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SF小説の大家アーサー・C・クラークが予想した「コミュニケーションの未来」とは?

by MelanieSchwolert

イギリス出身のSF作家であるアーサー・C・クラークは、「幼年期の終り」や「2001年宇宙の旅」といった作品を著したことで知られています。そんなクラークがコンピューター雑誌の「Creative Computing」1977年5月号に載せた、コミュニケーションの未来についての予想がウェブで公開されました。当時はほんの数年前に世界初の携帯電話による通話が行われたばかりという時期でしたが、科学解説者でもあったクラークが見せる鋭い予想は素晴らしいものとなっています。

Arthur C. Clarke: Communications in the Second Century of the Telephone (1977) - Paleotronic Magazine
https://paleotronic.com/2019/01/30/arthur-c-clarke-communications-in-the-second-century-of-the-telephone-1977/

クラークは人間について「コミュニケーションをとる動物だ」と述べています。人は水や食べ物と同じくらい「情報」を欲する生き物であり、コミュニケーションに関する技術の進歩は瞬く間に広がっていくと指摘。1876年にアレクサンダー・グラハム・ベルが電話の特許を取得したわずか1年後にはアメリカから日本に電話機が輸出され、1878年にはアメリカ各地で電話会社が誕生しています。

離れた場所にいる人が会話できる「電話」という装置が開発されたというニュースは、海底ケーブルを通って大西洋を渡ったイングランドにも届けられました。当時、郵便局のチーフエンジニアは「この電話という発明には実用的な価値があるか?」と尋ねられ、「アメリカ人には電話が必要かもしれませんが、イングランドには必要ないでしょう。ここにはたくさんの郵便局員がいますから」と答えたそうです。

後の時代になってから過去を振り返ってみれば、「電話が世界中に普及したのは当たり前だ」と考える人は多いかもしれません。しかし、クラークは「このビクトリア朝の人々を笑う前に、あなたがもし100年前に住んでいたとして、100年後の世界では電話がこれほどまでに普及していると予想できたか自問してみてください。全ての家と全てのオフィスに電話があり、文明世界の基礎を成し、全人類の10人当り1台の電話があると、100年前に予想できたでしょうか?」と述べ、電話の普及スピードは驚くべきものだったと述べています。

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そしてクラークは、今後も間違いなくコミュニケーションに関する技術は急速に発展していくだろうと述べ、「キーボードとビジュアルディスプレイ、高音質の通話にテレビカメラが搭載されたデバイス」が理想的な通信機器だとしています。

また、キーボードではなく口頭で話した内容をディスプレイに入力できるシステムについてもクラークは検討していますが、プライバシーと騒音の問題、アクセントや二日酔いでろれつが怪しいなどの人間側の問題も考慮すると、音声認識装置は非常に複雑になると考えていたようです。しかし、同時に「2001年までには私たちの多くはキーボードをタップしているでしょうが、技術の発展スピードを見れば、100年後の2076年までには口で話した通りの内容が入力できるようになるかもしれません」として、やがて音声認識での入力が実用化されることを的中させました。

クラークは「製品がある一定の技術レベルに達すると、それ以降の変更点はスタイルに重点が置かれるようになる」と考えており、イスやテーブル、ベッド、食器といったものと同様に、材質が変わることはあれど基本デザインはあまり変わらなくなるだろうと予想しています。イスやテーブル、食器が洗練されるまでには数千年の月日が必要でしたが、自転車はおよそ1世紀、ラジオの受信機は半世紀で基本的な構造が安定したように、コミュニケーションデバイスも安定期を迎えるだろうとのこと。

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電話だけでなく、ディスプレイによる視覚的なコミュニケーション機能を備えたコミュニケーションデバイスの進化により、クラークはホワイトカラーの仕事のうち95%は家を出ずに遂行可能になるだろうと予測。また、1977年当時に産まれている人が生きているうちは、ホワイトカラー従業員がほぼ完全に在宅で仕事をこなすのは難しいかもしれないとも述べています。

1977年の予測を発表する数年前に、クラークは「通勤するのではなく、通信しましょう」というスローガンを作り出していたそうです。クラークは家からオフィスまで移動するのがたとえ30秒でも耐えがたいものであり、人が移動するコストや消費するエネルギー資源を考えれば、通信システムを発達させて情報やデータを移動させた方が低コストだという思想を持っていたとのこと。

クラークは新たなコミュニケーションデバイスが電話内容やメッセージを記録できるメモリを備えているだろうとしたものの、対面でのチャットは必要不可欠だとも考えていました。すると、「世界のうち3分の1ほどの地域は常に寝ている」という時差の問題が浮上し、「21世紀の通信ネットワークが世界中でバラバラな時差を廃止するかもしれない」と主張しています。

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娯楽および「情報を得るデバイス」として、新たなコミュニケーションデバイスは事実上無制限の可能性を秘めているとクラークは述べ、自身は第二次世界大戦中にすっかり「情報中毒者」になってしまったとしています。コミュニケーションシステムとデバイスの発達によって、惑星で起きるさまざまなイベントをほぼリアルタイムで知ることができるだろうとクラークは述べました。

また、テクノロジーの発達によって新聞などの文書、書籍は「電子化」され、紙の使用量が減って森林を保護するメリットを持つ他、子孫に膨大な量の紙書籍を残さずに済むだろうともクラークは主張。百科事典を電子化すれば普通のハードカバーの本と同じくらいの大きさの、ディスプレイとキーボードを備えたデバイスに百科全集が収録され、数カ月ごとにそれをアップデートすることもできるだろうと予想しています。


クラークはやがて視覚情報はディスプレイに映されるだけでなく、3次元のホログラムが投影されるようになり、「触れなければ目の前にいるのが物理的な存在なのかそうでないホログラフィックなのかわからない」レベルに達するだろうと述べました。この技術が進歩すれば、最終的に誰も家を出る必要がなくなる世界が到来するかもしれないとのこと。

そして、クラークは腕時計のようにポータブルな通信機器が誕生した場合、「上司がいつでもあなたを召喚できるように受信機の電源をオフにすることを違法とする法律」が制定されることは、簡単に想像できると指摘。一方で山での遭難や人通りの少ない高速道路での単独事故、家の中で倒れた老人など、ポータブルな通信機器でSOSを発することができれば多くの人々の命が救われるだろうとも述べています。

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さらにコミュニケーションデバイスやコンピューターが発達した将来の世界についてもクラークは言及し、「思考を必要としない単純労働の99%はロボットに取って代わられるだろう」と予想しています。その世界では高い教育を受けた人々だけが仕事にありつくことができ、時代の変化に取り残された多くの人々が困窮する可能性があるとのこと。こういった不満を持つ層をなだめ、とにかく安い値段で時間を消費させて他人に害を与えさせないために、ポルノ系のコンテンツが役に立つ可能性があるとクラークは主張しました。

教育がない人々が時代に取り残される危険を指摘する一方で、コミュニケーションデバイスの発達によって教育格差が減少するだろうという見通しもクラークは立てています。都市から遠く離れた場所における教師の不足を補うため、教育コンテンツをテレビなどの画面を通じて放送することが可能であり、この試みは実際に教師を遠隔地へ派遣するよりもはるかに低コストだとのこと。クラークによれば教育コンテンツの放送に必要なコストは学生1人あたり数ドルといった程度であり、将来の健康および幸福、平和に対するこの上ない投資だと述べています。

クラークはこのシステムについて、自身が第二次世界大戦中に関与した人工衛星通信の概念に触れています。当時はアメリカを含む多くの国が人工衛星通信に多額の投資を行っており、アメリカ全土を鉄道と電信がつないだように、世界中を衛星がつなぐかもしれないと思われていました。

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そしてクラークはコミュニケーションを地球上だけの問題ではなく、宇宙空間にまで広げます。1977年当時から見てほんの100年前に電話が開発されるまで、人々はほんの数十m離れるだけで会話ができなくなってしまいました。それがほんの数十年の間に、電話が通っていれば地球上のあらゆる場所にいる人と会話が可能になったのです。

そしてアポロ計画によって人類は月に進出し、歴史上初めて地球から光が到達するのに1秒以上の時間を要する場所に到達しました。当時、地球と月との通信遅延はおよそ2秒半といったところであり、多くの人が「想像以上に遅延が少ない」と感じたかもしれません。しかしクラークは、「平均的な人が2秒半の遅延を感じつつ、自制心を持って快適に会話ができるのかどうか疑わしく思っています」として、取るに足りないと思われる遅延が重大なコミュニケーション上の障害を引き起こしかねないと指摘しています。

人々はやがて資源を求めて地球外惑星に進出し、果ては太陽系外にまで進出するかもしれません。その未来を考えた時、光の速度という制限が人々を再びリアルタイムコミュニケーションのできない、分断されたコミュニティに戻すだろうとクラークは主張。お互いが遠く離れて住んでいた過去の人間たちと同様の状態が、今度は惑星間で誕生するだろうという予想を展開しました。

by Jakub Novacek

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in メモ,   モバイル,   サイエンス, Posted by log1h_ik

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