、チベットの人々がバスケットボールで遊んでいたことを明らかにしています。起伏があり岩が多いチベットの地形では、広くなだらかなフィールドを必要とするサッカーよりもバスケットボールの方が好まれたようだとThe Atlanticは分析しています。

by Phillip Winn

1951年、中国の人民解放軍が中央チベットに進軍して武力制圧。人民解放軍の兵士によるバスケットボールの全国大会がポタラ宮前の広場で行われたそうです。当時チベット軍の兵士だったDongak Tenzing氏は「チベットの町民、政府と宮殿の役人、中国の軍人、貴族と僧侶が広場に集まっていました。食べ物や飲み物の売店が、整備されていないバスケットコートを取り囲み、試合のスコアは黒板に表示されました。中国人によって主催されたバスケットボールの試合はクリーンで、統制のとれたものでした」と当時の様子を思い出しています。

by Pedro Szekely

1990年代後半にはテレビが普及し、家庭にさまざまな情報が迅速に届くようになりました。それと同時に、チベットの僧侶にとってバスケットボールは人気の娯楽になっていったとのこと。チベット文化学者でスポーツ史を研究するAlex McKay氏は、アメリカのバスケットボールスターのマッチョなイメージは戦士文化に根ざしていて、東部チベット人を引きつけるものがあるのではないかと分析しています。

by Gili Chupak

2015年、Wiilard Johnson氏は、地元衣料品メーカーのNohlhaのプロバスケットボールチームのコーチとして招へいされ、アメリカから東部チベットのリトマ村に渡りました。Johnson氏はプロのバスケットボール選手でありながらマサチューセッツ工科大学の男子バスケットボールチームのアシスタントコーチを務め、世界中でバスケットボールの指導を行っていました。以下のムービーは、Johnson氏が実際にNohlhaのバスケットボールチームをコーチングしている様子。

Tibetan Nomads, an American Coach, and Basketball - YouTube


プロ選手を名乗るチベットの僧侶や遊牧民は、皆独学でバスケットボールの練習を行っていたそうで、Johnson氏がコーチをつけるまで正しく本格的な練習を受けたことはなかったとのこと。「バスケットボールを使って、世界の全く違う地域をつなぐのは本当に素晴らしい文化的体験です」とJohnson氏は語っていました。