生き物

もしもこの世から「蚊」がいなくなったら?

By James Jordan

ゴキブリやカメムシと並んで「なんでこの世に存在するのか意味がわからない!」と考えている人が多いかもしれないのが「」の存在。世界でもそんな蚊がこの世から絶滅したらどんな世界になるのかが研究されているのですが、その結論はなかなか複雑なものがあるようです。

Ecology: A world without mosquitoes : Nature News
http://www.nature.com/news/2010/100721/full/466432a.html

全世界では毎年5億人ともみられる人がマラリアに感染し、100万人以上が命を落としています。マラリアの主な感染源は、病原体を媒介する「蚊」であることが知られており、さらに蚊は黄熱病やデング熱、日本脳炎、西ナイル熱といった病気をも媒介しています。

現在、地球には3500種とも言われる蚊が生息しており、その中の数百種のみが人間の体を刺して血を吸うことがわかっています。蚊はほぼ全ての大陸に生息し、数多くの生態系の中で重要な機能を果たしてきました。アメリカ・ウォータリード陸軍研究所のJittawadee Murphy氏は「蚊は1億年以上も地球に生息しており、非常に多くの種とともに進化を遂げてきた」と語り、生態系の一端を担う蚊が一掃されてしまうと、蚊を食糧とする生き物の生態が脅かされ、また一方では花粉を媒介してもらっていた植物が絶滅してしまうことも考え得ることといえます。

By fs999

しかし、科学者の多くはこの世から蚊がいなくなることが環境に与える影響について「一時的な影響は受けるもののすぐに他の生物によって埋め合わされ、しかもよい結果を招くことになるだろう」と考えています。その影響については、「駆除することによる不都合点が見つからない」とするイリノイ州立大学のSteven Juliano氏や、「より安全な世界になり、人類にとって顕著なものとなるだろう」とするブラジル・サンタカタリーナ連邦大学のCarlos Brisola Marcondes氏のような意見が存在しています。

蚊が駆逐されることで生態学的な影響を強く受けるのは、ある種の蚊が生息する北極圏のツンドラ地域だと考えられています。雪が溶ける季節になると前年に産み付けられた卵から幼虫が孵化、その後おびただしい数の成虫になった蚊が真っ黒な雲のように空を覆うほど大発生する地域では、蚊は豊富な食糧源になることもあるのです。

By USGS Bee Inventory and Monitoring Lab

ミシガン州立大学の昆虫学者であるRichard Merritt氏は「蚊は『おいしい食べ物』である上に非常に捕まえやすいエサになります」と語ります。もし蚊の幼虫がこの世からいなくなると、数百という種類の魚が従来とは違う食べ物を探さなくてはならなくなりますが、生き物の食生活は多くの場合に遺伝子レベルで受け継がれているものなので、考えられているほど容易なものではなく、食物連鎖に影響を及ぼすことになることが考えられます。同様に、クモやトカゲ、カエルなどの生き物も一定の影響を受けることになるといえます。

そのような蚊を駆逐せずに生かしておく必要性は、人間に対するメリットがあるか否かによって決定づけられることになります。蚊の一種であるヌカカに刺されると、皮膚が水ぶくれを起こすことがあり、さらには病原菌を媒介することもあるために、駆除の対象としてしまいたくなるものですが、一方でヌカカはカカオの花粉を運ぶ生き物でもあります。仮にヌカカを撲滅すると、その結果、世界からはチョコレートが姿を消すことになってしまうとも考えられるのです。

By Thomas

しかしこのような観点は限定的ともみられます。アメリカ疾病予防管理センターの医療虫学者のJanet McAllister氏は「もし蚊によって人間が利益を得ているとすれば、その利益を享受するために蚊を利用する事を考えたでしょう。しかし、これまで人間が蚊に求めてきたことといえば『あっちいけ』ということぐらいしかありません」と語り、蚊の人間に対するメリットの低さを示します。

これらの意見を総合すると、究極のところ蚊が他の生物よりも秀でている能力とは、「ある生き物を刺して血を吸い取ること、そしてさらに別の生き物を刺して、病原菌を広げるということ」に尽きるのかもしれません。

アメリカ合衆国農務省のDaniel Strickman氏は「有害な蚊を駆除することによるメリットは『人口の増加』といえます」と語ります。マラリアなどの疫病で失われる命がなくなり、疾病対策に費やしていた予算を国家の発展のために向けることができるようになるとしています。

By Eileen Delhi

しかしその一方で、蚊の駆除は「一時的な安心感を得るにとどまる」とする意見が挙がっているのも事実。フロリダ州のスクラップ場で採取されたネッタイシマカを調査した研究チームによると、ネッタイシマカの一部の個体は別のヒトスジシマカとの混血が進んでいる上に、次第にヒトスジシマカによって駆逐されつつあるという事がわかっており、一部の種を駆除してもすぐに別の種によって置き換えられてしまうという実態を明らかにしています。

また、人々が健康に暮らせることによるメリットよりも、人口増加によるコスト増加による弊害がそれを上回るという見解が存在していることも事実です。米国蚊防除協会のJoe Conlon氏は「仮に明日この世から蚊がいなくなったとしても、自然のエコシステムは少し『しゃっくり』をするだけで再び元通りに戻ろうとするでしょう。その時には、前よりも良い事か悪い事のどちらかが起こることになります」と語っています。

By Nathan Proudlove

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in メモ,   生き物, Posted by darkhorse_log

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