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アメリカ軍も採用した「バイオ燃料」の普及に立ちはだかる問題点とは?

By Sandia Labs

化石燃料である石油に頼らず、穀物や動物に由来する材料をもとに精製されるバイオ燃料は、代替エネルギー源としての活用に期待が広がっています。実際に、アメリカ海軍が燃料として採用するなど実用化が進みつつあるバイオ燃料ですが、まだまだクリアしなければならない問題は少なくはないようで、その課題についてMIT Technology Reviewがまとめています。

Why Biofuels Aren't Working Out, Despite a Decade of Investment | MIT Technology Review
http://www.technologyreview.com/news/546196/the-problem-with-biofuels/

2016年1月中旬、アメリカ海軍は空母「ジョン・C・ステニス」など4隻からなる艦隊の立ち上げを発表しました。この艦隊は、燃料として従来の石油に牛の脂肪から作った成分を10%配合したバイオ燃料を使用しており、世界初のバイオ燃料を使った艦隊となっています。

US navy launches first biofuel-powered aircraft carriers | Environment | The Guardian


この「エコ」な艦隊は、20世紀初頭に世界一周を成し遂げたグレート・ホワイト・フリートになぞらえて、「グレート・グリーン・フリート」と名付けられています。アメリカ海軍は、2020年ごろまでに軍で使用するエネルギー源の50%を同様のバイオ燃料に置き換えることを目指しています。

Navy launching first Great Green Fleet next week - Pacific - Stripes


バイオ燃料は、再生可能エネルギーの普及で重要な役割を果たすと同時に、地球全体の二酸化炭素排出レベルに影響を与えないと言われていることから、サスティナブル(持続可能)な社会を実現するための再生可能エネルギーとして期待を寄せられています。しかし、その一方で総合的な二酸化炭素の収支や、強く懸念される食糧危機問題、そして実際問題としての経済性など、解決しないといけない問題は確実に存在しており、徐々に実現に向けて動き出しているバイオ燃料ですが、その前途は順風満帆というわけではないとも言われています。

2007年、当時のブッシュ大統領はアメリカにおけるエネルギー政策全般の政策指針を定めた「2007年エネルギー独立・安全保障法」に署名し、同法案が成立しました。この法律では、アメリカ国内に供給されるガソリンにトウモロコシやサトウキビといった原材料から作った燃料(エタノール)を混合することを定めるなど、それまでの石油に替わる燃料を大幅に取り入れることを盛り込んだ法律でした。

しかし、これらバイオ燃料の製造には多額のコストがかるといいます。MIT Technology Reviewによるとバイオ燃料がコスト的に見合う採算ラインは原油価格が1バレルあたり120ドル(約1万4500円)という水準とのことですが、2016年1月末時点の原油価格は1バレルあたり30ドル(約3600円)程度で推移しており、さらには1バレル10ドルまで下落する可能性もささやかれています。バイオ燃料に注目が集まった2005年ごろは原油価格が高騰していたために経済的なメリットも存在していたわけですが、現在となってはコスト面でのメリットは消滅したに等しい状態となっているとしています。

By . Shell

また、バイオ燃料は地球に優しいとする見方に疑問を呈する人も少なくありません。作物をもとに精製されるバイオ燃料を燃焼させても、排出される二酸化炭素はもとから地表に存在していたため、トータルで考えると地表の二酸化炭素量には影響を与えないとするのが「グリーン燃料」とも呼ばれるゆえんなのですが、実際には精製時の処理や、作物を育てるための農機具などに多量のエネルギーを必要とすることから、二酸化炭素のトータルバランスは石油よりも悪化するという声すらあるとのこと。

さらには、バイオ燃料の原料としてトウモロコシなどの穀物を使うことで、新たな食糧危機が起こることにもつながりかねないリスクが存在しています。トウモロコシなどの穀物は先物取引で価格が決められるのですが、バイオ燃料が取り沙汰されるようになってからは、その価格が2倍以上に跳ね上がったこともありました。世界の貧しい国では1日あたり1ドル以下で生活している人も多く、食べ物の値段が高すぎて買うことができないという問題が存在しているのですが、価格の高騰が起こるとさらに多くの人が食べ物に困るという事態が引き起こされかねません。

同時に、食べ物そのものが燃料生産に振り分けられることで、文字どおりの「食糧難」が起こる危険性も存在しています。生産された穀物は燃料用に出荷する場合のほうが良い価格で売れるので、農家が燃料用にばかり出荷してしまうという事態が起こるというわけです。

By Bill Ohl

代替燃料としてのバイオ燃料は、中東の石油に多くを依存するという現状に対する危機管理の観点からも引き続き開発を進める価値は十分にありますが、目の前には数々の問題が山積みになっていることも一方では事実と言えます。解決しなければいけない課題はコスト面や環境面、そして従来からのエネルギー政策に対する利権問題など多くが存在しており、バイオ燃料の普及はこれらの点が以下に解決されるかが大きな鍵を握っていると言えそうです。

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in メモ, Posted by darkhorse_log

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