サイエンス

地球でも火星でも河川は「数学的な法則」の上に成り立っている


長方形の縦横比で最も美しいといわれる「黄金比」がひまわりの種や巻き貝のらせん構造に見られるように、一見ランダムに見える自然界の産物が数学的な法則の上に成り立っていることはよくあります。いくつも枝分かれしながら地面を走る川の流れもまた、数学的な法則の上に成り立って形成されていることが近年わかってきています。

A Universal Law for the ‘Blood of the Earth’ | Quanta Magazine
https://www.quantamagazine.org/a-universal-law-for-the-blood-of-the-earth-20181128/


自然に刻まれる川の流れは複雑に入り組んでいるように見えますが、一部の科学者はこうした自然のパターンは数式モデルで説明できるかもしれないと考えています。地形学者は河川のネットワーク形成に関わる法則を統計的に求め続けていて、例えば「流域を蛇行する川の流れは流域面積の0.6乗に比例する」という「ハックの法則」という経験則が存在します。


マサチューセッツ工科大学の地球物理学者であるDaniel Rothman氏は、「ラプラシアン成長(Laplacian growth)」によって河川のネットワークが形成されていると考えていました。

名前の元である18世紀のフランスの数学者ピエール=シモン・ラプラスは「すべての出来事は、その出来事に先行する出来事で決定されている」という決定論を支持していて、これから起きるすべての現象は数学的に計算が可能だと唱えていました。ラプラシアン成長は、まさにラプラスが主張していた通り、放電の樹状パターンや雪の結晶の形成など、自然に存在するフラクタルの数学的な成長モデルです。

by Theodore Kim, Jason Sewall, Avneesh Sud, Ming Lin

もちろん細かい条件によってラプラシアン成長のパターンは異なりますが、Rothman氏率いる研究チームは「川の水がたまると枝分かれし、枝はさらに成長を続け、その先で土壌に浸透する水の面積に応じて再び枝分かれする」というメカニズムで河道が形成されていくと主張。この仮説を示すため、研究チームはフロリダ北部のアパラチコラ川流域を調査しました。

研究チームはまず、地下水浸食に関する先行研究に基づいて、フロリダでの水の流れを予測しました。そして、この理論的予測とアパラチコラ川の実際の姿を比較することで検証を行いました。

研究チームは、1本の川の流れが2本に枝分かれする時、その2本の流れの間にできる角度は、地中への水の浸透との兼ね合いから「およそ72度になる」と予測しました。実際にアパラチコラ川にある4966箇所以上の分岐を調査した結果、その分岐角度の平均は71.9度と、なんと予想とほぼ同じ結果だったことが判明。研究チームの1人でスイス連邦工科大学のHansjörg Seybold氏は「理論が正しいと信じざるを得ないほどに近い値が出ました」とコメントしています。


ただし、理論と実際のデータがほぼ一致したことが確かめられたのは、あくまでもフロリダのアパラチコラ川のみ。他の河川でもRothman氏の理論が適用されるのかを調べるため、MITの研究グループはアメリカ地質調査庁のデータベースにアクセスし、アメリカの主な河川のデジタルマップデータで検証を行いました。すると、地下水をたっぷり含んだ湿潤した土壌に流れる河川の分岐角度の平均は、アパラチコラ川と同じくおよそ72度になり、地下水が少ない乾燥した土壌では平均45度だったことが判明

これまで、河川は地下水ではなく雨による降水によって形成されていると考えられていました。しかし、一連の調査によって、「河川のネットワークは土壌に含まれる地下水に大きな影響を受け、数学的法則に基づいて形成される」というRothman氏の理論が実証されたことになります。ミネソタ大学の地質学者であるChristopher Paola氏は「1周(360度)のちょうど5分の1となる72度は魔法の類ではありません。数学は美しく、優雅です」とコメントしています。

さらにSeybold氏は、Rothman氏の唱える理論が火星にも適用できるのではと考え、火星探査機から送信された画像を解析し、火星地表に刻まれている川の痕跡を調べました。火星にはかつて液体の水が流れていたことは地形に刻まれた痕跡から分かっていましたが、その水はどこからきたのかが天文学者や地学者の間で議論されていました。


解析の結果、火星の川の分岐角度が乾燥した地域と同じく非常に狭いものだったことから、Seybold氏は「火星を流れていた川は地下水から湧き出たものではなく、水循環のほとんどが陸上で行われていたのではないか」と推察しています。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
「涼宮ハルヒの憂鬱」のおかげで25年解けなかった数学の難問が解決されるかもしれない - GIGAZINE

複雑な昆虫の羽の構造を数学的にシミュレートする研究 - GIGAZINE

数学者が発明した「ピザを平等に食べやすくカットする方法」 - GIGAZINE

「スパゲッティの乾麺は必ず3つ以上に折れる」という現象を乗り越えて研究者が2つに折ることに成功 - GIGAZINE

数学は「編み物」から学ぶことができる - GIGAZINE

なぜ数を「0」で割ってはいけないのか? - GIGAZINE

in サイエンス, Posted by log1i_yk

You can read the machine translated English article here.