サイエンス

作業しながらだと記憶がほんのわずかしか保持できない理由とは?


短い時間の中で情報を保持し、同時に処理するための能力である「ワーキングメモリ(作業記憶)」は、同時に4つ、ないし5つまでしか保持できないとされています。なぜそんなに少ない数値にとどまってしまうのかのメカニズムが、マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究により解明されています。

Working Memory Load Modulates Neuronal Coupling | Cerebral Cortex | Oxford Academic
https://academic.oup.com/cercor/advance-article/doi/10.1093/cercor/bhy065/4955775

Overtaxed Working Memory Knocks the Brain Out of Sync | Quanta Magazine
https://www.quantamagazine.org/overtaxed-working-memory-knocks-the-brain-out-of-sync-20180606/

いかに知識人でも平均して7つのことまでしか意識的に覚えていられないという研究が、1956年に有名な認知心理学者George Miller氏によって発表されました。この「マジカルナンバー7の法則」から研究は進み、実際の作業記憶の限界値は4つまたは5つに近くなることが発見されましたが、そのような低い数値にまとまってしまう理由は解明されてきませんでした。

2018年3月にCerebral Cortexで発表された論文によると、この原因は、脳の各部位間での「フィードバック」の信号が記憶を弱めることにあるとのことです。


作業記憶をつかさどるのは、前頭前皮質、補足眼野、頭頂葉の3つの脳領域を含むネットワークであることは、以前から判明していました。そこでMITの神経科学者Earl Miller氏らは、猿にさまざまなスクリーンを示すことで作業記憶の脳波についてのテストを行いました。

実験ではまず、猿に色の付いた四角形のセットを見せ、続いて一時的に白紙のスクリーンを見せました。その後もう一度最初の画面を、四角形の色を変えた状態で表示。色を変えた四角形の数を変化させながらテストを何度か繰り返し、電極から脳波のタイミングと頻度を記録しました。


Miller氏らは、作業記憶をつかさどる3つの脳領域のネットワークがどのように機能するかについて、猿から取得した脳波のデータをもとに、ネットワークの構造と活動に関する詳細なメカニズムモデルを構築しました。


研究によると、前頭前皮質は低レベルの脳領域へと伝達するトップダウンもしくはフィードバックの役割を、補足眼野と頭頂葉はそれぞれボトムアップまたはフィードフォワードの役割を担い、前頭前皮質のより深い領域に未処理の知覚入力を送ります。

作業記憶はこのような「話し合い」で成り立っているのですが、記憶すべき項目の数が猿の作業記憶の容量を超えたとき、前頭前野から他の2つの領域へのトップダウンフィードバック接続が壊れていたことをMiller氏らは発見しました。要するに、作業記憶は脳の3つの部分が連動して行われますが、負荷が大きくなるとその同期が壊れてしまうことにより、作業記憶を多く保持できなくなるのです。


負荷が大きくなるとトップダウンのフィードバックが壊れてしまう理由としては、トップダウンを担う前頭前皮質は単純な記憶ではなく脳が知覚するものについての一連の予測をモデル化する点にあるとMiller氏は仮説を立てています。メモリが大きくなると記憶を予測に変換するプロセスが過負荷状態になり失敗し、メモリが崩壊してしまうとのことです。

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in サイエンス, Posted by log1e_dh

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