NBAでドラフト指名すべき選手はIBMの人工知能「ワトソン」が教えてくれる
By Keith Allison
IBMが開発した人工知能(AI)「ワトソン」は、近年さまざまな分野で活躍しており、奇抜なレシピを公開したり、将来のがん治療に役立てたり、子どもの「なぜ?どうして?」という質問攻撃にユーモラスな回答で答えるCogniToysに活用されたりしています。そんなAIのワトソンが、なんとアメリカのプロバスケットボールリーグであるNBAでドラフト指名する選手を選ぶために使用されているそうです。
The Toronto Raptors Are Using IBM’s Watson to Draft A Winning Team | Motherboard
http://motherboard.vice.com/read/toronto-raptors-nba-draft-day-ibm-watson
2015-16シーズン、トロント・ラプターズは3年連続のディビジョン優勝を果たし、プレーオフに進出。1stラウンドでインディアナ・ペイサーズを4勝3敗で退け、2001年以来のカンファレンスセミファイナルに進みます。さらに、セミファイナルではマイアミ・ヒートと4勝3敗の熱戦を繰り広げ、初のカンファレンスファイナルに進出しました。しかし、カンファレンスファイナルではクリーブランド・キャバリアーズに2勝4敗で敗れてしまいます。そんなトロント・ラプターズは新シーズンに向けたチームの補強に積極的で、その補強の目玉となるシーズン開幕前に行われるNBAドラフトでは、新たな取り組みを始めようとしています。チームを強化するための有望な若手選手を獲得するためドラフト指名ですが、トロント・ラプターズがここで獲得する選手は、監督でも有能なスカウトマンでもなく、IBMのAIであるワトソンが選出した選手になるかもしれません。
この新しい取り組みがスタートしたのは2016年の2月で、ラプターズの親会社であるMaple Leaf Sports & Entertainmentが「ラプターズはNBAで最初のワトソンを使用した選手分析を取り入れるチームとなる」とアナウンスしたことで明らかになりました。
「ワトソンは誰と誰をトレードするのがベストか、といった質問には答えてくれません。そういったものとは別次元で選手の比較を行っているのです」と語るのは、スポーツ分析などの研究を行うIBM Sports Insights Centralのジョン・レンチナー氏です。例えば、ラプターズが大学バスケットボールの調査を行っている場合、ワトソンは選手のシュート・アシスト・リバウンドなどに関する統計データを素早く計算・表示することが可能。また、過去のドラフト指名選手の大学生時のデータと比較することもできます。
これまでラプターズのスカウトマンたちはホワイトボード上に貼られた資料や統計のスペシャリストからもらったデータなどを基にどの選手を獲得するかを判断してきたわけですが、ワトソンの登場により従来よりもはるかに効率良く、その判断が下せるようになるとのことです。
しかし、ワトソンが導入される前からラプターズはNBAの中でも随一の技術通でした。例えばラプターズの分析チームは、NBAの中でも随一の実績を誇り、選手のベストな動きをモデル化するためのトラッキングシステムである「SportVU」など、さまざまな分析ツールを開発してきたことでも知られています。この優れた分析チームとIBMの技術が組み合わさったからこそできるドラフト指名に注目が集まります。
なお、NBA選手の平均年俸は500万ドル(約5億円)で、トッププレイヤーになると平均年俸は2500万ドル(約25億円)と非常に高額です。年俸が高額なのでチームに誰を加えるかは大きな賭けでもあり、「何とかチームにフィットしてほしい」と考えてしまうのが普通なわけですが、現在のところ、ワトソンの推薦する選手が「チームにフィットするか?」までは正確には測定できないそうです。ただし、従来の選出方法と異なったユニークな選手を選出することが可能になります。
通常、NBAでは特定の分野に強み持った選手やチームにフィットしそうな選手を獲得しようとします。こういった補強の仕方について、批評家は「分析チームは選手の持つ『数値』しか見ておらず、選手の個性をないがしろにしている」と語りますが、ワトソンの場合、言語学解析論を駆使して選手のSNSなどを分析し、選手の個性を理解した上でどの選手を獲得するかを決めるそうです。つまり、これまでも分析されてきたであろう選手のプレーに関するデータと、選手個人の人間性の両方を重要視した選出が行えるというわけ。
なお、ワトソンはチームの経営陣が求める選手を探すための評価を出すものの、「結局、このシステム自身が決断を下すわけではありません。我々は人間とシステムとのシナジー効果を期待しているのです」とレンチナー氏は語っています。
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