アメリカが世界中の大使館で収集する大気質データの共有を停止、科学者がトランプ政権の措置に懸念を表明

現地時間の2025年3月5日(水)、アメリカ国務省が大使館や領事館で収集した大気汚染関連データを、環境保護庁のAirNowアプリやその他のプラットフォームに共有しなくなると発表しました。これ対し科学者らが、国務省が大使館や領事館で収集した大気質汚染データは、公衆衛生を改善するのに不可欠だと主張しています。
Scientists raise concerns as the US stops sharing air quality data from embassies worldwide | AP News
https://apnews.com/article/us-air-quality-monitors-8270927bbd0f166238243ac9d14bce03

US embassies end pollution data popular in China and India
https://phys.org/news/2025-03-embassies-pollution-popular-china-india.html
国務省の大気質監視プログラムは、世界中に点在するアメリカの大使館や領事館で収集した大気質に関するデータをAirNowやその他のプラットフォームに送信するというものです。これにより、科学者や専門家は世界中の大気質データを確認・分析することが可能となっていました。しかし、国務省はAP通信に対して大気質監視プログラムにおける大気質データの収集・共有を停止すると発表しています。
国務省はデータ共有の停止について、「資金不足により国務省が基盤ネットワークを停止したため」と説明しています。ただし、大使館および領事館に対しては大気質の監視を継続するよう指示されており、資金不足が解消されれば将来的にデータの共有が再開される見込みです。国務省が直面する資金不足は、ドナルド・トランプ大統領政権下における財政削減政策が影響しています。
国務省が大使館や領事館に設置していた大気質監視装置は、肺の奥深くまで浸透し、呼吸器疾患や心臓病、早死につながる恐れのあるPM2.5の濃度を測定するためのものです。なお、世界保健機関(WHO)は、大気汚染により毎年約700万人が死亡していると推定しています。

国務省の大気質監視プログラムが共有する大気質データについて、科学者からは「提供される大気質データは信頼性が高く、世界中の大気質を監視することを可能にし、政府機関に大気浄化を促すのに役立っている」といった声が上がっています。
インドのニューデリーに拠点を置く研究機関のSustainable Futures Collaborativeで大気汚染の専門家として働くバーガブ・クリシュナ氏は、「国務省の大気質監視プログラムが提供するデータは多くの発展途上国に設置された少数のセンサーの一部であり、大気質がどのようなものかを知るための参考資料として機能していました。また、国務省の大気質データは、大気質に懸念がある場合に使える『適切に調節された偏りのないデータソース』と考えられていました」と語っています。
コロンビアの首都ボゴタを拠点とする大気質コンサルタントのアレハンドロ・ピラコカ・マヨルガ氏によると、ペルーの首都リマ、ブラジルのサンパウロ、ボゴタにあるアメリカの大使館と領事館でも大気質のモニタリングが実施されていたそうです。これらのデータが共有されなくなることについて、マヨルガ氏は「本当に残念です。このデータは地元の大気質監視ネットワークから独立した大気質情報にアクセスできる貴重な情報源でした」と語っています。
パキスタンを拠点とする環境専門家のハリド・カーン氏は、国務省が大気質データの共有を停止したことについて「重大な結果をもたらす」と言及。カーン氏によると、世界で最も汚染された都市のひとつであるパキスタンのペシャーワルでは、「(国務省が共有する大気質データは)政策立案者、研究者、一般人が健康に関する決定を下すのに役立つ重要なリアルタイムデータ」だったとのこと。また、「プログラムの停止により大使館から大気質監視装置が撤去されることとなれば、環境監視に重大な欠陥が生じ、住民は危険な大気状態に関する正確な情報を失うこととなります」と語っています。

AP通信によると、アフリカでは国務省の大気質監視プログラムによりセネガル、ナイジェリア、チャド、マダガスカルを含む12カ国で大気質データの収集・共有が行われてきたそうです。そして、12カ国の中には大気質データをアメリカの同プログラムに完全に依存している国も存在します。さらに、WHOの大気質データベースもプログラムの終了により影響を受けるとAP通信は指摘しました。
アメリカの大気質監視プログラムが大気汚染対策に役立った事例もあります。例えば、中国では北京にあるアメリカ大使館のデータが、中国政府が公表している報告書とは異なるデータを提供していたことがよく知られています。これは中国政府が深刻な大気汚染の現状を偽造していたためです。これに対して、アメリカ大使館が正確な大気質データを収集・共有していたおかげで、中国政府に対して大気汚染対策を促すことにつながったそうです。
パキスタン東部にあるパンジャブ州の環境大臣であるラジャ・ジャハンギル氏は、同州は独自の大気質監視装置を設置しているため、アメリカ政府によるプログラムが終了しても同国内で大気質を引き続き監視し続けることができると言及しました。

なお、ソーシャル掲示板のHacker News上でもアメリカ国務省の大気質監視プログラムの終了は話題になっており、「計測機器はそこにあり、それを操作する人員もまだそこにいます。今回停止されたのはデータの収集と共有のみです。これにより節約できるのはせいぜいわずかな金額でしょう。なぜ取り止めるのでしょうか?」や「大西洋の反対側から見ると、アメリカは今や帝国であり、自分たちのことしか考えておらず、自分たちを地球の王と認めず敬意を示さないものは喜んで粉砕する存在のようにみえます」といった意見が寄せられていました。
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in サイエンス, Posted by logu_ii
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