「充電のためにコンセントを探す」行為から開放してくれる技術いろいろ
By Alexandra Schwarz
スマートフォンやタブレット、ノートPC、携帯ゲーム機や音楽プレイヤーなどなど、普段の生活の中には多くのモバイル端末が溶け込んでいるわけですが、これらを使う人にとって電池残量は常に気がかりなもの。モバイル端末のバッテリーが切れてしまい、外出先でコンセントを探してさまよった経験がある人も少なくないはずです。そんなモバイル端末を「コンセントなしで充電できるような技術」をIT関連のニュースサイトQuartzがまとめています。
Mobile devices of the future will get energy from everywhere except the wall socket – Quartz
http://qz.com/180484/mobile-devices-of-the-future-will-get-energy-from-everywhere-except-the-wall-socket/
◆熱電気
2種類の金属をつなげ、2つの接点をそれぞれ違う温度にすると、電位差が生じて電流が発生するのですが、この現象を熱電気と呼びます。
この現象を活かし、ヨーロッパの大手無線通信事業者Orangeが、携帯電話を充電するために熱電気パネルをソール部分に搭載した長靴「Power Wellies」を発表したり、Vodafoneが熱電気技術を応用してスマートフォンの充電が可能な「寝袋とホットパンツ」をリリースしたりしました。
少しニュアンスが違いますが、飲み物の熱エネルギーでスマートフォンの充電が可能になるEpiphany onE Puckというものもあり、これは装置内部の不活性ガスを飲み物の温度で変化させることで、内部ピストンを動かし電力を発生させるという装置。原理は熱電気とは違うものの、熱電気を応用した発電装置とEpiphany onE Puckは両方温度の変化をエネルギーに変換する、という考えがもとになっています。
熱電気を応用して熱から電力を生み出すのは比較的容易です。しかし、これは現在のところ効率的な電力供給方法ではなく、現在のところ、熱電気に最適な素材を使用したとしても熱源の15~20%を電力とするのが限界とのこと。そもそも熱電気では熱源の30%以上を電力として取り出すことは不可能という面もあります。
熱電気では2つの接点の温度差が大きければ大きいほど多くの電力が得られるので、例えばスマートフォンに熱電気技術を応用した充電装置が組み込まれたとしても、外気の温度と体温が近ければあまり電力を得られない、ということになります。なので、人体の温度よりもはるかに高温な熱々のコーヒーを電力源にしようというEpiphany onE Puckの発想は中々にグッドなものなのですが、充電が完了するまでコーヒーの前で待っておくだとか、コーヒーをずっと熱々に保っておく必要性だとかを考えると、こちらもモバイル端末の電源にするには最適なものとは言いがたいようです。
このように熱電気はエネルギー回収率が低いという弱点をもっているので、電力消費が多いものの充電方法としてはあまりふさわしくないように思われます。しかし、体内に埋め込む医療用機器や体温や心拍数などを計測するためのフィットネス機器など、低電力で動作可能なモバイル端末には最適な電力源になりえそうです。さらに、Quartzは熱電気技術の中でも将来有望なテクノロジーとしてウェイクフォレスト大学の開発したPower Feltを挙げており、これが進化すればスマートフォンのようなものの電力源にもなり得るかもしれない、としています。
◆圧電現象
圧電現象は、特定の物質に圧力をかけると電荷が生じる現象のことで、特に石英で顕著に生じます。
1989年に圧電現象を応用したキーボードの特許が認められていますが、これで生み出される電力をより増幅する方法が編み出されない限り、キーボードを入力するだけでPCの電力がまかなえる、という夢のような装置を開発するのは不可能とのこと。
By Nicolas Nova
圧電現象は熱電気と違いエネルギー回収率に理論的な限度がありません。そしていくつかのセラミック材料は、より広い帯域の振動から電荷を生じさせることが可能なのですが、この方法の欠点は「故障しやすくモバイル端末に組み込むには融通が利かない」という部分であるようです。
このように圧電現象では、圧力をかける物質の強度が大きな問題となるのですが、その解決策として物質の構造を変える、という方法があります。ウィスコンシン大学のXudong Wang博士は、スポンジ状の圧電材料を作り出し、これに改良を加えることで携帯電話の動力として使用できるようになる、と発言しています。Wang博士は、スポンジ状の圧電材料に包まれた携帯電話を車のダッシュボードの中に入れておけば、端末を動作させるのに十分な量の電力を供給できるようになるかもしれない、と話しています。
◆生体力学的エネルギー
生体力学装置は、人間の体の動きを小さな発電機で電力に変換するもので、歩く際の膝の屈伸運動から電力を作り出すような装置のことを指します。現在のところ一般市場に生体力学を応用した発電装置は出回っていませんが、Bionic PowerのPowerWalkのように、装着した状態で歩けば発電ができるニーブレースもあります。Bionic Powerのウェブサイトによると、PowerWalkを装着して約1時間歩き回れば、4つの携帯電話を充電できるくらいの電力を発電できるとのこと。また、自転車発電は厳密には生体力学的技術ではありませんが、これも運動を電力に変換する技術で、ライトやスピードメーターに電力を供給するようなものもあります。
通常着用している衣服などに生体力学装置が組み込まれ、日常生活に何の支障もきたさずに電力を生み出せれば最高なのですが、やっかいなことに、生体力学装置で電力を得るにはウォーキングや自転車に乗るなどのある程度の人間の動きが必要になってくるので、オフィスで机に向かって仕事をしている人ではあまり多くの電力を生み出すことができなそうです。しかし、ペンシルベニア大学のLarry Rome氏の発明したバックパックのような装置が、将来的に普及することになるかもしれないとQuartzは指摘しています。
◆ソーラーパネル
そして、モバイル端末をコンセントから開放してくれるかもしれない技術の最後の候補として挙がったのはソーラーパネル。日本でも太陽光で充電できるソーラーケータイが2009年に販売され、docomoやソフトバンクモバイルからも販売されたように、モバイル端末にソーラーパネルを組み込むことは可能です。また、端末に組み込まなくともChangersのように充電池をソーラーパネルで充電する、といったものもあります。
しかし、ソーラーパネルでの発電にはショックレー・クワイサーの限界というものが存在し、これによるとパネルにいかなる半導体を使用しようともエネルギー効率は32.7%を超えられないとのこと。さらにモバイル端末にソーラーパネルを組み込む場合にはスペース的な問題や、発電にどのくらいの時間がかかるのか、発電時の太陽の角度などなどさまざまな問題が絡み合ってくることにも注意しておかなければいけません。
By gr33n3gg
ソーラーパネルにもいくつか問題はありますが、Appleからの発売がうわさされているiWatchはソーラー充電機能が搭載されるのでは、と考えられていたりもするのでモバイル端末にソーラー充電機能が組み込まれるようになるのはそう遠くない未来なのかもしれません。
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