「キューバのアメリカ大使館への謎の音響攻撃」の原因は「超音波の干渉」にあるとする説が登場
By Jason Corey
キューバにあるアメリカ大使館の職員が謎の高周波によって健康被害を訴えた事件は、一部で新たな音波兵器の可能性があると報じられました。しかし、アメリカ・中国の研究者の研究によって、超音波同士の干渉によって生じた予期せぬアクシデントだった可能性が指摘されています。
On Cuba, Diplomats, Ultrasound,and Intermodulation Distortion
(PDFファイル)https://spqr.eecs.umich.edu/papers/YanFuXu-Cuba-CSE-TR-001-18.pdf
Finally, a Likely Explanation for the “Sonic Weapon” Used at the U.S. Embassy in Cuba - IEEE Spectrum
https://spectrum.ieee.org/semiconductors/devices/finally-a-likely-explanation-for-the-sonic-weapon-used-at-the-us-embassy-in-cuba
2016年12月から2017年8月の間に、キューバのアメリカ大使館の職員が高周波音を浴び続けて健康を害されるという事件が起こりました。アメリカの政府機関を狙った「未知の音響攻撃」の可能性が指摘されるなど、大きな問題となった一連の事件については、以下の記事で確認できます。
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AP通信によって記録された高周波データが公開されるとさまざまな解析が行われ、「高周波による音波兵器が用いられた」という分析結果が出されましたが、音響学の専門家は「音波兵器の可能性は低い」と結論付けました。音響学の専門家によると、20~200KHzの超音波は空気中でうまく広がることがなく鼓膜の痛み、頭痛、めまいなどの症状を引き起こさないことや、超音波は人間の耳には聞こえないにもかかわらず、被害者の中には高音を聞いている人がいることなどがその理由です。
ミシガン大学のコンピュータ科学者のケヴィン・フー博士は2017年6月に記録された「謎の音響」の音声データを解析し、スペクトルプロットに異常な波紋があることに気付きました。ペースメーカー、RFID、自動運転車両、IoT端末などのサイバーセキュリティを専門に分析している研究者であるフー博士は、キューバの謎の音響には、スペクトル波紋からある種の「干渉」が発生しているように見えたとのこと。
フー博士は音声認識システムや自動運転車を研究開発している中国・浙江大学のシュー・ウェンヤン教授に協力を求めて、音響の干渉について調べました。二人は、記録された音声データを高速フーリエ変換して、信号の正確な周波数と振幅を解析しました。この解析についてシュー博士は、「興味深い『パズル』に感じました。パズルを解くのは楽しいことでした」と述べています。
さまざまなシミュレーションを行った結果、二人は「相互変調歪」と呼ばれる現象によって、問題の音響が生じた可能性があることを発見しました。相互変調歪とは、異なる周波数を持つ2つの信号が結合するとで元の周波数の差や和、その倍数で新たな合成信号が生成される現象とのこと。フー博士は「相互変調歪によって、元の信号より低い周波数の信号が生成されることがあります。言い換えると、もともとは耳に聞こえない超音波同士が合わさって、耳に聞こえる『副産物』を生み出すことがありえるということです」と述べています。
さらに研究を続けたヤン博士は、25KHzと32KHzのいずれも人間の耳には聞こえない超音波を使って、記録された謎の音響と同じ7KHzの高音を生成することに成功しました。以下のムービーでは、2つの超音波を干渉させることで、超音波として埋め込まれた「Never Gonna Give You Up」を再生することに成功しています。
Covertly Exfiltrating a Song with an Ultrasonic Carrier - YouTube
キューバのアメリカ大使館を襲った謎の音響をリバースエンジニアリングすることに成功したフー博士たちは、どのような信号の組み合わせによって謎の音響が発生したのかを検討しました。その結果、可聴音を聞いている職員がいることから、部屋に超音波ジャマーと超音波トランスミッターがあった可能性を指摘しています。なお、各端末を設置した人が異なる可能性があり、その場合は、他の端末との干渉によってトラブルが起こりえることに気付いていなかった可能性があるとフー博士は考えています。
キューバのアメリカ大使館を襲った謎の音響は、超音波同士の干渉によって生成された可能性があるとするフー博士たちの論文「Reverse Engineering the ‘Sonic Weapon.’」は、2018年3月中に刊行される予定です。
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