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動画エンコードの探求に「終わり」はあるのか?


スマートフォンなどのモバイル端末で高画質のムービーを見るというスタイルが一般的になるとともに、ムービーの画質を維持しつつデータサイズを小さくする動画コーディング技術がますます重要になりつつあります。「動画コーディングに終わりはあるのか?」というタイトルで、ストリーミングムービーのNetflixが動画コーディングの重要性についてブログ記事を投稿しています。

The End of Video Coding? – Netflix TechBlog – Medium
https://medium.com/netflix-techblog/the-end-of-video-coding-40cf10e711a2

Ciscoの研究によると、2016年にムービーによるトラフィックは、IPトラフィック全体の73%を占めているとのこと。(PDFファイル)Sandvineによると、北米の固定回線のピーク時には、Netflix、YouTube、Amazon Video、Huluの4つのVODサービスだけでダウンロードトラフィックの60%を占める状態になるそうです。また、モバイル端末に占めるムービーアプリコンテンツは、全トラフィックの55%を占め、この割合は2023年までに75%まで増加するという予想もあります。

このような「ムービー全盛時代」の到来によって、ムービーを圧縮し再生するエンコード/デコード技術(動画コーディング)は重要性を増しています。高い圧縮率を実現する動画コーディングによって、4Kを超える解像度の高画質ムービーをオンラインで再生できるだけでなく、貧弱なモバイル通信環境でもより高画質のムービーを再生できるようになるからです。


ムービー全盛時代を迎えるにあたって、動画コーディング業界は以前よりも活発化しています。ロイヤリティフリーのビデオコーデックの開発を目指して2015年にAlliance for Open Media(AOM)が結成され、2018年3月、ついに「AV1」がリリースされました。また、MPEG陣営では、2017年10月にHEVCを超える新しいビデオコーデックの標準化を目指してJoint Video Experts Team(JVET)が設立され、また、業界スタンダードとなる新しい規格「Versatile Video Coding」(VVC)が2020年10月までに策定することを目指して32の研究機関が協力するなど、目立った動きがみられます。

ムービーストリーミングサービスを提供するNetflixは、AOMに参加してAV1を共同開発するだけでなく、さまざまな研究機関と協力して、新たな動画コーデックや動画コーディング技術の開発を推し進めているとのこと。ムービーを効率的に配信することはNetflixのサービス品質に直結するため、自らも積極的に動画コーディングの技術開発を行っているというわけです。


2015年にNetflixの技術者が初めてMPEG会議に参加して、将来の動画コーディングのための文書を発表しました。その際に、Netflixとしては「大幅な圧縮率の改善が可能ならば、たとえエンコードの複雑性が高まるとしてもまったく問題にしない」というスタンスであることを伝えると、議長から「では、どのくらいの複雑さを許容できますか?」と尋ねられたとのこと。回答の準備が整っていなかったNetflixの技術者は「最悪のケースでは100倍まで」と答えると、100人はいたであろう動画コーディングの専門家たちからは大爆笑が起こったそうです。議長は「心配しないで。彼らはみな『新しいこと』を試すことができると、幸せに感じているのです。たいていの人は『3倍まで』と答えるものだから」と話したそうです。

実際に100倍の複雑性をもった動画コーディングが実現可能か、実現できたとしてエンコーディングや再生の環境が整うのかは大問題ですが、テクノロジーの問題は時間が解決してくれるという楽観的な考えがあります。

2006年11月に出されたIEEE Signal Processing Magazineには、「ビデオコーディングは死んだのでしょうか?H.264/MPEG-4という高圧縮コーデックの登場によって、そう感じる人もいることでしょう。もはや、これ以上、高圧縮を求める必要はない、と。しかし、1976年にビデオコーディングの研究を始めて以来、少なくとも4度、『ビデオコーディングは死んだ』という同じような議論が行われたことを認めなければなりません」とエドワード・デルプ博士のコメントが取り上げられています。デルプ博士の研究開始から40年以上たった2018年現在でも、同様の議論が行われているとNetflixは考えているようです。

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in ソフトウェア, Posted by darkhorse_log

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