サイエンス

大気中の二酸化炭素濃度が上がってハチがいっぱい死んでいく理由

By Kamil Porembińsk

ミツバチの減少は世界規模の現象」と国連が公表したり、「マルハナバチの個体数と分布範囲の減少に気候変動が影響している」とする研究結果が公表されたりと、世界規模でハチの個体数の減少が問題視されています。ハチの大量減少の原因を調べる研究は広く行われてきましたが、新たに「二酸化炭素濃度が上昇することがハチの大量死を引き起こす原因となっている」とする研究結果が公表され話題になっています。

How Rising CO2 Levels May Contribute to Die-Off of Bees by Lisa Palmer: Yale Environment 360
http://e360.yale.edu/feature/bee_collapse_co2_climate_change_agriculture/2991/


スミソニアン博物館群のひとつである国立自然史博物館には数多くの植物標本が保管されています。ここに保管されている植物標本の中で最も古いものは1842年のもので、世界中の植物の標本が、500万冊以上そろっているとのこと。

北アメリカ大陸に広く分布しており、夏から秋にかけて花を咲かせる宿根草の一種がアキノキリンソウです。国立自然史博物館にはこのアキノキリンソウの標本が多数存在するのですが、ある研究者は「アキノキリンソウの花の蜜を食料とするハチ」について調査するために、アキノキリンソウの花粉に含まれるタンパク質濃度を、国立自然史博物館の標本を使って調査しました。

By Bridget Leyendecker

調査では1842年から2014年までのアキノキリンソウの標本から、花粉のタンパク質濃度を測定しています。調査期間である1842年から2014年までに、地球の大気中の二酸化炭素濃度は280ppmから398ppmにまで上昇しました。対して、2014年と1842年の花粉のタンパク質濃度を比較してみると、2014年のタンパク質量は1842年のものよりも30%も減少していることが明らかになっています。特に大きく花粉中のタンパク質量が減少したのは1960年から2014年にかけてで、同じタイミングで大気中の二酸化炭素濃度も急激に上昇しています。

また、現地実験でアキノキリンソウを280ppm~500ppmの二酸化炭素濃度にさらしたところ、二酸化炭素濃度が上がるほど花粉中のタンパク質の量が減少することも確認されています。

By Ben Salter

100以上の従来研究が「大気中の二酸化炭素濃度が高くなると、小麦や米のように、植物の栄養的価値は減少する」と示してきました。しかし、アキノキリンソウの標本を調査した研究結果は「二酸化炭素濃度が上昇することがハチの大量死を引き起こす原因となっている」と主張しています。

アキノキリンソウの標本を調査した論文の第一著者であるルイス・ジシカ氏は「花粉はハチにとってジャンクフードになっています」と語ります。二酸化炭素は植物の作り出す糖分の基になるもので、この糖分が植物自身を成長させるための栄養素となります。よって、二酸化炭素濃度が高くなると植物はより素早く・大きく成長するわけです。アキノキリンソウの場合、成長するために糖分が生成され、代わりに体内のタンパク質量が減少する模様。

そしてこの影響から、2006年から2011年までの期間にアメリカでのミツバチの巣の数はなんと33%も減少したことが明らかになっています。

By Micolo J

「私は同じことが昆虫の世界でも起こっていることを知っています。昆虫の場合、二酸化炭素濃度の上昇で葉っぱに含まれるタンパク質の量が減少しているため、生きるためにより多くの葉っぱを食べる必要が出てきています」とジシカ氏。

対してハチの食糧は主に2つあります。ひとつは「花蜜」で、もうひとつは「花粉」。これらは主に「糖分」と「タンパク質」で構成されています。ハチはより良い花の蜜を探し、発見したら仲間のハチにその蜜の存在を知らせることができます。しかし、ハチはタンパク質を伝達する手段を持っていないため、自身の食べるタンパク質が良質なものかどうかを知ることができないそうです。

「ハチにはその他の種のように多くの食糧が存在するわけではありません。そして、アキノキリンソウとアスターは、ミツバチや自然界を生きるハチにとっての唯一の食糧源です」と語るのはウィリアムズ大学のジョアン・エドワーズ氏。タンパク質の量が低下することがなぜハチの大量死に影響するのかというと、ハチは晩秋までに冬を越すための食糧を巣に蓄えます。しかし、花粉に含まれるタンパク質の量が減少していることで、冬を越すのに必要なだけのタンパク質が蓄えられていないというわけです。

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in サイエンス,   生き物, Posted by logu_ii

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