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「Apple Watch Series 4」の登場が医療に大きな変革をもたらす


シリコンバレーで起業家教育の旗手として知られるスティーブ・ブランク氏が、2018年9月13日に発表された「Apple Watch Series 4」が医療業界にとっての転換点となる、と自身のブログ上に記しています。

Steve Blank The Apple Watch – Tipping Point Time for Healthcare
https://steveblank.com/2018/09/26/the-apple-watch-tipping-point-time-for-healthcare/

ブランク氏はApple Watchを持っておらず、ライバル製品のFitbitを愛用していたそうです。しかし、新しく発表されたApple Watch Series 4は、ブランク氏の興味関心をかき立てたとのこと。なぜブランク氏がApple Watch Series 4に興味をそそられたのかというと、その理由はガジェットとしての出来栄えだけでなく、医療の未来の先駆けであると感じたからだそうです。そして、Apple Watch Series 4はアメリカ食品医薬品局(FDA)がどのように医療の革新に近づいているかを知ることにもつながる、とブランク氏は語っています。

ブランク氏は人々が考えているよりも早く、医療診断がApple Watchやスマートフォン、フィットネストラッカーなどの機器で行われるようになると考えており、こういった端末はFDAの認可を受け、医療機器あるいは医療アプリとして認知されるようになる、と考えています。


ブランク氏はスマートウォッチこそが「地球上で最も洗練されたエレクトロニクス」であると考えており、その中でもApple Watchは頂点ともいえるべき複雑な構造を持った端末であるとのこと。幅40mm×薄さ10mmの筐体の中には、64bitデュアルコアのS4チップ、16GBメモリ、LTE・Wi-Fi・NFC・Bluetoothといった無線通信用のユニット、他にもGPS、加速度計、ジャイロスコープ、心拍センサー、心電図(ECG)センサーなどさまざまな機器が詰め込まれています。ブランク氏は自身が子どもの頃は「スマートウォッチなんてSF小説の中の存在だった」と話しています。


印象的な技術が詰め込まれているのとは裏腹に、初代Apple Watchはファッションの一部としての側面が強く推されており、Series 2/3ではフィットネス・スポーツ面に重点が置かれていました。つまり、高価なFitbitという位置付けでしかなかったとブランク氏は考えていたそうです。しかし、Apple Watch Series 4は新たにECGセンサーを搭載していたり、心拍数の変化を監視して不審な様子があればユーザーに通知したりと、これまで以上に健康・医療面に重点を置いたものとなっています。また、ヘルスケア分野でのキラーアプリケーションとなりうる新しい「ヘルスケア」アプリを持っている点にブランク氏は注目しており、具体的に「スクリーニングや医療診断に役立てられるようになる」と語っています。

Apple以外にもGoogleやAmazonといった大手IT企業が、数百兆円規模の医療市場に数千億円規模の投資を行っています。Googleは幅広い医療ポートフォリオに投資していますが、Amazonは薬局流通に特に注力しており、AppleはApple Watchとヘルスケア分野に焦点を当てています。その中で、AppleがApple Watch Series 4に追加した「落下・スリップ検知機能」「心拍数の異常を検知して通知する機能」「ECGセンサー」という新しい3つの機能を見れば、「将来の見通しを垣間見ることができる」とブランク氏は記しています。

「落下・スリップ検知機能」は、Apple Watchに内蔵されている加速度計とジャイロスコープが手首の軌道を分析し、ユーザーが落下したり転倒したりしたことを検知し、通知で警告したり素早くSOSを出せるようにしたりしてくれる、という機能です。Apple Watchが落下の通知を行ってから1分間ユーザーが動かなかった場合、Apple Watchは自動で緊急サービスへ連絡を入れ、ユーザーの位置情報を知らせてくれます。これにより、予期せぬ事故に巻き込まれて身動きできない状態に陥った人など、命の危機にある人を助けることが可能となります。ブランク氏は、年老いた親を持つ人ならば「親にApple Watchを着けてもらいたい」と思うはず、としています。


2つ目の「心拍数の異常を検知して通知する機能」は、初代Apple Watchから存在する心拍センサーで収集したユーザーの心拍数情報をもとに、不規則な心拍リズムを検知してユーザーに通知するというものです。


これまで存在しなかった機能ですが、既に心拍数を測定する機能は存在したため、ユーザーが自分で心拍数をチェックすることは可能であり、その中で自身の心臓が正しく機能していないことに気づく、というケースは複数回ありました。

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アメリカでは65歳以上の約9%、65歳未満の約2%が心房細動(AF)を有するそうで、その人口はなんと270万~610万人にものぼると言われています。そして、アメリカ疾病予防管理センターによれば年間75万人ほどがAFで病院に通院しており、13万人ほどが死亡しているとのこと。しかし、Apple Watchのような機器があればAFを早期発見することが可能となり、そうなればより有効な治療法を施すことが可能になります。

そして3つ目の機能が「ECGセンサー」です。心電図(ECG)は心臓が正しく動いているかを視覚的に表現できるもので、心臓の電気的活動を記録し、心拍リズムや心室のサイズと位置、心臓の筋肉の損傷具合を医師に知らせる役割を担っています。通常の場合、ECGを使用するには病院の一室で横になり、腕・脚・胸に10個ほどの電極を貼り付ける必要がありますが、Apple Watch Series 4の場合はデジタルクラウンに指を30秒ほど置くだけでOKです。

AppleはApple WatchにECGセンサーを追加するため、従来モデルに2つの電極を追加しています。ひとつは本体背面、もうひとつはデジタルクラウンに追加することで、「デジタルクラウンに指を置く」という最小限の動作でECGを利用可能としたわけです。なお、Apple Watch Series 4のECGセンサーで測定した結果はPDF形式でデータが保存されるため、そのまま医師にデータを送ることもできるとのこと。


Apple Watch Series 4の新機能のうち、「心拍数の異常を検知して通知する機能」と「ECGセンサー」は明らかに医療用の機能であるといえますが、これを実装する上で問題となったのが、FDAの承認を得る必要があったという点。なぜなら、アメリカの医療機器や医薬品、診断薬はすべてFDAによって規制されているからです。FDAは医療機器がうたう性能を実証するデータの提出を求めており、そのデータを集めるために企業は必死にボランティアを使った臨床試験を行います。

AppleはFDAの承認を得るために2つの研究結果を提出したといわれています。提出した研究結果のひとつでは、588人の被験者を対象にAFを有する患者(被験者の半分)を識別するという試験が行われたと記されており、試験の結果、アプリが正常に作動した記録(全体の90%)の中で、AF患者を98%以上の精度で特定することに成功したとのこと。

もうひとつの研究結果は、Appleがスタンフォード大学と共同で行っている「不規則な心臓のリズムをApple Watchで識別するための取り組み」の一環としてリリースされた、Apple Heart Studyアプリによるデータです。Apple Heart Studyアプリは不規則な心拍リズムを持つ226人を特定することに成功しており、一般的な心拍数計測装置ではAF患者を41%の精度でしか特定できないのに対して、Apple Heart Studyアプリでは79%精度で特定することに成功したとのこと。

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これらの研究結果から、Apple Watch Series 4の新機能である「心拍数の異常を検知して通知する機能」と「ECGセンサー」は医療機器としてふさわしいレベルにあると判断され、FDAの承認を得ることに成功したと考えられています。そんなApple Watch Series 4の発表はAppleだけでなくFDAにとっても重要なものであっとブランク氏は主張しており、なぜならこれは「FDAが革新を奨励している目に見えるサインとなるから」とのこと。

実際、FDAは近年になって承認ガイドラインを大幅に変更しており、モバイル機器やデジタル機器がより承認を得られやすくなるように変化を続けてきました。その一例がPre-Cert Programで、このプログラムは「医療機器としてソフトウェアを開発している企業は、FDAの承認プロセスを受けたデバイスがなくても製品を製造できる」というものです。これによりAppleを含めた9社が、Apple Watch Series 4のような新しい端末を承認を受ける前に製造することができたとのこと。このプログラムはFDAにとって大きな変化であり、アメリカ企業が中国企業と医療機器分野で戦うための大きな武器になる、とブランク氏は主張しています。なお、Apple Watch Series 4のようにFDAの承認を受けたセンサーもしくはシリコン、ソフトウェアといったものを統合した製品を作ったメーカーは、「これまで5社にも満たないだろう」とブランク氏は語っており、FDAの変革はまだまだ始まったばかりであるとしています。

Appleはヘルスケア分野に注力しているものの、FDAのようにまだまだ変革は始まったばかりといえます。Appleは研究者向けのオープンソースフレームワークとして「ResearchKit」を提供しており、これを使って医療研究者が新しいヘルスケアアプリを開発できるようにしています。しかし、記事作成時点ではApp Store上にResearchKitで作られたアプリはわずか11個しか存在しておらず、まだまだ道半ばであることは明らか。Appleはサードパーティー製のヘルスケアアプリがたくさん登場することを狙ってResearchKitをリリースしていますが、この分野は人手が足りていないというのが現状のようです。しかし、潜在的な機会の大きさを考えると「10倍以上のアプリが存在してもおかしくない」とブランク氏は語っています。

ResearchKitとCareKit - Apple(日本)


そもそもApple Watchのユーザー人口はまだまだ少ないですが、アメリカ・中国・ヨーロッパ・日本といった特定の地域では比較的年齢層の高いユーザーも多く利用しているとのこと。Apple Watchがより幅広い年代の間で広がることで、現在の「単一のデータポイントを用いた診断」が、よりさまざまなデータを用いた診断へと進化し、その精度も高まることが期待できます。ブランク氏はApple Watchだけでなく、ウェアラブル端末やヘルスケアアプリが医療の形を大きく変えることを期待しているとしています。

心臓発作や脳卒中、パーキンソン病の早期発見につながるような心拍数などのデータを収集したり、糖尿病患者の経過観察や管理をサポートしたり、投薬のタイミングを通知したりと、Apple Watchやスマートウォッチはヘルスケア分野で大きく貢献できる可能性を秘めています。また、皮膚がんや緑内障、白内障といった病気を早期発見するためのアプリがFDAで承認を得れば、iPhoneやApple Watchのようなスマートデバイスが人々の健康を診断・サポートするための強力なツールになる可能性は十分に考えられるとのことで、そういった流れの先駆けとして登場したApple Watch Series 4が「医療の未来を変える第一歩になる」とブランク氏は主張しています。

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in モバイル,   ソフトウェア,   ハードウェア, Posted by logu_ii

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