「少林寺」にまつわる事実とフィクションを実際に現地で修業した人物が語る
「嵩山少林寺(少林寺)」と聞けば、オレンジ色のローブをまとった超人的武術を操る仏教徒をイメージする人も多いはず。「少林サッカー」のような、少林寺や少林拳を題材とした映画も存在しており、「少林寺」というブランドは年間数億円もの利益を生み出しているとのこと。そんな少林寺の知られざる実態にRADII Mediaが迫っています。
Fact vs. Fiction: Truths from Inside the Shaolin Temple | RADII Media
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少林寺は5世紀頃には現在の中国・河南省に存在していた寺院で、のちに日本に広がっていった「禅」の発祥の地ともいわれています。少林寺と聞けば、ついつい頭をよぎるのが中国拳法の「少林拳」ですが、なぜ少林寺が武術を取り入れていったのかについてが諸説あるそうです。最も広く知られているのは、「インドの仏教僧である達磨が、仏陀の教えを広めるために中国中を歩き回っていた際、少林寺にカンフーをもたらした」というものです。
伝承によると、少林寺にやってきた際、達磨は膨大な時間を瞑想に費やしたことで体が貧弱になってしまった修道僧を見つけたそうです。その後、達磨は山のふもとにある洞窟に隠居し、9年間にわたって壁に向かって座禅を続けました。長い座禅期間を終えて洞窟から出てきた達磨は、体調管理のための教本「易筋経」を書き、これが少林拳の基礎を築くことになったと伝えられています。
そんな少林寺は、現在では中国・河南省の観光名所となっており、ユネスコの世界遺産にも登録されています。少林寺の参拝だけで年間何十億円もの利益が出ており、その資金をもとに少林寺は40社以上の海外企業の経営にも参画しているそうです。そういった背景から、嵩山少林寺の第30代住職である釈永信は、「僧侶のCEO」と呼ばれることもあります。
中学の頃から少林拳を学んでいたというAdan Kohnhorst氏は、少林寺や少林拳から、厳しい修練に耐える修道僧をイメージしていたそうです。そのため、自分が熱心に少林拳のトレーニングに励んでいる際は、「より過酷なトレーニングを修道僧たちは行っている」と考え、道徳や規律のジレンマに直面した際は、「少林寺の修道僧ならどうする?」と心に問いかけてきたそうです。
そして少林拳を習い始めてから10年以上が経過したある日、Kohnhorst氏は河南省の政府に招待され、少林拳の本場である少林寺へ向かい、本場の修道僧からカンフーを学ぶ機会を得ます。幼い頃に周りの子どもたちがスポンジ・ボブに熱中するように、少林寺に熱中してきたというKohnhorst氏にとってはまさに夢の実現だったそうです。
しかし、大人になったKohnhorst氏は初めてのめり込んだ頃とは異なる目線で少林寺を見ていたそうです。少林寺の長い歴史や文化について知っており、現在の少林寺がビジネスのために大きな変化を遂げていることも理解していたとのこと。少林寺が抱える真実的側面とフィクション的側面の両方を体験したいと考えていたKohnhorst氏は、実際に少林寺で修業する中で、真実とフィクションが複雑に混じり合っていることに気づいたそうです。
◆少林寺で修業する外国人はかなりのハードコア、というイメージについて
ジェット・リー主演の映画「少林寺」などにより、海外でも有名になっていった少林寺。そういった映画にのめりこんだ外国人たちは、Kohnhorst氏のように少林寺での修行を夢見るようになります。そしてKohnhorst氏のように夢を実現する人がいます。
Kohnhorst氏が少林寺へ留学に行った際、訓練を監督してくれた修道僧のShi Yanbo氏は、「少林寺にはアフリカ・ヨーロッパ・アメリカと、毎年多くの外国人がやってきます。彼らは世界中から集まり、1~2か月間訓練します。しかし、外国人の訓練と我々修道僧の訓練は全く同じものではありません。我々の訓練のコミットメントははるかに大きいです。対して、外国人留学生たちは午後にやってきて、簡単な訓練を行う程度です。もしも彼らが我々に憧れているなら、毎朝4時30分に起きるでしょう」と述べています。
実際、少林寺の文化を理解するために10年間にわたって努力を続けてきたというKohnhorst氏も、毎朝4時30分に起きて山をジョギングすることはできなかったそうです。
もちろん中には真剣に長期間の訓練を受ける外国人もいます。1990年代に釈永信にとっての最初の外国人留学生となった作家のマシュー・ポリー氏やイギリス出身のマシュー・アハメット氏は、「少林寺唯一の非中国人の弟子」として有名になりました。他にも、1989年に最初の外国人弟子として話題になった14歳のドイツ人学生や、2016年に膝の怪我で少林寺へ移り住んだインドの元サッカーファンであるHarsh Verma氏などが例として挙げられます。その誰もが「最初の外国人」を名乗り、スターになることを狙っていますが、これは「ほとんどの人が少林寺について多くを知っているわけではないからできることだ」とKohnhorst氏は指摘しています。
◆少林寺の修道僧は孤独でミニマリズムな生活の中で修業する、というイメージについて
少林寺の修道僧の生活を、「電気のない部屋で目を覚まし、オレンジ色のローブを着て手押し車で川まで行き、朝のおかゆ用の水を汲む」とイメージする人もいるかもしれません。しかし、実際は少林寺で訓練時に身に着ける衣服は淘宝網で購入します。また、中国の電気機器メーカーであるOPPOのスマートフォンを使ってビデオチャットをすることもできるとのこと。
Kohnhorst氏が少林寺で修業した際に監督してくれた修道僧のひとりであるGao Weizhen氏は、自身のスマートフォンをKohnhorst氏に渡し、ビデオチャット経由で120万人もの信者からの質問に答えていたそうです。
Yanbo氏は「そうですね。我々は少林寺の様子をライブストリーミングで配信しています。我々が少林拳の修業を行っていないダウンタイム中でも、ライブストリーミングしたいと考えています。これは実際に少林寺にとって大きな利益となっており、より多くの人々が少林寺で暮らす修道僧の生活を覗き見ることができるようになり、少林寺の伝統を学ぶことができるようになっています。あなたが『Kuaishou』や『Shaolin Temple(少林寺)』といったワードで検索をかければ、修道僧が忙しくなければライブストリーミングを行っているはずです」と語っています。
このように、少林寺の修道僧は完全に近代的な快適さから離れた場所で生活しているわけではないようです。もちろん少林寺での生活には厳しい規律が存在しており、冬の暖房や夏の空調、さらには巨大なショッピングモールとは無縁の生活を送りますが、これはミニマリズムではなく中国のあまり裕福ではない地域のひとつである河南省に住む人々の現実であるとのことです。
◆少林寺の修道僧はカンフーと仏教の修業を行う、というイメージについて
少林寺には2種類の修道僧がいます。ひとつは少林拳の修業を行う戦士としての僧で、もうひとつは仏教を学ぶ学者としての僧です。Kohnhorst氏の修業を監督したYanbo氏は戦士として修業を積む修道僧ですが、学者としての修道僧にも大きな敬意を払っていると語っています。
「戦士としての修道僧は毎日カンフーを練習します。我々の焦点は体育にあります。対して、学者としての修道僧は、経典を読み、座禅し、瞑想に多くの時間を費やします。彼らは悟りを開くために瞑想し、それが彼らの目的となっています。しかし、戦士としての修道僧は単にカンフーの修業を行い、技を極めることに努めます」と2種類の修道僧の違いを説明してくれています。
もちろん少林寺の修道僧は等しく仏教の教えを学ぶそうですが、仏教哲学のニュアンスや原理、実践については学者としての修道僧が修める領域になるというわけです。実際、Kohnhorst氏が少林寺内の写真を撮影している際に学者としての修道僧にカンフーポーズをお願いしたところ、「私はカンフーを知らない」と返されたそうです。
◆少林寺の修道僧は超人的な力を持っている、というイメージについて
「少林寺の修道僧は超人的な力を持っているというのは真実です」とKohnhorst氏。少林寺の修道僧が「ガラスを割らずに奥にある風船を針を使って割る」というパフォーマンスを実際に見たというKohnhorst氏は、パフォーマンスに使用されたガラスを実際にチェックしたとのことで、このパフォーマンスはまさに超人的だったとしています。
Shaolin Temple, Kung Fu, Pop balloon - YouTube
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