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苦境に立つTwitterを救う可能性を持つ「Firehose」サービスが抱える自己矛盾とは?


Twitterには「収益化」の問題が常につきまとい、決算発表の度に「身売り」の情報があふれるほど、ビジネスとして成立させるのに苦心しています。そのTwitterは、ユーザーの大量のツイートの情報を一括して提供する「Firehose」というサービスを行っており、マネタイズに苦心するTwitterサービスのなかで有望な収入源だと期待されていますが、Firehoseサービスには情報を切り売りすることで、Twitterの情報発信ツールとしての強みを失わせかねないという大きな矛盾を抱えているようです。

How Despots Use Twitter to Hunt Dissidents - Bloomberg
https://www.bloomberg.com/news/articles/2016-10-27/twitter-s-firehose-of-tweets-is-incredibly-valuable-and-just-as-dangerous

Twitterのユーザーがつぶやく大量のツイートは、単体で見れば有益ではない場合でもデータのまとまりとして見れば有益なビッグデータとして、情報分析に活用できる可能性を持っています。このようなツイートの集合体として持つ価値をTwitter自身も把握しており、常にあふれ続けるツイートにまとめてアクセスできるStreaming APIをTwitterは一部の企業に販売しています。このサービスは「Firehose」と呼ばれ、例えばGoogleはFirehoseを利用して「リアルタイム検索」サービスを提供しています。


TwitterはFirehoseの提供価格を明らかにはしていませんが、2012年に起こったFirehose提供先企業との法廷闘争の中で、Firehoseの提供価格が少なくとも年間100万ドル(約1億500万円)以上であることが明らかになっているとのこと。2016年第2四半期の決算報告によると、Twitterのデータライセンス部門は前年同期比35%の増益を記録しており、いまだに収益5億3500万ドル(約560億円)の90%を広告収入が支えているものの、Firehoseのアクセス権の販売ビジネスは急激な伸びを見せており、Twitterの有力な収入源に成長する可能性を秘めています。

しかし、TwitterにはFirehoseビジネスを手放しには喜べない状況があります。Firehoseを利用する企業の中には、購入したツイートデータへのアクセス権を利用して、大量のツイートデータを独自に解析して分析結果を情報として販売・提供する企業があり、例えばアメリカ・オースティンに本拠を構えるSnaptrendsはその一つ。このSnaptrendsがツイート分析ツールを提供する顧客には、私企業だけでなくアゼルバイジャン、バーレーン、マレーシア、サウジアラビア、トルコなどのインターネット上での自由な意思表明に制限をかけ、情報の検閲や情報統制を行う国の政府関連機関が含まれています。

情報統制を行いたい政府機関にとって、Twitterのサービスは大きな脅威の一つと考えられています。2010年から中東を中心に発生した反政府デモ活動「アラブの春」では、情報拡散ツールとしてのTwitterの威力をまざまざと見せつける結果となり、反政府組織の活動を封じ込めるためにTwitterを監視することは政府機関にとって当然の行為になりました。さらに、反政府活動の芽を摘み取るためにもTwitterでの言論を監視する行動が、すでに一般化されています。

By AK Rockefeller

2013年の研究では、サウジアラビアのインターネットユーザーの3人に1人はTwitterを利用しており、この割合は5人に1人のアメリカを大きく上回り世界トップです。しかし、Twitter利用者の多いサウジアラビアでは、Twitterでの意思表明を理由に逮捕される事例が続出しており、例えば2012年9月には「down with the House of Saud(サウード家と共に堕ちていく)」というツイートを理由にベイダー・サワブという名のTwitterユーザーが逮捕され、2014年4月にはTwitter上で医療サービスへの苦情を唱えた車いすのトランビン・バクヒートというユーザーが100回のむち打ちと18カ月の労役を科せられるという事件が起こっているとのこと。

サウジアラビア政府はFirehoseデータを分析することで、反政府的思想を持つ人たちを虐げていると考えられており、TwitterはFirehoseへのアクセス権を販売することで、政府による言論弾圧を手助けしてしまっているという構図があるというわけです。

Firehoseからのデータ分析を利用しているのは政府機関に限られず、Snaptrendsによると警察関係者が容疑者の「生活行動パターン」を見抜くのに役立てられると考えていることを明かしたとのこと。9.11以降、アメリカ国内ではテロリストによるテロ行為への対応に追われており、Twitterからの情報をテロ対策に活用しています。ツイートには位置情報を特定するジオタグが付けられたものは全体の2%に過ぎませんが、他のツイートを分析することで30%のツイートの位置を特定することができるとSnaptrendsのエリック・クラッソンCEOは述べています。なお、Firehoseから取り出されるツイートのうち、純粋なテキストデータは全体の3%に過ぎず、例えばツイートした場所を特定できるジオタグなど、他の個人情報とも呼ぶべき情報が提供されているとカリフォルニア大学バークレー校のジェラルド・フリーランド氏は述べています。


ツイートによって不利益な事態が降りかかり得るという現実は、Twitterを情熱的に利用してきた最も有力な顧客が自分自身の考えを自由に表現することを躊躇させてしまっていると指摘されています。ビジネス面で苦境に立たされているTwitterにとって、広告収入とは別の有力な収益源であるFirehoseの提供は、「Twitterは世界の言論の自由を促進するツールである」というTwitterの根幹的なサービス理念を根底から覆す危険をはらむ矛盾したものと言えます。2016年7月の業績発表時に、「ユーザーの安全は、今年かかげる5つの優先事項のうちの一つです」と明らかにしたジャック・ドーシーCEOは、Firehoseの取り扱いを巡って難しい舵取りを強いられているようです。

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in ネットサービス, Posted by darkhorse_log

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