チョコレートの原料である「カカオ豆」がマヤ文明では貨幣として使用されていたかもしれない

by Giulian Frisoni

近年のような紙幣や硬貨が流通する以前の時代、物品の購入や納税に使用する貨幣には古来よりさまざまなものが選ばれており、石や布、貝などが貨幣として使用されてきました。そんな古代の貨幣について、「マヤ文明では、チョコレートの原料である『カカオ豆』が貨幣として使用されていた」とする説が提唱されています。

Making money in Mesoamerica: Currency production and procurement in the Classic Maya financial system - Baron - 2018 - Economic Anthropology - Wiley Online Library
https://anthrosource.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/sea2.12118

The Maya civilization used chocolate as money | Science | AAAS
http://www.sciencemag.org/news/2018/06/maya-civilization-used-chocolate-money

紀元前2000年ごろに発生して16世紀まで存続したマヤ文明では、コインや紙幣といった貨幣が流通することはありませんでした。その代わり、他の多くの古代文明と同様にタバコやトウモロコシ、衣服などを物々交換していたと考えられています。16世紀にスペイン人たちがマヤ文明を滅ぼし、植民地として地域を支配した後の時代にはカカオ豆が労働の対価として支払われていたことが確認されていますが、それ以前にもマヤ文明でカカオ豆が通貨として使用されてきたのかどうかについては、明らかになっていませんでした。


ニュージャージー州に拠点を置く教育ネットワーク「Bard Early College Network」に所属する考古学者のジョアンナ・バロン氏は、マヤ文明が残した美術品について研究を行っていました。西暦250年から900年にかけての古典記マヤ文明が残した壁画や陶器に描かれた絵画、彫刻といった芸術品の中には、市場で行われていた取引の様子や王に対してささげる供え物などが描かれているとのこと。

8世紀になると次第に美術品の中でチョコレートが頻繁に登場し始めて、商品の支払いとして熱い飲み物に加工したチョコレートが使用されている場面が描かれるようになりました。当時、チョコレートは固形にして食べるものではなく、ホットチョコレートのようにドリンクとして飲む形態が一般的でした。ホットチョコレートは携帯にも不向きであり、長期の保存が可能というわけでもないため、ホットチョコレートのやり取りでは「通貨」とするにふさわしくないとバロン氏は述べています。

by Giulian Frisoni

しかし、「やがてチョコレートの原料であるカカオ豆が、王に対する税金の一種としてささげられる場面が美術品に描かれるようになった」とバロン氏は指摘。タバコやトウモロコシといった穀物も一緒にささげられていたものの、最も頻繁に見られるささげものは、内容量が記された織布製の袋に入った乾燥カカオ豆でした。バロン氏によれば、「税金として納められるカカオ豆の量は、明らかに宮廷内で消費される量よりも多かった」とのこと。

バロン氏は剰余分のカカオ豆はタバコやトウモロコシといった奉納物と一緒に、古典記マヤ文明で通貨のような役割を果たしていたと主張しています。カカオ豆は宮廷内で働く労働者に賃金として支払われたほか、市場で物品を購入するためにも使用されたとバロン氏は考えているそうです。

古典記マヤ文明の諸都市は9世紀ごろから連鎖的に衰退しており、衰退の理由については「外敵の侵入」「農民の反乱」「疫病の流行」といったさまざまな説が唱えられています。専門家の中には「マヤ地域を襲った干ばつにより、古典記マヤ文明は衰退した」という説を支持している人も多く、バロン氏もその説を支持しています。バロン氏は、干ばつによるカカオ豆の収穫量減少がカカオ豆を貨幣として使用する王朝の混乱を招き、経済崩壊に至ったと推測しています。

by Daniel Mennerich

一方でバロン氏の説に異論を唱える研究者も存在しており、ワシントン大学でマヤ文明について研究しているデヴィッド・フライデル教授は「確かに、カカオ豆は一部の文明で通貨とほとんど変わらない形態で流通していたことは間違いありません。マヤ文明周辺においても、トウモロコシなどの穀物と比較して栽培が難しいことから、カカオ豆は珍重されていましたが、本当にそれが貨幣として使用されていたのかどうかは定かではないと考えています」と述べ、バロン氏の説に懐疑的です。

フライデル氏によれば、いくら美術品の中で頻繁にカカオ豆が描かれるようになったからといっても、必ずしも「貨幣としての重要性が増した結果、カカオ豆の描写が増えた」とは限らないとのこと。カカオ豆が本当に貨幣としての役割を持っていたのかどうかを決めるには、さらに研究が必要だとしています。

また、カカオ豆の収穫量減少が経済崩壊を引き起こし、古典記マヤ文明の崩壊をもたらしたとする説にもフライデル氏は異論を唱えています。「カカオ豆は少なくとも唯一の貨幣ではなく、トウモロコシや織布、宝石なども貨幣として同時に利用されていたはずです。単なる一貨幣にすぎないカカオ豆が収穫できなくなったからといって、経済体制が崩壊することはないでしょう」とフライデル氏は述べ、バロン氏の説には飛躍があるとしました。

by Wermil

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in , Posted by log1h_ik

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