火星移住コロニーを目指して宇宙で食料を得るためにNASAが試みている最先端研究とは?
テクノロジー系ニュースサイトMOTHERBOARDのライターが、NASAのケネディ宇宙センターの研究室を訪問して、現在進行中の「宇宙で食料を得る研究」について取材をしています。そこでは、人類の壮大な夢である「火星移住計画」の実現をめざしてさまざまな研究が行われています。
Inside NASA’s Space Farming Labs - Motherboard
https://motherboard.vice.com/en_us/article/inside-nasas-space-farming-labs
国際宇宙ステーション(ISS)で勤務する宇宙飛行士の食料は、貨物補給ミッションで補充されるフリーズドライ食品です。これらの食品は味がないだけでなく、ロケット打ち上げ費用から概算すると1ポンド(約450グラム)あたり1万ドル(約110万円)もかかるというコストの問題があり、より長い時間の宇宙滞在を実現し、究極の目的である別の星での生活のためには宇宙空間で食料を作り出すことが不可欠の課題とされ、2015年8月についにISSで新鮮なレタスを栽培する成果につながりました。この宇宙で初めて野菜を栽培した「Veggie」プロジェクトについては、以下の記事で説明しています。
NASAが進める宇宙での野菜栽培プロジェクト「VEGGIE」 - GIGAZINE
それ以降も宇宙での食料生産技術についてNASAは研究を続けており、ケネディ宇宙センターの研究室ではさまざまな実験が行われています。ブライアン・オネイト博士の研究室では、「Advanced Plant Habitat(APH)」と呼ばれる食料生産装置の開発が行われています。以下の一見、電子レンジのような装置がAPHで、ISSの居住空間に合わせてデザインされているとのこと。
APHの中では、Arabidopsisというキャベツの一種の野菜がLEDのライトの下で育てられています。研究者は、APH内の酸素や栄養素の数値をコントロールすることが可能で、1枚1枚の葉の温度まで測定して制御することが可能です。しかも、このような環境コントロールはPHARMERと呼ばれるコンピューターシステムによって自動化されているとのこと。
APHはまだ実験段階ですが、すでに実用化されているVeggieの「兄弟」のようなシステムで、さまざまな種類の野菜の最適な育成条件を探索するために使用します。オネイト博士によると、ISSに物資を届ける補給ミッションを2度活用することで、Veggieを引き継ぐことが予定されているとのこと。APHの主たる研究は、宇宙で植物を育成し、その一部を回収して地球に持ち帰り、その種子を採取してNASAのケネディ宇宙センターで育て、再びISSに植物を持ち帰ることで、地球上と微小重力環境間を植物が移動しても成長させられるのかを確認することだそうです。
他にもケネディ宇宙センターでは、「ウォークインタイプの滅菌冷凍庫」とでも呼べそうな、大型の環境制御装置もあります。この巨大装置では、なんとISSで使われているすべての環境変数を再現できるとのこと。唯一、再現できないものは微少重力だけ、というレベルの精密装置になっています。
この大規模装置のおかげで、VeggieプログラムでISS環境で栽培した野菜の土壌の状態を管理することができ、地球上に比べて微少重力環境が植物の成長にどのような影響を与えるかを調べることができるとのこと。実験はこれまでのところ極めて順調で、ISSの飛行士は、以前栽培していた赤色のレタスよりもはるかに風味が豊かなレタスを育てることができるようになると考えられており、研究者は「サラダを作るのに十分な量のレタスをISSで作れるようになれば宇宙飛行士の大歓迎を受けるでしょう」と述べています。
これは、宇宙で植物を育てるために使われるチップ状の粘土。
宇宙で野菜を栽培するVeggieプロジェクトを成功させたNASAでは、次のステップとして、より長期的な植物栽培の試験を行っています。この研究では、ISSの宇宙飛行士の食生活をコンスタントかつ継続的に補充できるレベルでの植物栽培が目標とされています。
ケネディ宇宙センターの食糧生産プロジェクトマネージャーのラルフ・フリッチェ氏は、「ISSでのレタスの小規模栽培は素晴らしい成果です」と認めた上で、いまだに宇宙飛行士のお腹を満たせるだけの量の野菜を栽培できない現状から、より長期的な側面での研究をしていると述べたとのこと。つまり、宇宙での植物の大量生産のための研究が行われているというわけです。
しかし、宇宙空間での植物の大量生産は技術的な困難さのレベルが非常に高いと考えられています。その大きな原因は、微少重力にあります。地球上では、重力によって貯められた水は植物の根から吸い上げられますが、宇宙では水は球形に集まってしまい、植物の根に均等に行き渡らず、結果として水分に含まれる酸素の供給も妨げられてしまいます。
この宇宙空間特有の問題の解決のために、2つの方法が考案されています。1つは、植物の成長に必要な水を求める根の部分に、強制的に水を送り込む「能動的なシステム」です。圧力を加えて水を循環させることで、水の供給を行います。
もう1つは3Dプリントされたナイロン基板を活用した「受動的なシステム」です。このシステムでは断面が三角形のナイロン製チューブが密集したキューブの中央に種子がまかれます。ナイロンは親水性があるため水をひきつけますが、表面張力によって三角形状の断面に水が広がることで、水が分散しつつ保持されるという仕組みで、植物の根に均一に水分を供給できるように設計されています。また、チューブ内部から空気を送り込むこともできるとのこと。
フリッチェ氏は、準軌道飛行試験にこの受動的なシステムを持ち混む予定で、良い結果が出ればISSに送り込むことを考えているそうです。ちなみにフリッチェ氏によると、火星で野菜を栽培することはISSなどの軌道上で植物を育てるよりもずっと問題は少ないと予想しているとのこと。その理由は、地球の3分の1の大きさとはいえ火星にも重力があるため、地球上で行う農業と同じシステムが火星上で応用できるからです。
しかし、ISS内部や火星に作り出すであろう温室などの限定された範囲で最大限の植物を栽培する手法を開発するために、最適な条件が探り出されているとのこと。種をまいてからわずか数週間で食べられるレベルに成長する上に栄養素が高く風味の豊かな「マイウログリーン」と呼ばれる、宇宙飛行士に最適な植物を育てるための探求が、NASAでは行われています。
・おまけ
ISSで食糧を自給するプロジェクトを行うドイツのチームは、「人間の尿」を活用した食物生産システムを研究中です。
BBC - Future - Why a German lab is growing tomatoes in urine
http://www.bbc.com/future/story/20170308-why-a-german-lab-is-growing-tomatoes-in-urine
ドイツ航空宇宙センターの植物生理学者のジェンス・ハウスレージ博士は、「地球の植物は、酸素と食糧を製造する閉鎖的な生物系です。また、動物とバクテリアが土壌の分解プロセスを受け持っています。これらの生物系システムなしには、持続的かつ長期的な食糧生産システムの実現は不可能です」と述べ、人間の尿の中に含まれる微生物を活用して肥料を生産してトマトを収穫するシステムを研究しています。
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