高齢者のプログラミング学習におけるモチベーション・挫折の理由・適した学習素材を調査するとこうなる
By Bryan
2030年までに世界人口の16%が60歳以上になるという「高齢化世界」になりつつある近年では、30代後半や50代からでもソフトウェア開発者になる人や、60代になっても「生涯現役開発者」を貫く人がいるように、高齢者の間で「プログラミング学習」の需要が高まってきています。そこで高齢者がプログラミング学習を始める動機や、学習を始めてから挫折してしまう理由、高齢者に適したプログラミング学習の機会の作り方などを調査した研究結果が報告されています。
paper - older-adults-learning-programming_CHI-2017.pdf
(PDFファイル)http://pgbovine.net/publications/older-adults-learning-programming_CHI-2017.pdf
Older Adults Learning Computer Programming: Motivations, Frustrations, and Design Opportunities | blog@CACM | Communications of the ACM
https://cacm.acm.org/blogs/blog-cacm/217281-older-adults-learning-computer-programming-motivations-frustrations-and-design-opportunities/fulltext
カリフォルニア大学サンディエゴ校のPhilip Guoさんは、Human Computer Interaction(HCI)に関するカンファレンス「CHI 2017」に登壇し、「高齢者のコンピュータープログラミング学習:モチベーション、フラストレーション、機会設計」という論文を報告し、選外佳作賞を獲得したとのこと。
この論文は、K-12から大学生以上など、若者が主流のプログラミング文化において、「意欲のある60歳以上の高齢者はどうやってコードを学んでいるのか?」ということを調査したもの。国連の推定では2030年までに北アメリカとヨーロッパにおける60歳以上の人口は25%に達すると見られ、世界人口で見ても60歳以上の世代が16%を占めるようになると考えられています。こういった理由から、高齢者をターゲットにしたプログラミング学習に関する研究が行われることとなりました。
By Jody Morris
Guoさんは10年以上前から人気コード学習サイト「Python Tutor」を運営しており、これまでに180カ国から合計350万人の訪問者を得ています。Python Tutorでは55歳以上がユーザーベースの16%を占めていることから、Guoさんは高齢者向けに10の質問を作成し、オンラインでアンケートを募りました。その結果、52カ国・504人(平均年齢66.5歳)から回答を得ることができ、それぞれを分析した結果が以下のようになっています。
◆モチベーション:なぜプログラミング学習を始めたのか?
・22%の回答者は若い頃に逃した機会を補うために学習を開始。
・19%の回答者は高齢化に伴う脳の運動、アンチエイジングのため学習を開始。
・5%の回答者は子どもや孫などの近しい存在から影響を受けたことから学習を開始。
◆フラストレーション:プログラミング学習を始めて挫折してしまった理由は?
・14%の回答者は物忘れや集中困難などの知覚障害によって学習を挫折。
・11%の回答者は配偶者の介護などを抱えていたため、自由時間の不足から学習を挫折。
・10%の回答者はオンライン学習以外に教育ツールがなく、気軽に通える環境が整った教室・問題を話し合える講師や同レベルの仲間がいないことで学習を挫折。
◆高齢者に適したプログラミング学習ツールのデザインについて
今回の研究を「Learner-Centered Design of Computing Education: Research on Computing for Everyone」が提唱する学習者向けのコンピューティング学習フレームワークに適用した結果、Guoさんは3つのプログラミング学習における設計プロセスを打ち立てました。
・ターゲティング
高齢者が「これは自分のために作られたようだ」と感じるようなカリキュラムとツールが必要です。回答者を分析した結果、高齢者は「Lumosity」などの脳トレーニングアプリを好む傾向があり、脳トレーニングを備えたプログラミング教育ツールなどが高齢者向けに適している可能性があるとのこと。
・文脈化
汎用性の高い学習素材を押しつけるのではなく、学習者の年齢に沿った学習ツールを提供することも重要です。例えば高齢者向けのデジタルメディアや個人の医療データを管理するツールなどを作成するプログラミングプロジェクトに携わることで、モチベーションを保って学習を継続できることが期待されます。
・ユニバーサルデザイン
ユニバーサルデザインとは本来文化・言語・国籍の違い、老若男女といった差異、障害・能力の如何を問わずに利用することができるデザインのことを指しますが、高齢者などの特定の層に特化したデザインにすることは、最終的には誰にとっても使いやすいデザインにつながるともいえます。例えば高齢者が不満を抱くことなくコード学習を行うことができるような、認知障害と運動障害の両方の影響を緩和できる次世代教育プログラミング環境をデザインできれば、実際にはすべての年齢層に利益を与える学習ツールとなる可能性があります。
By emilykreed
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