サイエンス

知育ゲームでよく見る「科学的根拠に基づいたゲームデザイン」という記述の信用性とは?

By yuan2003

知育ゲームやアプリの製品ページでよく目にする「有名大学の教授監修」や「実際の研究に基づいたゲーム設計」といった記述は、ゲームの信頼性を上げユーザーの購入意欲を引き立てることがあります。しかしながら、長寿に関する研究を数多く手がけている「The Stanford Center on Longevity」と人間発達学の研究を行う「Max Planck Institute for Human Development」が、知育ゲームやアプリが使用する「科学的根拠」に疑問を抱き、識者を一同に集めて意見交換したところ思わぬ事実が発覚しました。

Brain-Training Companies Get Advice From Some Academics, Criticism From Others - The Chronicle of Higher Education
http://chronicle.com/article/Brain-Training-Companies-Get/149555/

A Consensus on the Brain Training Industry from the Scientific Community
http://longevity3.stanford.edu/blog/2014/10/15/the-consensus-on-the-brain-training-industry-from-the-scientific-community-2/

The Stanford Center on Longevityの所長であり心理学者のLaura L. Carstensen氏によると、「実際の研究データに基づいて有名大学の教授がゲーム監修を務めた」という宣伝文句を見て知育ゲームを購入したユーザーから「『実際の研究データ』と『知育ゲームの効果』は全く関係ないものでは?」という問い合わせが多くあり、心理学の教授や研究者から心配する声が上がっているとのこと。そういった消費者や研究者の声を受け、心理学・神経科学・老年学の識者を70人集めて会合が開かれました。

会合では、「Lumosity」や「Cogmed」といった企業が知育ゲームの宣伝に使用しているデータや研究結果に透明性が欠如していたり、専門分野における規制を順守していなかったり、さらには研究者仲間や同分野の専門家によるピア・レビューが行われていないことが指摘されました。

By Steve Jurvetson

会合に出席したハーバード大学神経科学科の L. Todd Rose教授は「知育ゲームを販売している企業の研究に、大学の研究員が参加することがありますが、これは憂慮するべき事案です。研究員が自分の名前を、企業の製品販売のために売っているようなものですから」と発言。

また、ジョージア工科大学・心理学科のRandall W. Engle教授も「Lumosityから研究計画について聞かされた時、私は非常に悩みました。どうしてかというと、研究がLumosityの企業のために行われるのか、それとも科学的な目的のために行われるのか、よくわからなかったからです」と語り、研究者が知育ゲーム開発への参加に対して不信感を抱いていることが浮き彫りになりました。


ゲーム開発のアドバイザーとしてのオファーを受けたことがあるハーバード大学のRose教授は、研究が開始されるまでRose教授の名前をクレジット表記することを差し控えるという内容でゲーム開発企業と仮契約を結びましたが、仮契約を結んだ企業が出資を増やすためにRose教授の名前をゲームの製品ページに使用したことが発覚。憤慨したRose教授は、その後すぐに仮契約を破棄したそうです。

Rose教授は「個人的な見解になりますが、研究者がゲーム開発に参加してお金を得ることは、医学研究者が製薬会社からお金を受け取ることと同じだと思います。ゲーム開発企業が研究員に出すオファーはかなりの高額で、企業に不誠実な印象を抱いたとしても、オファーを受け入れることはあるでしょう」と話しており、同席していた他の識者もRose教授の意見に賛成していたとのこと。

By Toca Boca

カリフォルニア大学アーヴァイン校のSusanne M. Jaeggi准教授も知育ゲーム企業に対して不信感を募らせる人物の1人。Jaeggi准教授は数年前にLumosityのプロジェクトに協力したものの、協力した研究の結果やデータをLumosityから提供されないことに不信感を抱き、協力関係を破棄しました。しかしながら、いつまでたってもLumosityのサイトからJaeggi准教授の名前は削除されず、さらには他の企業までもが許可を取らずにJaeggi准教授の名前をクレジット表記している事実も発覚。

識者の中には「全ての知育ゲーム開発企業が、研究に関するピア・レビューを行わなかったり、参加研究員に対して不透明なデータ提供を行ったりしているわけではありません」と意見する人もいます。しかしながら多くの研究者は、正式なプロセスを経ずに行われた研究結果を科学的根拠として記載している知育ゲームに反対の意を表明しました。

By Traci Lawson

つまり、知育ゲームの紹介で有名大学の教授の名前が表記されていても、それが信頼できるかどうかはユーザー側から判断できるものではなく、知育ゲームに大きな効果を期待するよりは、ゲームとして楽しんだ方がよさそうです。なお、The Stanford Center on LongevityおよびMax Planck Institute for Human Developmentは、今後知育ゲームに対する調査を行うとしています。

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log

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