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VRヘッドセットで楽しむコンテンツを作成する際に気をつけておきたいポイント


VRヘッドセットOculus Riftで遊べるゲーム「I Expect You To Die」を開発したジェシー・シェルさんが、VRゲームを作成するためのコツをGamasutraで公開しています。

Gamasutra: Jesse Schell's Blog - Making Great VR: Six Lessons Learned From I Expect You To Die
http://www.gamasutra.com/blogs/JesseSchell/20150626/247113/


2015年6月の段階では、ゲーム業界のVRゲームに対する評価はイマイチ定まっていません。ゲーム開発者の典型的な意見としては、「任天堂のバーチャルボーイがVRはダメだということを示したじゃないか!」だとか「VRはKinectや3DTVのような一時的な流行に過ぎないよ」、「3D酔いは解決不能だ」といったものだそうです。

しかし、2016年以降はVR関連デバイスが山のようにリリースされるだろうとジェシーさんは予想しています。また、VRデバイスは既存のゲームプラットフォームに取って代わるようなものではなく、現在のゲーム業界の新たなスタンダードとして、PCや据え置きゲーム機、スマートフォンゲームなどと一緒にゲーミング体験を発展させていくものになると考えているとのことです。


そこで、ジェシーさんはVRゲームを20年以上に渡って開発してきた経験から培われた「最高のVR体験を可能にするためのコツ」を公開しています。

◆3D酔いは克服可能
ファーストパーソン・シューティングゲーム(FPS)をプレイしたり自動車教習所にあるドライブシミュレーターを使用したりすると起きる、乗り物酔いによく似た現象が「3D酔い」です。これはVRヘッドセットを装着した時にも生じるもので、症状の強度は人によってさまざまですが、これを抑えるために「コンテンツを作る側」が押さえておくべきポイント4つを挙げています。

・フレームレートを上げる
フレームレートは最低でも60fpsに設定し、90fps以上を目標に作成することをジェシーさんは推奨しています。これは開発側にもゲームをプレイするデバイス側にも無茶な注文のように感じますが、60fps以下のVRゲームをプレイすると、脳が「何かおかしなことが起きている」と認識し、3D酔いの原因となってしまうそうです。

この考えに「人間の脳は24fps以上の映像を認識できない」と反論する人もいます。しかし、実際に夜間に1秒間に50~60回点滅している街灯の下で空中に浮かんだボールを見れば、街灯は常時点灯しているように見えるのに、ボールの影は点滅していることがはっきりと見られるそうです。

この様に脳が運動を知覚する方法は非常に複雑なので「VRでは60fps以上を推奨する」とジェシーさん。


・第三者視点のカメラの動きを無効にする
シューティングゲームやレースゲームなどで、第三者視点のカメラを置くことがありますが、こういった視点にあるカメラが動くことは3D酔いにつながるそうです。また、仮想の目や耳や頭などのパーツが多く配置されていると、VRヘッドセットで見る映像が自身の目で見る実際の映像から乖離してしまい、3D酔いにつながるそうです。ただし、例えば「仮想の手をVRゲーム内で動かす」という動作は信じられないくらいに素晴らしい体験になるので、創造性と3D酔いのバランスを上手くとることが重要なようです。

・もしもカメラを移動させなければならない場合は加速させてはいけない
VRヘッドセットで見る「座っている映像」と「時速80km(一定の速度)で高速道路を走っている映像」はほとんど体感としては差がないそうですが、脳は加速や減速には非常に敏感に反応し、3D酔いを引き起こしてしまうそうです。

ジェシーさんはディズニー・クエストにあるアトラクションの「アラジンの魔法の絨毯VRアドベンチャー」を作成した人物でもあるのですが、この映像を作成する際に動きをなるべく一定になるように調整したそうです。いくつかの箇所で加速する必要があったわけですが、それでも加速減速を極力少なくすることで、3D酔いの少ないアトラクションになった、とのこと。

アトラクションはわずか5分程度の映像ですが、ゲームの場合はより長く映像を見る必要性が出てきます。そこで、ジェシーさんは「I Expect You To Die」の冒頭20~30分間でプレイヤーがゲームに没頭(ハマる)できるように、この間の加速運動を極力減らしたそうです。

・水平を保つ
いくつかの複雑な動きが3D酔いを引き起こすことは明らかですが、その中には「カメラが連続で横回転する」というものも含まれます。なので、これに準じるような横回転系の動作は極力VRゲームでは取り入れるべきではない、とジェシーさんは言います。

・オマケ
他にも3D酔いを避けるために、「仮想の鼻」を画面上に置くという方法が一定の効果をあげることもわかっています

「仮想の鼻」を置くと3D酔いしなくなることが判明 - GIGAZINE


◆個々のVRヘッドセットのためにデザインする
初期の映画は、演劇をまねて舞台の上でカットなしのぶっつけ本番で撮影されており、アップやパンなどのカメラの動きは一切ありませんでした。同じように、初期のインターネットムービーではTV番組を模倣して30~60分の番組を配信しようと躍起になっていました。このように、新しいデバイスや媒体が登場しても、初めの頃は既存のものをマネることに躍起になってしまうものです。しかし、徐々に利用者が増え、ユニークな使い方が増えることで、新しいモノの真価が発揮されるようになっていきます。

VRがこういった流れを乗り越えられるのか、はたまた過去のバーチャルボーイのように忘れ去られてしまうのかは神のみぞ知るところですが、VRの得意な点と苦手な点を整理することで、VRの発展を助けられるのでは、とジェシーさん。

ジェシーさんは特にVRの「まるでゲームの世界に自分が存在しているかのような没入感」を評価しており、これの妨げになるものを削っていき、良質なコンテンツを製作すべきとしています。

◆「没入感」こそがゲームプレイよりも重要
そんなVRゲームに「没入感」をプラスするために必要なテクニックは全部で4つあるとジェシーさん。

・アイテムの使用範囲を「広く」持つ
従来のアドベンチャゲームではドライバーはネジを回すためのアイテムで、ナイフは物をカットするためのアイテムで、それ以外の何物でもありませんでした。しかし、ゲームの中にのめり込むことができるVRゲームでは、ユーザーがより現実に近い発想をします。例えば「I Expect You To Die」で自動車のパネルを開く必要があるシーン、製作側は車の中に置いたドライバーを使ってユーザーがパネルを開けると考えていたそうですが、実際には多くのユーザーが予期せず置いてあったナイフを使ってパネルを開けたそうです。


しかし、実際にゲーム内でナイフを使ってパネルを開けられるように調整するのは非常に面倒なことであったそうで、ゲームのコードを書き換える代わりにゲーム内のナレーターに「クリエイティブなことをしたけどネジを外すにはナイフじゃダメだね」としゃべらせることにした、とジェシーさん。これにより、プレイヤーのチャレンジを評価しつつ、各アイテムの幅を広げずに済んだというわけです。

現実で可能な動作をただ「できない」で片付けてしまうと、没入感が損なわれてしまい「そういえばゲームだった」とユーザーを現実に引き戻してしまうことにつながります。なので、可能な限り現実のようにさまざまなオブジェクトが相互に干渉し合うようなゲーム設計を行うことをジェシーさんは推奨しています。

・現実的なサウンド
VRゲームの中でまるで本物のコインのように精巧に作られたデータ上のコインを手に持っているとして、これを落としてしまった際に音が鳴らなかったとしたら、それは没入感を阻害することにつながります。逆に、コインが地面についた瞬間に「チリン」と音が鳴れば、ユーザーを現実に引き戻すことなく、ゲームを楽しんでもらうことにつながるわけなので、「音」も細部にまでこだわるべき、とジェシーさん。

・固有受容性を意識する
「固有受容性」とは、体の位置感覚や変化を指すものです。通常のゲームの場合、ゲームプレイと固有受容性との間に関連性はありませんが、VRゲームの場合はゲームに没頭するのに非常に重要な要素となってきます。

もしもイスに座ったままVRデバイスでサッカーなどのスポーツゲームをプレイしたなら、プレイヤーの体はVRゲームを偽物の映像と知覚し、没入感を阻害します。そこで、「I Expect You To Die」ではキャラクターがイスに座る状態(車に乗ったり机に座ったり)を意図的に作り上げることで、没入感を演出しているそうです。

また、現実の体のありかたとゲーム内のキャラクターのありかたを近づけて没入感を得る最も手っ取り早い方法として「ゲーム内のキャラクター(プレイヤーが操作するキャラクター)が見ることのできる仮想体を設け、これをゲーム内で操作すること」を挙げています。


・インターフェイス上の制限
VRゲームはあくまでゲームなので、現実と比べればインターフェイスにある程度の制限が設けられます。ただし、例えばマウスのクリックでゲーム内の銃を使用できるとするならば、銃を撃つ度に現実に引き戻されるということはなく、脳は容易にゲーム内と現実の動作の違いを受け入れてくれるそうです。

そこで、ジェシーさんはあるゲームの中で「ねじを巻く動作」を、現実の世界で「マウスで円を描く動作」で再現できるようにすることで、動作の類似性から没入感を演出できるのではないかと考えたそうです。しかし、円を描く動作は非常に面倒で、プレイヤーの没入感を阻害することになってしまった、とのこと。

逆に、ゲーム中でドライバーを持ちさえすればねじが抜けるようにしてしまったところ、あまり現実的ではないものの、プレイヤーの没入感を邪魔することはならなかったそうです。

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in ゲーム, Posted by logu_ii

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