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Googleの自動運転車開発現場に入った記者が垣間見た自動運転技術と残された課題とは


Googleを傘下に収める親会社「Alphabet」は、Googleが進めてきた自動運転車の開発部門を自らの傘下に移動させ、将来の事業化に向けた体制を整えていると言われています。カリフォルニア州で行われている開発の現場を目の当たりにし、実際に自動運転車の「運転席」にも座った記者が目にした光景と、自動運転車実現への展望と課題が語られています。

License to (Not) Drive — Backchannel — Medium
https://medium.com/backchannel/license-to-not-drive-6dbea84b9c45

Googleの自動運転車がズラリと並べられた格納庫の様子。Googleは自動運転車の走行実験のために、カリフォルニア州内で100エーカー(いわゆる東京ドーム8.5個分)の敷地を借り上げています。


この敷地は、カリフォルニア州アトウォーターにある元空軍施設「Castle Air Force Base」で、かつては空軍の空港として冷戦時代まで使われていたものが民間利用されるようになった場所。Googleでは、マウンテンビューのGoogle本社からでも2時間半の場所に位置するこの敷地を2014年から使用しており、社内では「Catsle」という通称で呼ばれているとのこと。


ちなみに、自社での自動車開発が噂されるAppleもカリフォルニア州内にある広大な走行試験場で開発を行っているとみられています。

Appleが自動車の開発用に広大な走行試験場と交渉していることが判明、走行開始は近い可能性も - GIGAZINE


実はGoogleでは、実際に自動運転車に搭乗して開発走行のモニタリングを行うスタッフを選考するプログラムを実施しているそうで、これを聞きつけたMediumの記者・Levy氏はさっそく手を挙げたとのこと。しかしこのプログラムに参加するためには4週間にわたって連日のトレーニングを受ける必要があるとのこと。今回はGoogleの判断のもと、Levy氏は短時間のトレーニングで特別にプログラムに参加することが許可されたとのことです。


このテストドライブプログラムが実施されている目的は「開発のスピードを速めること」にあり、そのために多くの車両とスタッフを投入してより多くの時間と距離を稼ぐことが求められています。テスト車両が市販車を改造した「レクサス RX450h」の場合、1台の車両には2人のスタッフが搭乗し、1人は走行状態などから安全性を判断し、いつでもハンドルとペダルを操作して自動運転からマニュアル運転に移行できるように準備しておくとのこと。そしてもう1人はヒザの上に置いたノートPCの画面をモニタリングし、実際の周囲の状況と自動運転車が把握している状況を照らし合わせ、間違いがないかを確認する役目が与えられています。


なお、このテストドライバーの座を射止めるための近道は、「すでにテストドライバーになったことがある人と知り合いになること」だそうです。紹介ベースで人選が行われることもあるようですが、これに加えてGoogleでは頭脳明晰で社会的にきちんとしており、観察力の鋭い人物を求めているとのことです。

敷地内に建設されているテストコースはこんな感じ。アメリカの郊外をイメージして設計されたコースには大小の道や交差点、ラウンドアバウトなどが設置されているほか、信号も設置されており、一般道さながらの状況が再現されているとのこと。さらには滑りやすい路面や高速道路への進入・退出路も設けられており、さまざまな状況でトレーニングを行い、実際の道路に出るための準備を行えるようになっています。


トレーニングの前半では比較的シンプルな状況で訓練が行われるとのことですが、後半になると自転車に乗った人が登場するようなシーンも用意されているとのこと。


コースに隣接した倉庫には、三角コーンや道路標識、子供用自転車や通行人の人形などの小物が用意されています。また、実際の歩行者を再現するために「プロの歩行者」と呼ばれる専門のスタッフが投入されることもあるとのことです。「自動運転車に轢かれるという恐怖はないですか?」という問いに対し、プロ歩行者を務める女性は「信頼するしかないと思うようになります」と答えたとのこと。


試乗にあたり、Levy氏はもちろんGoogleが自動運転車専用にゼロから開発した以下のタイプの車両に乗ることを希望したのですが、あえなく断られてしまったとのこと。それもそのはず、この車両はそれまでに十分な自動運転車搭乗の経験を持つ人物のみが搭乗を許されており、Levy氏は仕方がなく断念。


Googleオリジナルの車両は諦めざるを得なかったLevy氏ですが、市販車のレクサス・RX450hをベースにした車両には搭乗できたとのこと。しかも助手席ではなく、運転席に座って実際に車両を走らせる役目を担うこともできたそうです。


運転席に座った「運転者」は、実際にはハンドルやペダルを触ることなく、基本的には走行状態のモニタリングと、万が一の事態にいつでも運転を担当できるようにスタンバイしておくことが仕事になります。自動運転モードから手動運転に移行する際には「Disengage(解除)」と口に出していえばOKとのこと。この「Disengage」には、休憩や電話で話す時に車両を停止させるための「desirable(好ましい・意図的な)」ものと、危険を回避するためにやむなく自動運転を解除する「undesired(望まれないもの)」の2タイプがあるそうです。

助手席に座ったスタッフの前にはノートPCが置かれます。ノートPCには「x_view」と呼ばれるインターフェースが組み込まれており、その時に自動運転がどんな風に周囲の状況を「見ている」のかがリアルタイムで表示されています。画面には道路の状況はもちろん、周囲の建物や他の車両、バイクや歩行者などありとあらゆる道路状況、そして自車の走行ルートや予想進路などが表示されています。


助手席のスタッフは常にこの画面と実際の道路の状況を比較する仕事を担当し、コンピューターが正しく状況を認識していないと判断した場合には、「Disengage」の指令を行うことになっています。走行中にDiengageが行われた場合には、自動的にマップ上にピンが設定され、事象の詳しい報告が求められることになります。その際にはさまざまな事象に専用の「コード」が設けられており、例えば「#FOB」というコードは「foreign object or debris(前方の物体または障害物)」を意味しており、このコードを添えてGoogleにDisengageの内容を報告することになっています。

また、Disengageの方法は声によるコマンドだけでなく、ハードウェアボタンで強制的に手動運転に切り替えることも可能とのこと。運転席と助手席の間にあるセンターコンソールには、以下のような赤い大きなボタン「BRB(Big Red Button)が据え付けられており、万が一の事態にも確実に自動運転を解除できるようにもなっています。


Googleスタッフからの説明を受け、Levy氏は運転席に座って実際の走行に入ります。「運転席」とは言うものの実際にはハンドルにもアクセルにも触れず、自動で進む車の動きを見守るだけのドライブとなります。しかし、いつDisengageを行ってもいいように、両手をハンドルの3時と9時の位置に添え、足をブレーキペダルにかすかに触れるぐらいの位置にスタンバイさせておく必要があるとのこと。

走行中、交差点に進入する時に車が速度を少し上げ、黄色信号になる前に交差点に入る動きを見せたことにLevy氏は関心した様子。また、交差点を曲がって加速する様子などは、まるで車自身が「自分が何をやっているのかはっきり理解している」といわんばかりの動きを見せているようだったと語っています。また、赤信号で止まり、青信号になって再び動き出す際の動きも秀逸とのこと。自動運転車の動きは、基本的にフロリダの運転免許を取得できるようにプログラミングされているとのことなのですが、青信号に変わっても車はすぐに動き出さず、1.7秒後に動き出すようになっているとのこと。これは、赤信号になったばかりの交差点に突入してくる交差車線の車との衝突を避けるための動きだということです。


しかし一方で、人間とは異なる動きを見せる場面にも遭遇したとのこと。路肩で道路工事が行われているような状況では、車の動きが極めてゆっくりなものとなり、ついにはほとんど動かない状態にまでなったとのこと。Levy氏は「Disengage」と話して自動運転を解除し、助手席に乗るスタッフがその状況をレポートにまとめたそうです。

試乗を終えたLevy氏は、自動運転車が正式にデビューするタイミングについて「95%のところまで来ているが、残りの5%は時間がかかりそうだ」という感想を述べています。現状ではまだ運行の安全を監視するドライバーと、周辺認識の正確さを確認する助手席の乗員の存在が不可欠であること、Googleもそのことを把握してなのか、地図がマッピングできていない道路の走行にはあまり乗り気ではなかったことなどを考えると、全ての道路で問題なく走行ができる日はまだ先になるだろうというのがLevy氏の見通しのようです。


しかしその感想を開発責任者であるGoogleのChris Urmson氏に話すと、「それは誤った認識です」と返答が返ってきたとのこと。テスト走行中に見せたある種のぎこちない動きは、安全性を特に優先するGoogleの方針が反映されているものであると語ったそうです。Levy氏に「いつ自動運転車は実現しますか?」と尋ねられたUrmson氏は「私の息子が(運転免許を取得できる)16歳になる頃でしょう」と答えたとのこと。Urmson氏の息子はいま12歳なので、あと4年で自動運転車が現実のものになるという計算になるそうです。

自動運転を体験したLevy氏は、自分で車を運転する際に、いつの間にか周囲の状況をまるでノートPCの画面「x_view」のように認識しようとして、危険がどこに潜んでいるのかを探ろうとする自分に気がついたとのこと。そうすることで、まるで自分の運転がうまくなったようにも感じたそうです。しかしその一方で、人間にしかできない判断が残されていることにも気がついたとのこと。Levy氏の印象を総合すると、そこには「開発はかなリ進んでいるが、最後の残りの部分を詰めるのに時間がかかる」という様子がよく表れているようです。

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in 乗り物, Posted by darkhorse_log

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