通常の10倍以上も長生きし続けることができる秘密の一端が明らかに

By TheGiantVermin

中東地域に生息する一部のネズミの中には30年という長い寿命を持つものが存在します。その長寿のヒミツは「がん発生率の低さ」であることがわかっていますが、それとは別に細胞の働きに起因する理由があることが最近の研究でわかってきました。

When You're A Naked Mole Rat, Why Stop At One Weapon Against Aging? – Phenomena: The Loom
http://phenomena.nationalgeographic.com/2013/09/30/when-youre-a-naked-mole-rat-why-stop-at-one-weapon-against-aging/

地面の中に住むネズミの一種であるメクラネズミ(盲鼠)は、同じ中東に生息するハダカデバネズミとともに30年という長寿の持ち主として知られています。他のネズミの寿命が2年前後であることを考えると、驚異的な長寿といえます。イギリス・ロチェスター大学の研究チームによる発見で、メクラネズミはたんぱく質の一種である「インターフェロンβ」を大量に分泌することで、がん細胞の元となる不良細胞を死滅させていることが明らかになっていますが、それとは別の長寿の仕組みがあることを同じくロチェスター大学の別の研究チームが発見しました。メクラネズミに備わっている特異なたんぱく質合成のプロセスが、老化そのものを遅らせているというのです。

体内でのたんぱく質の合成には、3種類のRNA「mRMA」「tRNA」「rRNA」が関わっています。まずmRNA(メッセンジャーRNA)が、生物の遺伝情報を格納しているDNAの情報をコピーします。次に「運び役」であるtRNA(トランスファーRNA)が情報をコピーしたmRNAを「たんぱく質工場」であるリボソームまで運び、最後にリボソームを構成するrRNA(リボソームRNA)のはたらきによってmRNAの情報がコピーされ、たんぱく質が合成されるという仕組みになっています。このリボソームで行われるmRNA情報のコピーの段階で失敗が発生すると、合成されたたんぱく質は欠陥たんぱく質となって本来の役割を果たすことができなくなってしまいます。役目を失った欠陥たんぱく質は体内に蓄積されていき、コラーゲンの減少により肌のハリがなくなったり、弱った消化酵素が以前ほど効率的に食べ物を消化できなくなるという老化を引き起こす原因となっていくのです。

By Ethan Hein

メクラネズミの長寿と欠陥たんぱく質との関連性に着目した研究チームは、そのたんぱく質合成メカニズムを詳細に研究しました。たんぱく質を合成するリボソームの中に含まれるrRNAはさらに4つに分類することができますが、メクラネズミだけはその中のひとつである28Sと呼ばれるものに特別変異があり、通常は1つのリボソームにつき1つ含まれている28Sがメクラネズミには2つ存在していることを発見したのです。

さらに研究チームでは、この特長がたんぱく質合成プロセスに与える影響を調べるため、メクラネズミと通常の実験用マウスの2種類に対して遺伝子操作を実施し、欠陥たんぱく質が体内で合成された場合に細胞が発光するようにして観察を行いました。合成されたたんぱく質が正常だった場合は何も起こらず、問題があったマウスだけが光を発します。結果、メクラネズミの細胞はほとんど発光せず、他のネズミよりも「暗かった」ことが確認され、メクラネズミは他に比べて欠陥たんぱく質の合成量が低いということが確認されました。メクラネズミのたんぱく質合成の失敗率は、他のネズミよりも4倍から10倍も低いものだったそうです。

By dcb aok

現段階では、28Sがたんぱく質合成の精度を上げることに関与しているという具体的な証拠が見つかっていないため、28Sが長寿を実現させていると断定することは時期尚早です。しかしこれは、メクラネズミの長寿の秘密には、低いガン発生率とは別にもう一つの理由があることを示す興味深い研究結果と受け止められています。

我々ヒトにもこの仕組みが当てはまるかどうかは明らかになっていませんが、健康長寿の一つのヒントとなるのかもしれません。