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全高3メートル・重量2トンの世界最大のピアノ「Klavins-Piano Model 370」が奏でる音色とは


18世紀に誕生した楽器・ピアノは、その300年以上にわたる長い歴史でさまざまな改良が加えられてきました。もはや完成の域に達したのかと思われるピアノですが、実際はまだまだ理想の形にはたどり着いていないようで、ドイツで制作されたピアノ「Klavins-Piano Model 370」は、最高の音色を求めて設計された全高3メートル・総重量2トンという超巨大ピアノで、そのサイズは小型のパイプオルガンにも匹敵するものとなっています。

Model 370 - Klavins Piano
https://klavins-pianos.com/productsold/model-370/

この画像に写っているのが、ドイツのピアノ工房「KLAVINS PIANO MANUFAKTUR」が制作した世界最大のピアノ「Model 370」の姿。一目見ただけではそのサイズ感が伝わってこないかもしれませんが、上部に設けられた手すりの中に置かれた演奏者用のイスを見ればその巨大さがよくわかります。


全高3メートル以上、総重量2トンというModel 370は、もちろん持ち運ぶことなど不可能。2フロア分をぶち抜いたスペースに「建設」されたピアノを演奏するためには、背面に取り付けられた階段を登り、2階部分にある演奏フロアにたどり着く必要があり、その姿はまるでキリスト教の教会に設けられたパイプオルガンのよう。音を奏でる弦は、床に対して垂直方向に張られています。


そんな見た目とは裏腹に、実際に演奏者が触れる鍵盤部分はオーソドックスなピアノとほぼ同じ。ピアノ本体が巨大でも、鍵盤の数は通常のピアノと同じ88鍵で、音域も変わりないそうです


Model 370は1987年にお披露目されたピアノで、制作したのはドイツの都市・ボンのピアノビルダーであるDavid Klavins氏。このピアノを製作した理由についてKlavins氏は、まだこの世に「完璧」と呼べるピアノは存在しておらず、究極のピアノを作り上げるために製作したと語っています。さらに、素材科学が進歩した現代において、従来とは異なる新しい素材を使ったピアノの制作にも意欲的な様子。


3メートルを超えるサイズが必要になった理由は、ピアノの音域と弦の長さの関係にあるといいます。原則的に弦楽器は弦の長さが長いほど低い音が出るものなのですが、現在最も広く使われているピアノでは完全にその長さが足りず、調律の際には弦の張力を緩めることで必要な低音を再生できるように「妥協」しているとのこと。それにより、本来得られるべき音の倍音が削がれ、理想の状態からは遠くなってしまっているのが現状だそうで、弦長がおよそ2メートルあり一般的に最もサイズが大きいとされるフルサイズのグランドピアノでも、まだまだ理想には届かない状態。

By YAMAHA

Model 370はそんなピアノの限界に挑戦したモデルで、最も低音の弦の長さはなんと3メートル3センチ。音を響かせて豊かにする響板は一般的なピアノの2倍に相当する2メートル75センチにも達しているとのこと。そんなModel 370の姿や奏でる音色は以下のムービーで見て聴いてみることができます。

David Klavins and the world's biggest piano | Euromaxx - YouTube


ピアノの調整を行うKlavins氏。Klavins氏はドイツ・シュトゥットガルトでピアノの修理や調整などを行う工房を長きにわたって運営している人物です。


Klavins氏がModel 370を演奏するために「搭乗」するところ。Model 370の巨大さがよくわかるアングルです。


本体背面の階段を登り……


鍵盤の前に座るKlavins氏。通常はカバーで覆われている鍵盤周辺のアクション機構はむき出しになっています。


Model 370から奏でられる音色は、その巨体から想像するのに反して軽やかでキレの良いもの。実際には25Hzという極めて低い音が出ているようですが、理想を求めて設計された弦長により豊かな倍音が付和されるため、通常のピアノには再現できない鮮やかな音色が再現されるのが特徴のようです。


低音の鍵盤を叩いて音色を確かめるKlavins氏。「このA(ラ)の音がいい音だろ?しかし、1オクターブ下がると、まだベストとはいえない」と、最低音のA0と1オクターブ上のA1を弾き比べて音色の違いを説明。たしかに、芯がありつつ華やかさもあるA1の音色に比べ、1オクターブ低いA0の音はどこかくぐもってコシのない音色に聞こえる気がします。しかし、どちらも一般的なピアノに比べるとはるかに華やかさが感じられる音色といえそうです。


Model 370のパネルには、多くのサインが書かれています。これらは全てこのピアノを演奏してきた著名なピアニストによるサインの数々。ポーランド出身のスワベック・コバレフスキやトーマス・ドゥイス、ギュルスィン・オナイなどそうそうたる面々がこのピアノを演奏してきたそうです。


そんなModel 370を使った最新レコーディングが、ピアニストのニルス・フラームによる「–solo–」という作品。以下のリンクから聴いてみることができます。



以下のオフィシャルサイトからは、フルアルバムを無料でダウンロードすることも可能となっていました。

Piano Day » Happy Piano Day » welcome to the first holiday which celebrates the piano
http://www.pianoday.org/

以下のムービーは、トーマス・ドゥイスによる「ショパン:スケルツォ第2番 変ロ短調」の演奏。録音された音を聴くだけでは判断が難しいところですが、低音域においても高音域と変わらない音色のバランスを持っている様子が感じられます。

F. Chopin - Scherzo b-moll op. 31 - YouTube


同じくドゥイスによる「ベートーヴェン:ピアノソナタ第23番(熱情)」の演奏。あえてわかりやすく表現すると、アコースティックギターの弦を新しく張り替えた時のようなアタック感、軽やかさ、クリスプ感を特に低音域の音色から感じることができます。

L. v. Beethoven - Sonate op. 57 "Appassionata" - YouTube


協奏曲を演奏する時などは、以下のムービーのように共演者も同じ2階のフロアに登って演奏するようです。

Klavins-Giant-Klavier /// wir testen das größte Klavier der Welt (3.70) inTübingen - YouTube


さらに、Model 370の音色をフルサンプリングした素材集「THE GIANT」がNative Instrumentsからリリースされているので、誰でもその音色を使って音楽制作を行うこともできるようになっています。

Komplete : キーボード : The Giant | 製品
http://www.native-instruments.com/jp/products/komplete/keys/the-giant/


Model 370に満足していないKlavins氏は、さらなる究極のピアノ「MODEL 450i」を計画中とのこと。モニタには設計図が表示されています。


モデル名からわかるように、全高4.5メートルにもおよぶ巨大ピアノは最大で3.9メートルという弦長を持ち、Model 370を軽く上回るものになるとのこと。それでいて、計画重量は約800kgと非常に「軽量」なピアノになりそうです。弦を支えるフレーム部分はステンレスで制作されるのも興味深いところ。

Model 450i


さらに、Klavins氏は横置きタイプのグランドピアノでありながら、従来とは一線を画す独創的で美しいデザインのピアノ「Grand 408」をも計画している様子。まるで海に浮かぶヨットのような外観のピアノからどんな音色が奏でられるのか、思わず期待せずにはいられないモデルとなっていました。

Klavins Pianos - Grand 408

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in ハードウェア,   動画,   アート, Posted by darkhorse_log

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