サイエンス

「地球上には存在しない」と思われた結晶構造の氷がダイヤモンドの中から発見される

by Jennifer Boyer

私たちが通常食べたり目にしたりする氷に強い圧力をかけることで、構造や性質の違う新しいタイプの氷が形成されることがわかっています。「形成に必要な圧力が強すぎるため、『地球上には存在しない』と思われていた構造の氷がダイヤモンドの中から発見された」という報告が、科学雑誌Scienceに発表されています。

Ice-VII inclusions in diamonds: Evidence for aqueous fluid in Earth’s deep mantle | Science
http://science.sciencemag.org/content/359/6380/1136

What scientists found trapped in a diamond: a type of ice not known on Earth
http://www.latimes.com/science/sciencenow/la-sci-sn-water-in-diamonds-20180308-story.html

氷に高い圧力を加えると相転位を起こして原子の結晶構造が変化し、異なる結晶構造や性質を持つタイプの氷を形成することが知られています。例えば、通常私たちが目にする酸素原子が六方晶形に並んでいる氷Iと呼ばれるタイプは、強い圧力を加えると、酸素原子の並びが違う氷IIへと変化します。さらに強い圧力をかけていくと最大で氷XVIまで変化することが判明していますが、今回発見されたのは「氷VII」というタイプ。氷7のような非常に強い圧力下で形成される氷は地球上には存在せず、実験室内のような特殊条件下でしか作れないものと考えられていました。


科学者たちは「氷VII」が土星の衛星エンケラドゥスや木星の衛星エウロパのような氷でできた星の内部や、巨大な海を持つ土星の衛星タイタンの海底などにしか存在しないと考えていました。氷7を形成するために必要な圧力は非常に高いものであり、地球上でそのような圧力を得られるのはマントルの深いところになってしまうため、氷を作るには温度が高すぎるのです。

ところがネバダ大学の地球学教授であるOliver Tschauner氏は、地球上の自然界に存在しないと考えられていた氷VIIを地球上で発見したと発表しました。なんと、Tshauner氏が氷VIIを発見したのはダイヤモンドの中だったとのこと。

by Christophe Capeau

ダイヤモンドの結晶は地下400マイル(約650キロメートル)ほどの深さにあるマントル内で作られ、その結晶が急速に地表付近へ移動して冷えることで私たちが見るようなダイヤモンドになります。その形成過程において、ダイヤモンドはマントル付近の物質をカプセルのように結晶内で封じ込め、内容物と一緒に冷えて固まってしまうことがあるそうです。

こうしてダイヤモンド内に内容物が入ったまま採掘されることがあるのですが、カプセル化したダイヤモンドの内包物は封入された時の圧力と同じ圧力のまま、ダイヤモンド内に封じ込められています。「ダイヤモンドの格子構造はあまり弛緩しないため、マントルの奥深くにあるときでも、人の手の中にある時でも内包物にかかる圧力と体積はほとんど変わりません」とTshauner氏は述べています。

地球のマントル付近にある水分子は、周囲の温度があまりにも熱すぎるため、いくら圧力がかかっていても氷VIIに変化することはありません。しかし、ダイヤモンドの形成時に加圧された水分子が偶然にも封入され、カプセル化したダイヤモンドが急速に地表付近まで上昇して冷えると、ダイヤモンド内部の水分子も冷やされて結晶化します。その時に内部の圧力がマントル付近と変わらないため、水分子は氷Iではなく氷VIIの状態で結晶化するとのこと。

by Jonathan Lamb

Tshauner氏らの研究グループは、氷VIIを探してダイヤモンドの調査を行っていたわけではなく、本来は二酸化炭素の新しい構造を探してダイヤモンドのX線スキャンを行っていたそうです。「X線スキャンの過程で偶然にも氷VIIを見つけた時、私たちは非常に興奮しました」とTshauner氏は語っています。

今回の偶然ともいえる発見によって氷VIIは地球の自然界に存在することが判明したため、国際鉱物学連合に鉱物として登録されたとのこと。「ダイヤモンドの中から自然界に存在しないと思われた結晶が発見された」という今回のケースは、自然がもたらす偶然の作用が時として科学者たちが予想もしなかった現象をもたらす好例といえそうです。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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