サイエンス

再生可能エネルギーをより効率的に活用するための鍵は「ビッグデータ」と「機械学習」

By Tony Webster

石炭・石油・天然ガスなどの化石燃料は世界中でエネルギー資源として使用されていますが、その量には限りがあり、数十年後には枯渇してしまいます。そこで、バイオ燃料を採用するなどの、代替エネルギーの開発が積極的に進められているわけですが、世界有数の再生可能エネルギー使用国家であるドイツの行っている「再生可能エネルギーをより効率的に使用するための新しい取り組み」が注目されています。

Germany enlists machine learning to boost renewables revolution : Nature News & Comment
http://www.nature.com/news/germany-enlists-machine-learning-to-boost-renewables-revolution-1.20251


ドイツでは風力発電用の風力タービンや太陽光発電用のソーラーパネルがきれいに列をなす光景が頻繁に見られます。これは、ドイツという国が、原子力発電や化石燃料を駆使した火力発電から、再生可能エネルギーにシフトしようとしていることを如実に現す風景です。ドイツは世界で最も再生可能エネルギーの活用に積極的な国ですが、それでも風や太陽光といった自然エネルギー由来の電力で国内すべての電力需要をまかなうことはできていないそうです。

そこで、気象学者やエンジニア、公益企業などが集まり、再生可能エネルギーをより有効に扱えるようにするために、ビッグデータと機械学習の活用をスタートしています。このプロジェクトは「EWeLiNE」と呼ばれており、プロジェクトリーダーにはヨーロッパ最大の研究機関であるフラウンホーファー研究機構で働く物理学者のマルタ・ジーフェルト氏が就任しています。プロジェクトの目標は「送電網を操作することで、再生可能エネルギーをより効率的に活用し、化石燃料の使用を最小限に抑えること」です。

EWeLiNE - Home


ドイツ国内の風力発電容量は約4万5000メガワットで、これは中国・アメリカに次いで世界で3番目に大きい数字です。しかし、ドイツの優れた点は、現状の発電量が多いことだけではなく、他の国とは比較にならないレベルで再生可能エネルギーへのシフトを進めているというところです。

ドイツでは国内の電力需要の3分の1を再生可能エネルギーでまかなっています。また、ドイツ政府は2050年までに少なくとも国内の電力需要の80%を再生可能エネルギーで供給するとしています。問題となるのは、無風や曇りの日、つまりは風力発電や太陽光発電による発電量が求められる電力量を下回る場合に、送電オペレーターが他の発電施設に対して足りない分の電力をどれくらい要求すれば良いか、という点だそうです。また、異常に風の強い日や日差しの強い日、つまりは風力発電や太陽光発電による発電量が予測されていた電力量を上回る場合に、他の発電施設から供給してもらう電力量を即座に減らし、無駄な出費を防ぎ再生可能エネルギーを有効に活用することも求められます。

以下のグラフは風力発電や太陽光発電といった再生可能エネルギーの不安定さを示すグラフ。グラフではドイツ国内で2016年5月2日から9日までの8日間に発電された電力の割合を、化石燃料による火力発電(グレー)・風力発電(緑)・太陽光発電(黄)に分けて示しています。再生可能エネルギーが最も効率良く発電されたのは5月8日の4時間ほどで、なんとドイツ国内の電力需要の70%以上を風力発電と太陽光発電でカバー可能なほどでした。しかし、発電効率の悪い時間帯には全体の1割もカバーできておらず、こういったばらつきが再生可能エネルギーの普及と無駄なエネルギー生産につながっているというわけ。


送電系統運用者は再生可能エネルギーの発電量が足りない場合、化石燃料を使用した火力発電施設などから足りない分の電力を供給してもらう必要があります。この不足分の補充で、ドイツは年間5億ユーロ(約590億円)を支払っている模様。また、風力発電や太陽光発電で多くの電力を発電できた場合でも、火力発電施設から供給してもらう電力が多ければ、余分な電力と二酸化炭素を排出することにつながります。気象学者のレナート・ハーゲドルン氏は「再生可能エネルギーは急速に拡大していますが、適切なデータベースを用いた電力予測システムは現在のところ存在しない」と語ります。

既に世界にはさまざまな天気予報システムが存在しますが、例えば、「風力タービンにどれくらいの強さの風が吹きつけるか?」といった部分まで予測できるシステムは存在しません。しかし、こういった情報が予測できるようになれば、風力発電によりどれくらいの電力が発電可能かがわかるようになります。


700万ユーロ(約8億2000万円)がつぎ込まれている「EWeLiNE」プロジェクトでは、「50Hertz」「Amprion」「TenneT」というドイツの3つの送電系統運用者と経済エネルギー省が協力し、2012年から発電量を予測するためのシステムを開発しています。風力タービンのほとんどは、タービンの中心部の風速を測るための装置を装備しており、ソーラーパネルには日光強度を測るための装置を取り付けることで、それぞれのデータを蓄積しています。

「EWeLiNE」プロジェクトでは、集めた風力や日光強度に関するデータをさまざまな大気観測データとかけ合わせることで、48時間後までの発電量を予測しています。さらに、研究チームでは予測データを実際の発電量と比較し、機械学習により予測精度を向上させる試みにも取り組んでいるそうです。プロジェクトに参加する研究者は、ドイツ国内の風力・太陽光発電施設で同システムをテストし始めています。

By Bruce Cowan

しかし、現状では観測データをリアルタイムで送電オペレーションに反映させることはできない模様。ただし、2年以内に観測データをリアルタイムで解析し、自動で送電量を調節可能なシステムの開発が「EWeLiNE」プロジェクトで計画されています。また、このアプローチが成功するであろう、という兆候もあります。

アメリカ大気研究センター(NCRA)では同様のシステムを2009年から開発しており、システムは現在アメリカの8つの州で使用可能です。アメリカで最も多い風力発電量を誇る電力会社のXcel Energyによれば、発電量予測システムのミスは2009年以降減少しており、他の発電業者から無駄な電力を購入することが減ったことから、年間6000万ドル(約63億円)の節約に成功していることを明かしています。

ただし、「EWeLiNE」プロジェクトでNCRAのシステムをそのまま使用することはできないそうです。これは、天気モデルや天気予報アルゴリズムなどがアメリカとドイツでは異なるためです。

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in サイエンス, Posted by logu_ii

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