薬物中毒と「ヒトのゲノムに外部から入り込んだウイルス」に相関があると判明
by Todd Huffman
ヒトのゲノムには、実は外部から混入したウイルスが一定数入り込んでおり、ゲノムの一部として遺伝しています。「レトロウイルス」由来とみられる外来性のゲノム配列は「内在性レトロウイルス」と呼ばれ、人間の脳にも大きな影響を与えてきたと考えられていますが、そんな内在性レトロウイルスが薬物中毒と相関関係があるという研究結果が報告されました。
Human Endogenous Retrovirus-K HML-2 integration within RASGRF2 is associated with intravenous drug abuse and modulates transcription in a cell-line model | PNAS
http://www.pnas.org/content/early/2018/09/19/1811940115
Evidence that addictive behaviors have strong links with ancient retroviral infection -- ScienceDaily
https://www.sciencedaily.com/releases/2018/09/180924174503.htm
ヒトゲノムの中には、はるか昔に侵入して以来遺伝され続けてきた内在性レトロウイルスが散在しています。多くのヒト内在性レトロウイルスは全ての人間に対して同じように遺伝していますが、一部の内在性レトロウイルスについては、ゲノムに対する混入割合に個人差があるとのこと。
オックスフォード大学とアテネ大学が共同で行った研究では、「内在性レトロウイルスの一種である『HERV-K HML-2(HK2)』がドーパミンの放出に関連する遺伝子(RASGRF2)の近くに存在すると、薬物中毒者になりやすい」という有意な相関があることが発見されました。
研究チームはイギリスとギリシャにおいて、C型肝炎およびエイズに感染した被験者を対象に、ゲノムにおけるHK2の混入具合を分析しました。これらの被験者が病気に感染した経路は「薬物注射」であると特定されており、いずれも薬物中毒に陥った経験がある人々です。一般的にはRASGRF2遺伝子の近くにHK2が存在する割合は5~10%とのことですが、薬物中毒だった被験者を対象にした分析では、通常の2倍から3倍もの割合でRASGRF2遺伝子の近くにHK2が存在していたそうです。研究チームはRASGRF2遺伝子の近くにHK2が存在することと、薬物中毒であることには有意な相関があると考えています。
by Pixabay
研究を指揮したオックスフォード大学のAris Katzourakis教授は、「これまでのところ、人それぞれに個人差のあるレトロウイルスが人体にどのような影響を与えているのかについて、わからないことが多くありました。今回の研究は、HK2が人間の特徴に影響していることを世界で最初に示しました」と述べています。
これまでにも「ヒトの内在性レトロウイルスは病気を引き起こす要因なのではないか」という指摘はありましたが、内在性レトロウイルスは無害だという説が一般的でした。内在性レトロウイルスがヒトゲノムに混入したのは現代人が誕生するよりも以前のことであり、「薬物中毒だからHK2がRASGRF2遺伝子の近くに増えた」ということは考えられません。
多くのヒト内在性レトロウイルスは多数の人々で共通して存在している一方、HK2についてはゲノムへの混入に個人差があるそうです。ヒト内在性レトロウイルスは自己複製を目的に、宿主であるヒトの発する複製シグナルを利用します。その際、近くに存在しているゲノムの発現および機能に影響を与えることがあるとのことで、HK2の混入が近くのゲノムの転写に大きな影響を与えることも確認されています。研究チームはHK2が人体に与える影響をより深く研究することにより、薬物中毒の治療薬開発に役立てることができるかもしれないとしています。
・関連記事
ゲノムの一部となり人間の脳を活性化してくれる「内在性レトロウイルス」とは? - GIGAZINE
ヘロイン中毒治療から学ぶ悪い習慣を変える方法 - GIGAZINE
薬物中毒の原因が間違って理解されていることを説明する「Everything We Think We Know About Addiction Is Wrong」 - GIGAZINE
エイズの発症を防ぐことができる遺伝子を発見 - GIGAZINE
「頭を悪くさせるウイルス」に44%の人が感染していたという事実が発覚 - GIGAZINE
・関連コンテンツ