未来の映像システム「PlayStation VR」の開発責任者・伊藤雅康氏インタビュー


2016年10月13日に発売されるVRシステム「PlayStation VR(PS VR)」は、6月18日に予約受付が開始されたものの受付開始から数分で売り切れるほど注目度が高い製品です。そのPS VRの開発責任者である伊藤雅康氏に話を伺う機会を得たので、開発秘話や今後の展開など気になることを聞いてきました。

PlayStation VR | プレイステーション オフィシャルサイト
http://www.jp.playstation.com/psvr/

PS VR開発トップを務めるソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)の伊藤雅康氏。


GIGAZINE(以下、G):
まずは、伊藤さんがPS VRのプロジェクトでどういったことをしているのか教えてください。

伊藤雅康氏(以下、伊藤):
私はPlayStation 4(PS4)やPlayStation Vitaを含めた弊社のハードウェア製品全般の開発を統括していて、PS VRはそのうちの一製品という形で私が開発責任を務めています。

G:
PS VRはモーションコントローラのPlayStation Move(PS Move)を頭に装着し、頭でゲームを操作するというところから基本となるアイデアが生まれたとのことですが、それ以前にVRシステムの開発というのは社内で進められていたのでしょうか。

伊藤:
VRシステムのアイデアというのはいろいろあったのですが、開発という意味では本格的に進めているわけではありませんでした。PS Moveを2010年10月21日に発売しまして、このPS Moveを使って何か新しいことをできないか、というところから本格的に開発が始まりました。厳密に言うとPS Moveの発売前のことになりますね。アメリカで研究開発を行っているMagic Labの開発者がPS Moveを頭に付けていろいろ試行錯誤していて、彼らは本気でやってたんですけど、頭にPS Moveを付けた姿がちょんまげのような格好だったので最初は「遊んでいるな」と思いました(笑) でも、PS VRが遊び心から生まれたというのはすごくSIEらしいというか、PlayStationらしいですよね。


G:
なるほど。PS VRの最初のプロトタイプは、2012年1月に開催されたCESで展示されていたヘッドアップディスプレイのような形状をしている「頭のマッサージ器」を使って作られたとお伺いしました。

伊藤:
そうですね。だいたいそのくらいの時期から研究開発のチームだけでなく、ゲームソフトを作る開発者が入って開発が本格的に始まりました。最初は数人の開発チームだったのですが、徐々に人数を増やしていきました。そのときはまだ商品化は厳しいなと言う状況でして、やはり「付け心地」とか「付けやすさ」という部分において足りないことががたくさんあると。ユーザーさんに購入していただいて家で使ってもらうには、1人で装着できるようにしなければいけません。これは1つの例にしか過ぎませんが、こういった細かい部分を少しずつ改良してきました。製品版のPS VRは一度でも装着すれば、1人で装着できるようにしています。

G:
では、装着時の付け心地というのはどのようにして微調整をしているのでしょうか。

伊藤:
装着性の微調整はカット&トライですね。実際にプロトタイプをかぶっては変えてかぶっては変えて、少しずつ改善してきました。ある程度まで開発が進むと、全体の重量をもうこれ以上変えられないというところまできまして、そこからは重量のバランスをどうするか試行錯誤しました。例えばですが、前部だけが重くなると下にずれるので、後部も多少重くして全体のバランスを整えるという感じです。


G:
PS VRを見ただけでは気づきにくいけれども、快適な装着性のために工夫している点はありますか。

伊藤:
一番はワンタッチで簡単に装着できるということです。ヘッドバンドの長さを調節するヘッドバンドリリースボタンや締め具合を調節する調節ダイヤルがあるので、慣れてしまえば片手でも装着できるように工夫しています。

G:
ハードウェアの開発を日本、ソフトウェアの開発をアメリカのチームが主に担当しているとのことですが、分けた理由を教えてください。

伊藤:
もともとはアメリカにあるMagic Labで開発がスタートしたので、開発が始まった当初はハードウェアとソフトウェアの両方ともアメリカで開発を行っていました。ハードウェアに関して言うと、日本の方がモノ作りに関して長けているし量産化の経験も豊富なので、PS VRを商品化することが決まったときに「ハードウェアの開発は日本でやりましょう」となりましたね。

G:
日本と海外のチームでは、どれくらいの頻度でコミュニケーションをとっているのでしょうか。

伊藤:
ほぼ毎日連絡を取り合っています。実際に商品化が進んでいくにつれて、アメリカで行っていた仕事を徐々に日本に移管して、開発の多くを日本で行えるようにシフトしていきました。もちろんアメリカで行っていることもありますが、開発の終盤になると半分以上は日本で行っていました。

G:
そうなんですね。次はPS VRに搭載されているディスプレイについてお伺いします。Project Morpheousの発表時は液晶だったものの、PS VRではOLEDをディスプレイに採用しています。なぜOLEDに変えたのでしょうか?OLEDに変更することで、どのような問題点が改善されたのでしょうか?

伊藤:
一番改善できたのは応答速度の部分です。OLEDにすることで応答速度が劇的に短くなり、頭を動かしたときの画面の追従性が上がりました。頭の動きと画面の動きにズレが生じる、つまり頭を動かすと画面が遅れて付いてきてしまうと、プレイヤーの「酔い」につながります。OLEDにすることで、画面の追従性が劇的に向上し、液晶搭載時に発生していた「酔い」が起こりにくくなりました。

G:
プレイヤーが「酔い」を感じないように工夫している点は、OLED以外にありますか?

伊藤:
OLED以外ではリフレッシュレート、簡単に言うと画面が切り替わる速さですね。今は120Hzにしていて、これは1秒間に120回画面が切り替わるということです。これだけ画面の切り替わりが速いと言うことは、頭を速く動かしても画面が遅れずに付いてこれるということ。また、PS VRは本体に青いLEDが搭載されていて、これをPlayStation Cameraでトラッキングしているのですが、PS VRの前部だけでなく後部にもLEDを搭載してトラッキングの精度を向上させて「酔い」の軽減を図っています。

G:
PS VRの開発において、当初は「ここは難しい部分になるだろう」と考えていたものの、実際に行ってみるとスムーズに進んだ、想像していたよりもうまくいったという部分はありましたか?

伊藤:
もちろん細かい問題点はプロジェクトを進める上でたくさんありました。プロジェクトは思った通りに進んだなというのが今の感想ですが、先ほど話した液晶からOLEDに変更するというのは難しい決断でした。プロジェクトの途中で変更するわけですから、ハードウェアだけではなくソフトウェアなど全部分の設計変更が必要になります。ディスプレイの変更はかなりの負担になりましたが、そこもある程度は考えた通りに進んだと思っています。


G:
Oculus RiftやHTC Viveといった他のVRプラットフォーム製品がすでに発売されていますが、後発となるPS VRが他の製品と差別化している点はありますか?

伊藤:
一番はPS4とつながるという点ですね。PS VRはPS4に接続して遊ぶので、全てのユーザーに同じ品質のゲーム、同じ品質のVR体験を提供できます。PS4は全世界の累計実売台数が4000万台以上あり、統一の規格で遊んでもらえるというのが一番大きいと思います。

G:
なるほど。そのPS VRは2016年6月18日から日本国内での予約受付がスタートし、予約受付開始から一瞬で予約販売数に到達しました。ユーザーからのこれほどまでもの反応は予想していたことでしょうか。

伊藤:
予想をはるかに超える反応でビックリしたというのが本音です。今回予約できなかった人も発売日に購入できるように、予約の再開についてご案内させていただきました。欲しいと思ってくれている全ての人たちにPS VRが行き届くようにと思っております。

G:
今から発売まで約3カ月あります。発売までに改善していくポイントとして今取り組んでいることを教えてください。

伊藤:
もう製品としてはほぼ完成という状態です。VRというのは、やはり実際に使ってみないとその良さがわからない部分があります。だから、今から発売までは、いろんな人にPS VRに触ってもらえるような機会を提供していきたいですね。そのために多くの体験会を実施しているので、気になっている方は是非参加してみてください。

G:
今後のPS VRは性能を強化していくのか、それとも低価格化に向けたアプローチのどちらをとっていくのでしょうか?

伊藤:
性能強化と低価格化の両方を狙っていきたいですね。PS4は価格を下げましたが、性能も下げたということではありません。前モデルよりも高機能にして価格を下げるというPS4の流れをPS VRでも踏襲したいと思っています。

G:
今後はこんな機能を付けられたらいいな、という機能はありますか?

伊藤:
機能としてはPS VRを有線でPS4に接続しているのを無線にしたいですね。しかし、現在の技術では高解像度の映像を無線で出力するというのができません。ゲームをプレイするには有線より無線の方が適しているので、早く技術が追いついてくれればなと願っています。

G:
最後にGIGAZINEの読者にメッセージをお願いします。

伊藤:
PS VRはコアゲーマー向けというイメージがあり、我々もゲームというところからVRに取り組んでいますが、仮想空間内に浮かぶ巨大スクリーンで映像コンテンツを楽しめる「シネマティックモード」といったゲーム以外を楽しめる機能も搭載しています。私はPS VRを未来の映像システムだと考えているので、ゲームファン以外の人たちにも未来の映像体験を楽しんでもらえたらと思っています。


G:
本日はありがとうございました。

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in インタビュー,   ハードウェア,   ゲーム, Posted by darkhorse_log