人間の殺人率は遺伝と環境のどちらに基づいているのか?
By Tim Evanson
人間の「同族殺し(殺人)」の衝動は、人類の祖先から受け継がれてきたものなのか、人間が生きる環境による影響を受けるものなのかが科学者と哲学者の間で何世紀もの間で議論されています。そこでグラナダ大学の研究チームが哺乳類の系統樹を広範囲にわたって調査して各世代の人間の「殺人率」を算出した研究がNature誌で公開されています。
The phylogenetic roots of human lethal violence | Nature
https://www.nature.com/articles/nature19758
Humans’ murder rates explained by primate ancestors, controversial study says | Ars Technica
http://arstechnica.com/science/2016/09/controversial-study-pins-humans-murderous-ways-on-our-primate-ancestors/
グラナダ大学の進化生物学者らが1024種類の哺乳類から400万件以上の「同族殺し」の記録を集めて分析したところ、人間の「殺人率」は他の哺乳類に比べて少し高く、霊長類全体と比べると同レベルであることが判明しました。また、霊長類以外でも、集団生活する種であれば同程度の「同族殺し」が起きているとのこと。集団の中では縄張りや社会的な問題が同族殺しを行う大きな決定要因になっているそうです。
研究チームは人間の「殺人衝動」が祖先から引き継がれた遺伝なのかどうかを調べるため、紀元前5万年から人間の殺人率を調査しました。人間は採集狩猟生活民から群れになり、部族を作って村を築き、国という集団へと変化を遂げてきました。この変化に伴って殺人率も著しく上昇しているのですが、この凶暴性の変化のタイムスパンは遺伝子学的に見ると速すぎるため、遺伝による影響は少なく、環境による矯正が有効である可能性を示しています。
なお、哺乳類全体で見ると「同族殺し率」は約0.3%で、哺乳類のおよそ6割の種で、致命的な傷を与えるような同族殺しの記録はなかったとのこと。哺乳類で、最も「同族殺し率」が高かったのはミーアキャットの約19%でした。
人間の起源となった種の殺人率は約2%と予測され、類人猿の殺人率は約1.8%と推測されています。採集狩猟生活民の頃の人類も約2%という数値が出ていますが、群れ・種族・国を作ってお互いに争うようになった人類は、約30%という殺人率を記録しています。現代では暴力などの無法を取り締まる警察組織や、法制度・刑務所、および確固たる文化方針が構築されているため殺人率は低下しており、0.01%未満に落ち着いているとのこと。
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この研究に対して、ユタ大学の人類学者Polly Wiessner氏は「我々が先史時代から受け継いでいるものはとても希薄です」と話しており、人間の凶暴性が人類の祖先から受け継がれたものではないという研究結果を肯定しています。一方でハーバード大学の人類学者Richard Wrangham氏はこの研究について、全ての「殺人」をまとめてカウントしたことについて疑問を呈しています。Wrangham氏は「霊長類の中でも最も一般的な同族殺しは『嬰児殺し』です。しかし人間は『同族の成人を殺す』という例外的な存在です」と指摘しており、研究の第一著者であるホセ・マリア・ゴメス氏も「殺害の種類まで解明するのに十分なデータではなかった」と指摘を認めています。
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