メモ

人々を影から操る「フェイクレビュー」との戦いとは?

by Ed Ivanushkin

フェイクレビューとは、商品やサービスに対する評価を商品やサービスの提供者自身が行って不正に商品やサービスの評価を上げるか、反対に気に入らない商品やサービスにわざと否定的なレビューを投稿して評価を下げようとする行為のこと。21世紀でも通販サイトにおけるフェイクレビューが問題となっていますが、フェイクレビューの歴史は非常に古く、実に19世紀にまでさかのぼるそうです。

The Never-Ending War on Fake Reviews | The New Yorker
https://www.newyorker.com/tech/elements/the-never-ending-war-on-fake-reviews

1855年、アメリカ合衆国の詩人であるウォルト・ホイットマン氏は詩集「草の葉」を刊行したところ、「わいせつである」「強烈に下品」といった批判を受けました。ホイットマン氏は1881年と1889年に改訂版を発刊するほど「草の葉」に大きな思い入れを持っていましたが、人々の批判に対して自分の名前を使って対抗することはありませんでした。代わりに、ホイットマン氏は匿名で「草の葉」に対する肯定的な評価を公表し、「草の葉」に対する大きな賛辞を送ったとのこと。別人を装い自身の作品に対して好意的な評価を行ったホイットマン氏の行為は、フェイクレビューのはしりであるといえます。

百年以上も昔からフェイクレビューは行われてきましたが、近年はインターネットによるレビューサイトの発達により、以前にも増して手軽にフェイクレビューを投稿できるようになっています。2012年にはイギリスの小説家であるR. J. エロリー氏が、別名のアカウントを作って自作のAmazonレビューに高評価を与えていた上に、ライバルの小説に対して否定的なレビューを行っていたことが判明。エロリー氏は罪を認めて謝罪の文章を公表し、「間違ったことをしてしまい、後悔している」と語りました。

by Drunk Photographer

出版以外の業界においては、フェイクレビューを投稿することは「レビューブラッシング」とも呼ばれており、一種のビジネスとして成り立つほどになっています。2014年にはノースウェスタン大学の研究者であるハイタオ・シュ氏が、インターネットのブラックマーケット上に存在する「レビュー代行業者」を監視し、わずか2カ月の間に1万1000を超える代行業者が25万件を超えるフェイクレビューを行ったことを確認しました。自らに肯定的なレビューや、ライバルに対する否定的なレビューの代行を依頼した依頼主は、レビューごとに数十セント~5ドル(数十円~約550円)の料金を支払ったとのこと。

オンラインマーケットを運営するアリババの不正監視センターで勤務していた経験を持つシュ氏によれば、消費者は企業が打ち出す広告よりも他のユーザーが投稿したレビューを重視する傾向にあり、好意的なレビューは戦略上大きな役割を果たしているそうです。ユーザーからの評価が高いウェブストアは検索の上位に表示されますが、評価がされなければユーザーの目に留まることはありません。そのため、レビューブラッシングをしているか否かという点は、収益に大きな差をもたらしかねないとシュ氏は主張しています。

by Richard Patterson

2017年、ライターのオーバー・バトラー氏は「フェイクレビューによって、レストランのレビューにどれほどの影響を与えられるのか?」ということを調べるべく実験を行いました。かつてバトラー氏は企業から依頼を受け、1件20ドルでフェイクレビューを投稿したことがあり、その時の経験から今回の実験を思いついたそうです。

まず最初に、バトラー氏は「Shed at Dulwich(シェド・アット・ダリッチ)」という名前の、実際には存在しない架空のレストランを作り出しました。シェド・アット・ダリッチは実在する店舗を持たず、名前しか存在していないレストランでしたが、バトラー氏は入念に皿や料理の写真を撮影し、シェド・アット・ダリッチを口コミサイトのトリップアドバイザーに登録しました。


なお、バトラー氏はジョークとして1日だけシェド・アット・ダリッチを開店したことがあり、その時に撮影されたムービーが公開されています。

裏庭の物置小屋をロンドンで最も人気のレストランに仕立て上げる方法が公開中


その後、バトラー氏がシェド・アット・ダリッチについての肯定的なフェイクレビューを大量に投稿したところ、わずか4週間でロンドンにある2000軒ものレストランの頂点にシェド・アット・ダリッチが君臨する事態になったそうです。バトラー氏は丁寧にレストランの電話番号まで用意し、「ディナーの予約をしたい」というお客に対して「予約が一杯で席を取れない」という返答まで行っていました。また、シェド・アット・ダリッチで食事をすることが不可能であるにもかかわらず、ライバルのレストランからと思われる「星1つのレビュー」まで受け取ったとバトラー氏は述べています。やがてシェド・アット・ダリッチに関するレビューは「偽装のものだ」として、トリップアドバイザーによって削除されたとのこと。


近年では、金銭的な見返りを求めるフェイクレビューだけでなく、政治的な主張にまでフェイクレビューが使われているという指摘もあります。アメリカの政治家であるヒラリー・クリントン氏が2017年に出版した回顧録「What Happened」は、あまりにも大量の星1レビューが付けられたため、Amazonが数千にもおよぶレビューを削除するという対応を行いました。

もはやレビューが可能な多くのサイトにとって、フェイクレビューとの戦いは避けて通れるものではありません。Amazonでは短期間に大量のレビューを行ったアカウントに対しては、「購入を確認した商品のみレビューできるようにする」という対応をとることで、大量にフェイクレビューを投稿できないようにしているとのこと。また、ゲームのダウンロード販売を行うSteamでは、レビューを行うユーザー自体の信頼性を「ユーザー評価」として評価し、レビューの表示順に反映させるなどしています。

サイト運営者がさまざまな対策をとっているものの、架空のレストランレビューを投稿したバトラー氏は、フェイクレビューの危険性は完全に拭い去れるものではないとしています。「なぜなら、私が未だにトリップアドバイザーのアカウントを削除されていないからです」と、バトラー氏は述べました。

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in メモ,   ネットサービス, Posted by log1h_ik

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