「世界崩壊で科学知識が崩壊、次世代にひとつだけ何か伝えられるなら?」と12人の科学者に質問した結果とは?
ノーベル賞を持つ著名な物理学者であるリチャード・ファインマンは、「もし世界規模の大変動が起きて科学的知識の全てが破壊されたとき、もしあなたが次世代にたった一文だけを伝えることができたとしたら、少ない言葉であなたはどんな重要な情報を伝えますか?」と質問されたことがあります。ファインマンは「全てのものが原子で構成されていると仮定する『原子論』を伝えます」と回答しましたが、BuzzFeedの記者が現代の科学者12人に同じ質問をぶつけてみると、さまざまな回答を得ることに成功しています。
I Asked 12 Scientists: What Is The One Fact Humanity Needs To Know
http://www.buzzfeed.com/tomchivers/how-come-no-one-mentioned-evolution-by-natural-selection
1:Ceri Brenner(物理学者)
Ceri Brenner博士の回答は「エネルギー保存の法則」。エネルギー保存の法則では、生命から宇宙に至るまで人間を取り巻くあらゆるエネルギーは、ある状態からほかの状態に変化することはあるものの、その総量は一定流量で保たれていると考えられています。例えば化学物質が熱に変換される現象などは全てエネルギー伝達のサイクルに含まれ、視覚・聴覚・触覚・コミュニケーションにより感じる世界は、電気エネルギーが熱や光に変換される状態で表わすことができるとのこと。
Brenner博士は「エネルギーは常に一定で、生成されることや、破壊されることはありません」と語っており、もし人が死んだとしても、エネルギーは質量として残り、破壊されることはなくほかの形に変化したり、そのまま残ったりする、と説明しています。
2:Buddhini Samarasinghe(分子生物学者)
分子生物学者のBuddhini Samarasinghe博士は、「全ての生体細胞内に存在する、DNA分子の二重らせん構造は、人類が知っておくべき重要な科学情報でしょう」と話しています。DNAはアデニン(A)、チミン(T)、シトシン(C)、グアニン(G)という4種類の塩基で構成されており、このATCGの配列は、人間の過去・現在・未来を知らせる情報であり、先祖のこと、疫病の対処方法など、地球上の生命の理解を可能にするとのこと。
3:Lewis Dartnell(宇宙生物学者)
宇宙生物学者のLewis Dartnell博士は、「ゼロから文明を再構築するために必要な知識」という本を出版した人物。一部の地域では汚染された水により毎年何百万人もの命が下痢の疾病で失われていますが、感染する疑いのある水を透明なペットボトルに満たし、日中に6時間太陽光を当てるだけで、紫外線があらゆる細菌を消毒して水が飲めるようになります。この簡単な消毒方法を、Dartnell博士は次世代に伝えるべき知識として回答しました。このローテクな方法は「SODIS」としてWHOが発展途上国に推奨しています。
4:Susannah Fleming(医療機器開発者)
「私は質問を受けたとき、科学やテクノロジーの力をほとんど借りずに幅広く利益を生み出せる知識について考えました。それは誰でもできる『感染予防と制御』の方法です」と語るのは医療機器の開発研究者Susannah Fleming氏。病気の大半は目に見えない極小の生物が原因となり、呼吸・接触・体液を通じて感染します。しかし、「水を飲み続けるだけ」で感染の確率を最小限に抑えることができるとのこと。また、傷病者やペットなどの生き物に接する人は、手洗いなど体の表面を清潔にすることで感染を防ぐことができます。
手洗いなどは当たり前とも言える心掛けですが、Fleming氏は「理想的な対策とまではいきませんが、少なくとも何世紀もの間信じられていた瘴気の考え方を打ち破ることができます」と話しています。
5:Duncan Casey(化学者/生物物理学者/開発者)
さまざまな肩書きを持つDuncan Casey博士は、「銅線の輪の中に磁石を入れて回すことで生じるエネルギーが、光・熱・新鮮な食べ物・清潔な水をあなたに与えています」と話し、伝えるべき知識としてコイルを使った簡単な発電方法を挙げています。約200年前、「電池」が発明されたことで人間の生活は一変し、1年中家屋を快適な室温に保ったり、食べ物をより長く新鮮に保ったりできるようになりました。電話やインターネットのような長距離通信を可能にし、工場や列車をも動かすなど、誕生からわずか200年ほどで、電気は人間の生活に必要不可欠な存在となっています。
Casey博士は「さまざまな高度な技術が発見されていく中で、人類の社会を存続させるために何か1つを選ぶならば、『発電方法』でしょう」とコメント。
6:Ying Lia Li(光学機器学の博士課程の学生)
ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンの博士号学生で、2015年の沖縄科学技術大学院大学のカンファレンスで光学機器学に関するプレゼンを行ったYing Lia Li氏は、次世代に伝えるべき知識について「ビーチに座って海流を眺めることです。それだけで私たちのまわりにある運動における数学的記述を理解することができるのです」と話します。彼女によると、ビーチに座って海流を眺めることで、宇宙に浮かぶ惑星の軌道から足の指にはさまった砂の振動量に至るまで幅広い知見が得られるとのこと。
海洋の波のように、対象が前後、または左右に行き来するパターンの運動は「調和振動子」と呼ばれ、「正弦波」としても知られています。調和振動子は現実でも多く存在し、振り子時計の振り子、飛び込み台の動き、カーラジオの低音による共鳴音などが挙げられます。調和振動子の仕組みを理解することで、科学者は原子の運動を操作できるようになり、現在では研究所内で「宇宙で最も冷たい原子」を簡単に作成することさえできるようになっています。
7:Liam Gaffney(原子核物理学者)
原子核物理学者として私の回答がファインマンと似てしまうのは仕方ないかもしれない、と前置きしたLiam Gaffney博士は「私たちの存在を説明する上で、『原子論』はまさに必須です。人間・物質を含めあらゆる物は極小の粒子で構成されており、爆発する星から全てが生まれた、ということを説明することができます」と話しました。世界の全ては3種類の小さな素粒子から構成されており、それは陽子・中性子・電子に分類できます。Gaffney博士は「私たちや、まわりにある物質は全て、数百億年前に激しく爆発した星から発生した3つの素粒子から生まれたものなのです」と、あらゆる物質を構成する原子についての知識こそが後世に残すべきものであると説明。
8:Alom Shaha(物理教師)
ロンドンの物理高校教師で映画制作・著書の執筆・サイエンスショーのTV出演などをこなすAlom Shaha氏は「私は高校で生徒たちに物理を教える教師として、『科学的手法』に関するアイデアを話したいと思います」と返答。ニュートン力学、自然淘汰による進化論、原子説の問題など、さまざまな化学的理論が証明されていますが、科学は自然に見つかるものではなく、世界を測定するために人間が確立していくものです。科学的手法の確立によって、人間は疫病の根絶や、宇宙を飛んでいる彗星の速度などの自然現象をモデル化する科学的手法を発見したことに対して、Shaha氏は「注目に値するべきことです」と述べています。
「もし世界から科学的知識が失われてしまったとき、後世に伝えるべきことは特定の知識や理論ではなく、科学的手法を確立する方法を伝えるべきだと考えました」と、Shaha氏は回答しました。
9:Samuel Godfrey(生化学者)
「科学はこれまで非常に素晴らしい数々を生み出してきたので、私は『人類が知っておくべきこと』が単にひとつの情報だけに区切れないと思います。代わりに私が次世代の人類のために伝えたいことは、『好奇心の強い懐疑論者であり続けること』です」と話すのは生化学者のSamuel Godfrey博士。科学的手法を確立する上で重要な考え方は、全ての事柄を立証するための証拠が必要であるということ。Godfrey博士は「どれだけ小さなことでも、あなたが学習したことを、世に伝えて下さい。それが世界の精査に耐えられたなら、あなたは正しいのです。正当性を証明できたなら、あなたは世界を変えるでしょう」と説明しています。
10:Dean Burnett(心理学者)
心理学者のDean Burnett博士は、「もしあなたが社会を再建することになったとき、あなたに必要な考え方を説明したいと思います」と始めます。社会を再建することになったとき、必要なものは基礎科学や自然のプロセスについてではなく、「人間の脳は100%合理的ではない」という性質を知っていることが重要とのこと。共同作業を行う大きなグループを作るとき、「誰もが協力するだろう」と仮定する必要はなく、むしろそう考えないことがより合理的に人々を主導できるようになります。
11:Sujata Kundu(材料化学者)
「次の世代の人類に必要とすることは、新しい情報ではなく少しの激励です」と考えるのは材料化学者のSujata Kundu博士。材料化学者として宇宙の全てを原子で構成されたレゴブロックのように見なしているというKundu博士は、「すでに絶対に破ることができないルールがあります」と話します。しかし、アインシュタインは「想像力は知識よりも重要である」という言葉を残しており、Kundu博士もこの言葉に同意します。想像はすでに確立された手法の向こう側を見据えるものであるため、多くの事柄が確立されたあとに生まれる次世代の人類は、既存の手法ではなく、試行錯誤を繰り返すための励ましが必要なのかもしれません。
12:Greig Cowan(粒子物理学者)
「ファインマンに勝つのは難しい!」と話す粒子物理学者であるGreig Cowan博士が、人類が知るべきことは何か?と聞かれてただちに心に浮かんだのは、物理学や数学の学生なら誰でも知っている「オイラーの等式」のこと。「eiπ+1=0」で表わす小さな方程式ながら、計算・円周率・複素数・対数・0・1といった深いコンセプトを1つのカプセルに詰め込んでいる、とCowan博士は説明しています。
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