サイエンス

読み書き・言語・計算能力や社会的スキルを改善&向上させる脳科学研究あれこれ

By SMI Eye Tracking

聞く、話す、読む、書く、計算する又は推論するなどの特定の能力が使用・習得できないことを学習障害と呼びますが、最新の脳科学研究の分野では、読字障害や計算障害を持つ子どもたちのスキルを改善するため、さまざまな学習方法が研究されています。新生児の脳波から言語能力の問題を早期発見できる方法なども開発されており、実用化されれば、学習障害を改善できるだけでなく、問題のない子どもたちの学力まで向上できる可能性を持っているとのことです。

How to Build a Better Learner - Scientific American
http://www.scientificamerican.com/article/how-to-build-a-better-learner1/


◆読み書きと言語能力


英語圏ではひらめきを得た瞬間のことを「Aha! experience(アハ体験)」といいます。ラトガース大学Infancy Studies Lab(幼年期学習研究所)April Benasich博士は、特定の周波数とトーンによって擬似的にアハ体験を認識させられる「インスタントAha!」という研究を行っています。生後6ヶ月の幼児にインスタントAha!を体験させた時の脳波から、「ひらめきを知覚しているか」ということが測定可能とのこと。新生児や幼児期の子どもの脳は音を知覚することができ、言語理解に必須の基礎過程になっているほか、読み書きスキルのベースを形成します。そのため、周波数とトーンに対する応答時間に遅れがあれば、脳が音に対する正常な反応を持っていないと判断できます。

通常3歳~5歳になるまでは脳に言語障害があるかどうかは分からないのですが、インスタントAha!は生後6ヶ月時点で問題を予測することができるとのこと。つまり、幼児の将来的な言語問題を早期発見することで、成長途中の脳を修正できる可能性が得られるわけです。また、この研究を応用することで、問題のない脳を持つ幼児の基礎言語能力をさらに向上できる可能性もあるとのこと。

By {bathe in light}

また、ジョン・ガブリエリ神経科学教授が主導するハーバード大学とマサチューセッツ工科大学の共同プログラムでは、脳の標準的な検査方法と遺伝検査を組み合わせた、読字障害や失読症の新しい検査方法が提案されています。この方法もラトガース大学の脳波検査と同様に、初期段階の言語障害を治療できる可能性を持っており、実現されれば一般児童の学力向上にも貢献できるとのことです。

◆「数感覚」開発ツール
フランス国立衛生研究所の神経科学者スタニスラス・デハーネ氏は、小児の初期段階の算数障害を研究する人物。デハーネ氏は、新生児が生まれた時から持っている「数を認識する能力」を「数感覚」と呼んでおり、数感覚を欠損した状態で生まれた子どもは、将来的に計算などがうまくできなくなると説明しています。

デハーネ氏は学業遅滞児の数感覚を開発する方法を研究しており、「Number Race」という計算能力を向上させるゲームを考案しました。オープンソースで公開されたNumber Raceは8言語に翻訳されており、フィンランド政府が支援する研究所など、2万人以上の教育者からダウンロードされています。

The Number Race - Teaching Arithmetic and Treatment of Dyscalculia
http://www.thenumberrace.com/nr/home.php


◆セルフ・コントロール
認識力・注意力・自制心などを統括する能力は「実行機能」と呼ばれており、実行能力が優れていると学校や社会で成功する確率が高くなる、と考えられています。この自制心や実行機能をテストできるのが「マシュマロ実験」で、マシュマロが1つだけ置かれた部屋に子どもを呼び、「15分間だけ部屋から出て行くけど、私が帰るまでにマシュマロを食べずに我慢できたら、マシュマロをもう1つあげよう」と伝えて、子どもたちが自制心を保てるかテストするというもの。

1972年に行われたマシュマロ実験は実行機能と社会的成果の関連性と重要性を示した実験となっていますが、実行機能が開発できるスキルであることを証明したのが、「Tools of the Mind」という教育カリキュラム。「誘惑に抵抗しながらタスクを実行する」というカリキュラムになっており、脳のメモリ(作業領域)や、柔軟な思考力を向上させることが可能とのこと。

Home - Tools of the Mind
http://www.toolsofthemind.org/


また、アメリカで流行した教育本「タイガー・マザー」の著者エイミー・チュア氏は、子どもにバイオリンとピアノの演奏をさせるなどの「音楽教育」を推奨しています。ノースウェスタン大学のニーナ・クラウス博士が率いる神経科学者チームは、楽器の演奏が知能ではなく、注意力・作業領域・セルフコントロール力を向上させると主張しています。

◆誇大広告への警戒
学力を向上させる学習ツールやトレーニングの中には、科学的根拠のないものが多く出回っているため、人々を惑わせる「誇大広告」ツールを多くの科学者が検証しています。クラシック音楽を聞かせると頭が良くなるという主張は「モーツァルト効果」と呼ばれていますが、ハーバード大学の研究で否定されています。音楽教育で脳に影響を与えられるのは「楽器の演奏」であり、音楽を聞くだけで頭が良くなる、ということはないようです。

また、Journal of Child Psychology(児童心理学ジャーナル)で発表されたメタ分析の結果によると、有名な言語障害トレーニングツールの「Fast ForWord」は言語障害や読字障害を持つ子どもたちに対して、有効ではなかったことがわかっています。他にも科学的根拠を持つと主張する学習ツールは世に氾濫していますが、「有名な学習ツール」というだけで、有効性をうのみにしないよう注意が必要です。

Fast ForWord® | Scientific Learning
http://www.scilearn.com/products/fast-forword

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log

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