NASAが進める宇宙での野菜栽培プロジェクト「VEGGIE」
国際宇宙ステーションで生活する宇宙飛行士に食料を届けるための高いコストに頭を痛めていたNASAは、宇宙で食物を生産することでこれを解決しようとしています。NASAが研究中の宇宙野菜栽培プロジェクト「VEGGIE」とはどのようなものでしょうか。
Space Farming: The Final Frontier - Modern Farmer
http://modernfarmer.com/2013/09/starship-salad-bar/
◆VEGGIE
宇宙旅行を実現させるために最も難しい問題は食料の確保だと言われています。当然地球から食料を持ち込むことになりますが、このコストは非常に高く、国際宇宙ステーションプロジェクトに参加するハワード・レヴァイン博士によると、国際宇宙ステーションに食料を運ぶ場合1ポンド(約450g)あたり1万ドル(約100万円)かかるそうです。また、NASAのジョイア・マッサ博士は「ごく一部の生鮮品は宇宙に到着するとすぐに宇宙飛行士によって食べ尽くされてしまいます」と話します。このような宇宙への食料移送の問題を解決しようと、NASAでは宇宙で野菜を栽培するプロジェクト「VEGGIE」が進行中です。
NASAには宇宙での植物栽培研究の長い歴史があるものの、無重力で植物の成長にはどのような影響があるかとか、人工的な光で植物は育つのかなど、そのほとんどが学術的興味を目的とした研究でした。これに対してVEGGIEは、宇宙で消費できる「食料としての植物を栽培する」という目的を持った初めての研究と言えます。
宇宙での植物栽培実験に高額な税金が投入されることに対しては冷ややかな見解がありますが、宇宙での食料生産は、究極的には地球規模で起こる食料問題を解決する最終手段になりうるとのこと。NASAでは、将来的には"地球の植民地"である月や遠く離れた火星での栽培まで視野に入れているようです。
◆レタス
宇宙栽培植物第一号として選ばれたのは「アウトレジャース」という赤みがかった品種のレタスです。このレタスは成長するのが非常に早く、また有害な宇宙線対策に欠かせない抗酸化物質が大量に含まれているそうです。
育てるのにそれほど空間を必要とせず、短期間で収穫でき、加工せずに消費できるものが宇宙栽培に向いた植物であり、この点で、サツマイモやジャガイモは及第点止まり、小麦と米にいたっては最悪な種だとマッサ博士は考えています。今後は、ラディッシュ、豆、トマトなどが宇宙栽培の候補に挙がるかもしれないとされています。
すでにLED光を使って宇宙でレタスが栽培されましたが、宇宙飛行士はこれを食べることは許されませんでした。アメリカでは宇宙微生物に対する基準が極めて厳格であり、育てられたレタスはNASAに持ち帰られ微生物の量など測定される必要があるからです。宇宙微生物には悪性種だけでなく良性種も存在するものの、これまでアメリカの基準では微生物の絶対的な量だけで判断してきたため、今回のレタスの分析結果次第でこの判断基準が見直される可能性が有り、これはVEGGIEプロジェクトにとっては追い風だとマッサ博士はいいます。
◆精神安定"材"
食料として期待される宇宙栽培植物ですが、それ以外の利点も持ち合わせています。園芸にはストレス解消、気分向上、気落ちの防止、社会性向上、肉体的・精神的疲労回復などの効用があるところ、これらはすべて宇宙で過ごすうえで非常に大切な要素です。小さな金属の箱に閉じ込められることは厳しい訓練を受けた宇宙飛行士でさえ音をあげるほど過酷な状況であり、毎日植物を育てることは地球での記憶を呼び起こし精神を安定させる効果があります。宇宙でズッキーニを育て、「宇宙のズッキーニ」というブログを更新していたドン・ペティット宇宙飛行士は、6ヶ月の宇宙滞在中決してズッキーニを食べようと思わなかったそうです。ペティットさんは育てた"同僚"を食べるのはカニバリズムのようだと感じたとジョークまじりに話しました。
また、宇宙旅行プロジェクトを開発する民間企業の存在もVEGGIEにとって大きな力になっています。2011年、ウィスコンシンのOrbitalテクノロジー社によって作られた宇宙用栽培装置は、シンプルな散水・照明システムを装備するだけの非常に軽量・コンパクトかつ消費電力もデスクトップPCくらいと極めて省エネな装置で、すでに大量生産のめども立っているそうです。
もっとも、レタスは宇宙飛行士のサプリメントとしては優秀ですがこれだけでは健康を維持できません。タンパク質を補給するために宇宙で育てる研究が進められてるのが「昆虫」であることを考えれば、宇宙での食物生産はまだまだ困難な道であるといえます。
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