風を受けてゆらゆら揺れることで発電する風車のない風力発電機「Vortex」
「風力発電機」と聞くと、多くの人は直径数十メートルにも及ぶ巨大な羽根が回転する風車翼タイプのものを連想するハズで、現に多くの風車が世界各地で発電に用いられています。そんな中、スペインに拠点を置く企業「Vortex Bladless」が開発を進めている「Vortex」は回転する羽根を持たず、長い1本の棒がユラユラすることで電力を得るという新しい風力発電機になっています。
Vortex
http://www.vortexbladeless.com/home.php
The Future of Wind Turbines? No Blades | WIRED
http://www.wired.com/2015/05/future-wind-turbines-no-blades/
Vortexがどのような発電機で、どうやって発電するのかは以下のムービーを見るとわかるようになっています。
Vortex .Bladeless Wind Generator. - YouTube
「構想は『タコマ・ナローズ橋』の惨劇から始まりました」と語るのは、Vortexを開発するVortex Bladlessの設立者の1人であるダヴィデ・ヤニェズ氏。
ここで語られているタコマ・ナローズ橋とは、吹き付ける風を受けて大きく揺れながら崩壊してしまったことで有名なアメリカの橋。1940年に開通したタコマ・ナローズ橋は当時の最高技術を投入して建設された鉄骨製の吊り橋でしたが、開通直後から吹き付ける強風を原因とする橋全体の自励振動(じれいしんどう)が原因で大きく揺さぶられるという問題が続き、開通から4か月でついに崩壊してしまいました。崩落に至る一部始終を収めた以下のような映像を目にしたことがある人も多いハズ。
Tacoma Narrows Bridge Collapse "Gallopin' Gertie" - YouTube
この振動の大きな原因となったのが、吹き付ける風によって発生した「空気の渦」であると考えられています。橋の真横から吹きつける風が反対側に抜ける際に、橋桁の後端で発生した空気の渦が大きな力となって橋桁を振動させ、さらに振動が渦を増大させる効果を引き起こして振動のエネルギーがどんどんと高まり、ついには橋を破壊するほどの振動に至りました。
しかし、橋を破壊するほどのエネルギーを発生できるのであれば、逆にこれをうまくコントロールすることでエネルギーを取り出すことが可能なはず。そのような考えから生まれたのが「Vortex」というわけです。Vortexは棒状の羽根に当たる風による渦を利用して羽根を左右に細かく振動させ、その大きな力を発電に活かそうというもの。専用の実験施設を使って詳細な研究が進められています。
そして、研究結果をもとに実際の試験機も作成され、実際に発電を行うところまで開発は進められています。
ヤニェズ氏はVortexの仕組みについて「空気のような流体によるエネルギーを、Vortexのような構造物に変換する優れた方法です」と語っています。
ムービーでは、実際にVortexが風を受けてゆらゆらと左右に揺れている様子を見ることもできます。従来の回転羽根を持つ風力発電装置に比べ、構造がシンプルなために建造コストが最大で47パーセントにまで削減できることも強みであると同社では語っています。
よく見ると、Vortexは細いロッドを介して上下2分割の構造になっていることがわかります。下部の筒の中には2つの反発する磁石が内蔵されており、左右に揺れる上部の羽根の動きを電気エネルギーに変えて発電するようになっているとのこと。
上部の羽根は軽量のカーボンファイバーとFRP(ガラス強化繊維)で作られており、強度と軽さが両立されているとのこと。羽根を軽量化することによって、発電の効率を高めることができるそうです。
現時点での試験機の結果をもとに、同社ではまず4キロワットの発電能力を持つタイプを製品化する計画を進めています。これは、一般的な家庭用太陽光発電システムと同じぐらいの発電力にあたります。
画像右にあるのが4キロワット型の「Vortex Mini」。さらに同社では1メガワット以上の発電能力を持つ「Vortex Gran」の計画をも視野に入れているとのこと。Vortex Miniは産業用発電や一般家庭などのすぐ近くに設置するタイプの発電装置として、Vortex Granはさらに大規模な発電能力を備え、電力供給会社などでの活用をも視野に入れた設計が行われる模様です。
さらに、全高3メートル程度で出力100ワットという小型のタイプも考えられており、これは開発途上国での活用を考えているとのこと。同社はすでにスペイン国内で100万ドル(約1億2000万円)の資金提供を得ることに成功しており、今後はアメリカへの進出も検討されています。
従来の回転翼タイプの風力発電機と比較した際のVortexの性能はこんな感じ。理論上の製造コストは53%の削減が可能で、運用コストも51%削減できるとのこと。さらに、回転部分を持たないことでベアリングやギヤの摩耗が発生しないことなどから、メンテナンスにかかる費用は80%の削減が可能というから驚きです。
ただし、発電効率そのものは回転翼タイプに比べて30%~40%にとどまるというのが弱点といえば弱点。その場合でも、巨大な回転翼を持つ従来の風力発電機に比べて1基あたりのフットプリント(占有面積)が少なくて済むVortexの特性を最大限に活かすことで以下のようにズラリと並べて設置することで、トータルでの発電効率が改善されると同社ではそのメリットを語っています。
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