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旅のあり方を激変させた「トリップアドバイザー」が直面する大問題とは?


旅行口コミサイトのトリップアドバイザーは2000年に設立され、初期投資額300万ドル(約3億3000万円)から時価70億ドル(約7700億円)にまで成長したスタートアップ。旅行のあり方を大きく変えたトリップアドバイザーですが、大きな問題に直面しているとして、ライターのLinda Kinstlerさんが問題を指摘しています。

How TripAdvisor changed travel | News | The Guardian
https://www.theguardian.com/news/2018/aug/17/how-tripadvisor-changed-travel


トリップアドバイザーを使う人は毎月4億5600万人という莫大な数に上り、書籍におけるAmazonや検索におけるGoogleと同じように、トリップアドバイザーは「旅行」という分野で支配的・独占的な位置を占めています。このような「レビュー」形式のネットサービスは影響が非常に大きく、「星1つ」という悪い評価は「爆弾並みの威力」といわれるほど。

もちろん逆にいうと、ポジティブな評価もホテルやレストランの収益に直結しており、トリップアドバイザーの競業であるYelpを調査した研究によると、評価の星が1つあがることは、収益が5~9%上がることを意味するとのこと。海外において、トリップアドバイザーの登場前、客は名ばかりの「王様」でしたが、トリップアドバイザーの登場によって客は現実的にお店の命運を左右する力を持った「暴君」へと変わったといえます。このため、ホテルやレストラン側がネガティブなレビューを書いた客を訴えることも少なくありません。


また、いわゆる「評判経済」が成長したことで、評判を売買して「偽のレビュー」が投稿されることも増えています。偽のレビューがどのようにして広まっていくかを実験した人もおり、「物置小屋が一流レストランに仕立て上げられるまで」の様子も公開されています。

裏庭の物置小屋をロンドンで最も人気のレストランに仕立て上げる方法が公開中 - GIGAZINE


なお、トリップアドバイザーには故意に「偽のレビュー」が載せられることも。映画「グランド・ブダペスト・ホテル」の舞台となったホテルは、以下のように「これはフィクションの中の場所です」という注意書きと共に掲載中。レビューは360件も投稿されており、現実の多くのホテルのレビュー数を上回っています。

THE GRAND BUDAPEST HOTEL (The Republic of Zubrowka, Hungary) - Reviews & Photos - TripAdvisor


偽のレビューは、本物のレビューを妨害することもあるため、トリップアドバイザーの運営側は偽物の投稿の削除に力を入れています。しかし、その際に本物の投稿を削除してしまうこともあり、このような「誤った削除」が施設に対する盗難や性暴力の報告に対して行われると、より深刻な被害を生み出しかねません。

これまでの現実世界においても、「偽の評判」は存在しましたが、「トリップアドバイザーでは、我々がこれまでに見たことのないスケールで『フェイクレビュー』が行われています」とオックスフォード大学のサイード・ビジネス・スクールで評判経済の年代記を記すRachel Botsman氏は語ります。ホテルやレストラン側は、悪いレビューを抑えていいレビューを目立たせる「評判管理企業」や、ライバルの悪評を投稿する代理の会社を雇うことが可能です。この点、コーネル大学の研究者は、本物のレビューが「バスルーム」「価格」「チェックイン」といった具体的な言葉を使うのに対し、偽のレビューが「休暇」「夫」「ビジネス旅行」といった場面描写の言葉を使うことも発見しています。

このような偽のレビューに対処するため、トリップアドバイザーでは何百という社員がコンテンツモデレーションに取り掛かっています。偽のレビューを投稿する人の目的は、ほとんどがランキングの操作とのことで、トリップアドバイザーは過去3年でレビューの販売を行う企業60社を特定・廃業させることに成功しているといいます。しかし、依然としてこのような会社は多く存在します。

by Roman Carey

トリップアドバイザーは偽レビューの疑いのあるパターンを検知するソフトウェアを導入していますが、偽レビューはどんどん洗練されていっているため、ソフトウェアだけで全てを検知するのは難しいそうです。トリップアドバイザーのヴァイスプレジデントであるBradford Young氏は「トリップアドバイザーが見ているのは10%、氷山の一角です。私たちに見えない残り90%が非常に危険で、問題となっています」と語りました。

一方で、偽のレビューではなく本物のレビューが問題を引き起こすことも。アメリカ・カンザス州で農家として働くRandy Winchesterさんは、娘をミズーリ州にあるBigfoot Fun Parkに連れて行きました。Winchesterさんたちは家畜の群れを見ることができるサファリツアーに参加したものの、あまり内容に興味が持てなかったWinchesterさんは、トリップアドバイザーに「すべてがそこそこの体験だが、10ドル以上支払う必要があり、がっかりした」と書き込みました

すると、Winchesterさんはパークのオーナーから「訴えてやる」と脅迫的なメッセージを受けとったとのこと。これを受けて「星3つ」だった評価を「星1つ」に下げたWinchesterさんですが、最終的に「レビューが名誉棄損にあたる」として2万5000ドル(約270万円)を求める裁判を起こされました。アメリカでは言論の自由は守られますが、企業の中にはレビューした人がレビューを削除せざるを得なくなるように「嫌がらせ」の意味で訴訟を起こすところもあります。

by qimono

また、不正なレビューを削除しようとするあまり、トリップアドバイザーが本物の重要なレビューを削除してしまうこともありました。2010年の10月にメキシコのリゾート地・カンクンにあるホテルに宿泊したアメリカ人女性Kristie Loveさんは、「ルームキーが動作しなかったので警備員に助けを求めたが、茂みの中につれていかれてレイプされた」という内容をトリップアドバイザーに投稿しました。しかし、Loveさんの投稿はすぐに削除され、Loveさんの元には「サイトの『ファミリーフレンドリー』ポリシーに違反した」という通知が届いたとのこと。翌年、別の女性が同じホテルで警備員にレイプされたことが報告されています。

2017年11月にジャーナリストのRaquel Rutledge氏が、「トリップアドバイザーは性的虐待やその他の暴力犯罪に関する詳細な投稿を『ファミリーフレンドリーポリシー違反』として削除している」ということを明かしました。「どのくらいのネガティブなレビューがトリップアドバイザーによって差し止められているのかはわかりません。『本当に起こった恐ろしい体験』がどのくらい語られていないのかもわかりません。サイトでは、ユーザーが『支払いたくなる』ための情報が選ばれ、作られているのかもしれません」とRutledge氏は述べています。

Rutledge氏の記事を受けて、トリップアドバイザーの株価は大きく下がることになりました。そして、トリップアドバイザーは公式にLoveさんに謝罪を行い、Loveさんの投稿は2017年にトリップアドバイザーのフォーラムに再び表示されるようになりました。しかし、7年も前の投稿である故に、新しい投稿に埋もれてしまっているとのこと。

Iberostar Paraiso Maya - Rape - October 19, 2010 - Playa del Carmen Forum - TripAdvisor


また、安全上の問題が報告されたビジネスに対して3カ月の期限付きで「警告」を表示する仕組みも2017年からスタートしました。

TripAdvisor adds warning badges to potentially dangerous businesses - CNET
https://www.cnet.com/news/tripadvisor-adds-warning-badges-to-potentially-dangerous-businesses/


2017年に急激に株価が落ちて以降、株価は上昇し傾向にあり、2018年8月時点で2017年11月の倍にまで上っています。しかし、それでも会社の価値は2014年6月時点の半分ほど。オックスフォード大学のRupert Younger氏は、「その性質から見て、トリップアドバイザーは正しいことを行おうとしているように思えます。しかし、全てのテクノロジー企業がそうであるように、彼らは『どうやったら物事がうまくいくのか』というガバナンスの初期ステージに立っています」と語っています。「旅行」と「テクノロジー」は通常のルールが適用されない分野として知られていますが、「地球の半分の人口がサービスを使うことを想定してサイトを作らなかった」という問題がトリップアドバイザーには横たわっていることをYounger氏は指摘しています。

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in ネットサービス, Posted by darkhorse_log

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