「キューバによる音響攻撃だ」ともいわれたノイズ音が「コオロギの鳴き声」だった可能性が浮上
by Garry Knight
キューバに駐在するアメリカやカナダの外交官が謎の高周波音に悩まされ、不眠や頭痛、聴覚の異常といった健康被害を訴えるという事態が2016年末から2017年にかけて報告されました。「音響兵器による攻撃ではないか」ともささやかれていた謎の音について、実は「コオロギの鳴き声だった」という説が研究者によって提唱されています。
Recording of "sonic attacks" on U.S. diplomats in Cuba spectrally matches the echoing call of a Caribbean cricket - 510834.full.pdf
(PDFファイル)https://www.biorxiv.org/content/biorxiv/early/2019/01/04/510834.full.pdf
'Sonic attack' on US embassy in Havana could have been crickets, say scientists | World news | The Guardian
https://www.theguardian.com/world/2019/jan/06/sonic-attack-on-us-embassy-in-havana-could-have-been-crickets-say-scientists
Mysterious Cuba 'attack' was crickets: study
https://www.usatoday.com/story/news/world/2019/01/07/mysterious-cuba-attack-crickets-study/2509577002/
ホテルや大使館に滞在している最中に音響攻撃の被害を受けたと証言した外交官らは数十人にも及び、「Long Range Acoustic Device(LRAD)などの音響機器を使った攻撃ではないか」「変調マイクロ波によるマイクロ波聴覚効果を使った攻撃ではないか」といった説がささやかれていました。
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キューバ政府はこの事件との関与を否定していましたが、アメリカ政府は在米キューバ大使館の外交官らに退去要請を出すなど外交問題にまで発展。2017年10月には実際にキューバで録音されたというノイズの一部が公開されています。
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これ以降も「ノイズの原因は超音波の干渉による予期せぬアクシデントだった」という説が登場したり、中国で働いていたアメリカ政府職員からも「同様のノイズに悩まされた」という報告があがるなど断続的に話題となっていました。
そんな謎のノイズについて、イギリスのリンカーン大学で感覚生物学について研究するFernando Montealegre-Zapata教授やカリフォルニア大学バークレー校のAlexander Stubbs氏は解析を行ったとのこと。その結果、キューバのハバナで録音されたノイズ音の正体が「Anurogryllus celerinictus」という名前で知られる、カリブ海周辺に生息するコオロギの一種が発する鳴き声である可能性が高いと判明しました。
AP通信が公表したノイズ音とコオロギの鳴き声は、持続時間や音響パルスの間隔、周波数などが一致しているそうです。実際のコオロギの鳴き声と録音された音声に微妙な違いはあるものの、2人はその違いが「録音環境の違い」によるものではないかと考えています。研究者らが昆虫の鳴き声を採取する際には屋外で録音するのが一般的ですが、外交官らは室内でノイズの被害を訴えており、壁や床、天井などで音が反響することで音声に微妙な違いが発生する可能性があるとのこと。
そこで2人は屋外で録音されたコオロギの鳴き声を室内で流し、その室内で録音した音声と「謎のノイズ音」がどれほど一致するのかを確かめるテストを行いました。すると、コオロギの鳴き声を室内で録音した音声では鳴き声が不均一なパルスとなり、キューバで録音されたノイズ音との一致率がさらに高まったそうです。
このコオロギはオスが求愛行動のために高音で鳴く性質を持っており、「この種のコオロギは7000Hz(ヘルツ)で鳴きます」とMontealegre-Zapata氏は話します。南アメリカの出身であるMontealegre-Zapata氏は、子ども時代に今回問題となった種と似た種類のコオロギを飼育していたことがあるそうで、自分の部屋のケージで鳴くコオロギの鋭い音色で夜中に目を覚ましたこともあったとのこと。「昆虫の鳴き声に不慣れな人々にとって、コオロギの鳴き声が不快に感じられたとしても不思議ではありません」とMontealegre-Zapata氏は語りました。
今回の研究結果について2人は、あくまでもコオロギの鳴き声がノイズ音の一つの原因であった可能性が高い点だけを示しており、外交官の不調の原因を特定したり他の原因によってノイズ音が発生した可能性を否定するものではないとしています。
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