ファクシミリ(FAX)をいまだに使い続けるオフィスはなぜ存在するのか？

by Secret Pilgrim

通信回線を使って画像や文字を相手に送ることができる「ファクシミリ」(FAX)は、かつては会社やオフィスになくてはならない電子機器の1つでした。PCとインターネットの普及に伴って使用率は激減したものの、役所や病院など、一部の職場では2018年現在でも現役で利用され続けています。なぜファクシミリがいまだに根強く利用され続けているのか、その理由と問題点について、The Atlanticがまとめています。

Why People Still Use Fax Machines - The Atlantic
https://www.theatlantic.com/technology/archive/2018/11/why-people-still-use-fax-machines/576070/

ファクシミリの発明は、グラハム・ベルとイライシャ・グレイによる電話特許競争が起こった1876年よりも30年も前のこと。スコットランドの発明家であるアレクサンダー・ベインのアイデアに基づいて、1847年にロンドンの電信回線で世界で初めてのファクシミリ通信が行われました。この世界初のファクシミリは精度が低く、送受信はできても出力された文字や画像は解読不可能だったそうです。しかし、改良・発明が重ねられ、1930年には日本の技術者による改良もあって、ファクシミリは報道機関を中心に実用されるようになりました。

by Momotarou2012

ファクシミリが本格的に世界中の企業で採用されたのは1980年代。日本からアメリカまで、資料や書類を一瞬で送ることができるファクシミリは、ビジネス取引のスピードに大きな変化をもたらしました。また、このファクシミリによる画像データのやりとりは、今日のデジタル画像文化の先駆けにもつながっているといえます。

しかし、ファクシミリがOA機器の主役として天下を取ったのはほんのわずかの間でした。ちょうどファクシミリ全盛期の1990年代はインターネット黎明期にあたります。MITメディアラボの創立者であるニコラス・ネグロポンテ氏は「ファクシミリは、送受信は一瞬でも結果が出力されるまでの時間が長く感じられるという点が致命的な欠点であり、情報情勢に遅れをとっている」と断言しています。実際に、1990年代後半からファクシミリの生産・販売が劇的に減少したそうです。

2000年代に入り、データのやりとりはインターネットを介する方が明らかに速くなりました。しかし、病院や法執行機関の世界では、規制上の問題、デジタルセキュリティへの懸念、高年齢層の職員からの反発などさまざまな理由から、いまだにファクシミリが利用されています。

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Voxによると、ある業界アナリストは医療データのやりとりのおよそ75％がファクシミリで行われていると推測しています。また、「若い医学生がファクシミリにうんざりしている」「何千もの医学生がファクシミリの使い方が分からなくて混乱している」という報道もされています。

PatientBankと呼ばれるスタートアップは、医療データをデジタルで共有・送受信できるようにするサービスを提供していましたが、多くの病院がファクシミリからシステムを移行できないということがわかり、2018年1月に全サービスを終了することになりました。PatientBankの共同設立者であるポール・フレッチャー＝ヒル氏は「病院がファクシミリを使い続ける理由の1つにセキュリティを挙げました。多くの人が、ファクシミリよりもコンピューターのシステムをハッキングする方が簡単で危険だと考えていたのです」と述べています。

顔認識技術を使って犯罪者を探すなど、法執行機関は先進的な技術を取り込もうとしている動きはありますが、実際に取り締まる際は書類にボールペンで書き込むというアナログなスタイルが多く採用されていることもあり、ファクシミリからPCへの移行が遅れています。また、FBIが取材や質疑を受ける時はファクシミリやテレタイプ端末を使わないと受け付けないとのことで、新聞記者からも不満が出ているとのこと。

2017年春、弁護士のニコール・フォルマン氏は、ニューヨークにあるライカーズ島刑務所に対して依頼人の保釈願いを提出しました。拘留されている依頼人のために、2000ドル(約22万円)と1ドル(約110円)の2回に分けて保釈金を支払う必要がありました。刑務所の看守は「2000ドルの支払いは受けたが、1ドルの支払いを受けたかどうかの確認が取れない」と述べ、保釈を認めませんでした。

実は、刑務所のファクシミリが故障してしまい、書類を受信できなくなってしまったため、1ドル分の保釈金の受け取りができなかったとのこと。この結果、依頼人は保釈金が支払われたにもかかわらず、余計に1日拘留されることとなりました。「単なる技術的な不具合だったにもかかわらず、保釈金を支払った人々が解放されていなかったのです」とフォルマン氏は怒りを表しています。

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また、2014年に2人の警察官がニューヨークで銃殺された事件では、ボルチモア郡警が容疑者のポスターをニューヨーク市警にファクシミリで送信していたことがわかりました。海外メディアのSlateは「『ボルチモア郡警がニューヨーク市警に容疑者の情報を送ったと主張する時間』と『実際にニューヨーク市警で容疑者の情報を受け取った時間』にズレが生じているのは、時代遅れのファクシミリとテレタイプ端末を使っていたからだ」と批判しています。

The Atlanticは、ファクシミリにはレトロな魅力があると認めながらも、「刑務所は保釈金の支払いに即座に対応すべきであり、医師は医療記録を迅速かつ簡単に受け取ることができる必要があり、FBIは電子メールによる新聞記者の質問に対応する必要があります。システムレベルではもはやファクシミリを使うべきではありません」と主張しています。