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洋上風力発電は全地球の電力を生み出すことが可能、しかし一方で地球の気候に悪影響も

By Vattenfall

陸地から離れた海の上にいくつもの風車を建設し、強い風を受けて電力を生み出す洋上風力発電には、世界中で使われる電力を全て作り出せるだけの可能性があることが研究によって明らかになりました。しかし一方で、洋上の風のエネルギーを電力に変えることで、地球の気候の仕組みが崩れて良からぬ影響を受けることも同時に明らかにされています。

Geophysical potential for wind energy over the open oceans
http://www.pnas.org/content/early/2017/10/03/1705710114

There’s enough wind energy over the oceans to power human civilization, scientists say - The Washington Post
https://www.washingtonpost.com/news/energy-environment/wp/2017/10/09/theres-enough-wind-energy-over-the-oceans-to-power-human-civilization-scientists-say/

この研究を行ったのは、カーネギー研究所のKen Caldeira氏とAnna Possner氏らによる研究チームで、論文が米国科学アカデミー紀要(PNAS)で発表されています。その内容によると、海の上で吹く風は地上のものと比べて格段に力が強く、地球の文明を支えるのに十分な電力を生み出せるエネルギーを秘めているとのこと。

地形の影響を受けない洋上では陸地よりも70%も強い風が吹いており、この力を電力エネルギーに変換しようというのが洋上風力発電の考え方です。ヨーロッパを中心に研究と開発が進められている分野で、日本でも千葉県や秋田県の沖に巨大な洋上風力発電所を建設する研究が進められています。

洋上での発電には、風そのものが強いというメリットに加え、風が供給される仕組みの違いのおかげで効率が高くなる特徴があるとのこと。これを理解するにはまず、風が風車を回転させて発電を行うと、その風の力が弱くなってしまうという現象を理解しておく必要があります。複数の風車を一直線に並べて前から風を当てた時、最も効率よく電力を生み出せるのは一番最初に風を受ける風車です。しかし、2基め以降の風車では、発電の効率が大きく減少します。

By CGP Grey

風が最初の風車に当たって電力が生みだされると、それはつまり風のエネルギーが奪われて電力に変換されたことを意味します。仮に、風から電力への変換効率が50%だとすると、2基めの風車に当たる風の強さ(=エネルギー)は当初の50%しか残されていないことになり、2基めの風車で生みだされる電力は1基めの風車の半分しか期待できません。このように、風車が風に対して一直線に並ぶレイアウトになる時、風力発電は風のエネルギーを十分に受けることができなくなってしまいます。そのため、地上で風車を配置する時には、できるだけ風の向きと風車が直線上に並ばないように建設地が考慮されています。

しかし、洋上ではこの現象が大きく改善されます。特に、気温と水温が高い赤道付近では海面近くと上空の大気の対流が活発に起こっており、風の動きは水平方向だけでなく上から下へと吹き付ける風の動きも存在しているとのこと。そのため、洋上に配置された風車にはより多くの風エネルギーが供給され、陸地とは比べものにならないほどの発電効率が実現するとされています。


これを言い換えると、陸地での風力発電は地表近くを流れる風の運動エネルギーの一部をかすめ取っているだけであるのに対し、洋上風力発電は大気の対流圏のエネルギーを電力に変換することを可能にしている、というわけです。研究チームの試算によると、洋上風力発電は陸地の風力発電の3倍の電力を生み出すポテンシャルを秘めているとのこと。仮に、200万平方キロメートルの面積を持つ風力発電所を陸地に作ったとすると、そこで発電できる電力は中国とアメリカが必要とする「年間7テラワット時」を満たすことはできません。しかし、同じ面積の風力発電所を洋上に建設すると、これらの2大電力消費国の需要を満たした上で、さらに他の国にも電力を供給するだけの能力を備えることになると考えられています。

世界の電力消費量 | 電力消費量 | Enerdata
https://yearbook.enerdata.jp/electricity/electricity-domestic-consumption-data.html

今後、地球では電力需要がさらに高まることが確実視されており、いつまでも化石燃料や原子力に依存しつづけるわけにはいきません。そんな中で期待を集めることになりそうな洋上風力発電ですが、必ずしもよい点ばかりではないとのこと。風のエネルギーを電力に変換するということはつまり、地球を取り巻く風の動きが弱まる、または変化するということにつながります。地球を大きく循環する風には、地球の大気の熱を移動させる働きがあるのですが、風が弱まることでこの移動が滞り、従来の気候モデルが影響を受け、地球全体の気候バランスが崩れることで、予想だにしなかった気候変動が地球規模で起こるとも考えられているのです。


Caldeira氏は、「文明を支えるほどの電力を風から取り出すということは、問題をもたらすでしょう」と指摘。しかし同時に、洋上風力発電に依存する比率を下げ、発電設備をあまり大きくせず、さらに地球上の数地点に分散して配置することで悪影響を軽減することも可能であるとしています。

しかし本当に大きな課題となってくるのは、「予算」の問題かもしれません。基礎のしっかりした地上とくらべ、水深のある洋上に風車を建設し、地上よりもさらに強い風を受けても壊れない風車を何千基~何万基レベルで建設するには極めて多大なコストがかかり、その設備を維持するためにも多くのコストがかかります。そのコストを差し引いたうえで、洋上風力発電の研究開発を進めるべきかどうかは、今後の技術の発展を見守る必要がありそう。日本で進められていた洋上風力発電プロジェクトのうち、茨城県沖の計画では風の状況(風況)とコストが当初の想定よりも大きく外れたために、取りやめになったものも存在します。全ての計画に同じ問題が存在すると考えるのは早計ですが、洋上風力発電はまだまだこれから多くのことがわかってくる段階にあると言えそうです。

洋上風力発電のデメリット【洋上風力発電ナビ】
http://www.o-wp.net/demerit/

計画中の洋上風力発電プロジェクト取りやめ、コストと風況が想定から外れる (1/2) - スマートジャパン
http://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1701/13/news026.html

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in メモ, Posted by darkhorse_log

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