「日本人の男は9割9分ロリコンなんですよ」と語る「もしドラ」作者の岩崎夏海、その徹底したミリオンセラーを狙うための秘訣とは?
「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」の著者であり、はてな村では「ハックルさん」として超有名なあの岩崎夏海氏が「『もしドラ』×CEDEC ミリオンセラーを狙うための秘訣」というタイトルで講演をCEDEC2012で行いました。
齊藤康幸(以下、齊):以下
皆さんこんにちは。本日は大ベストセラー「もしドラ」を書いた岩崎夏海様にお越し頂いております。
このアジェンダに沿ってお話しを伺いたいと考えています。「もしドラ」をエンターテイメントに落とし込んだ手法、270万部に到達したコンテンツを作り上げた戦略、実際にゲーム業界に関わっている皆様へのメッセージとして「ゲームを作るのにゲームはやらなくてもいい」という気になるキーワード、「概念から理解しなければならない」などから話しを広げていければと思います。それでは本題に入りたいと思います。よろしくお願いします。まず、もしドラをエンターに落とし込んだ手法、ドラッカーの「マネジメント」という堅い題材をどうやってエンターテイメントに押し上げたのか、というところを簡単にお話し頂ければと思います。
岩崎夏海(以下、岩):
岩崎夏海と申します。どうぞよろしくお願いします。順を追って話させてもらうと、僕はですね。いかに良い作品が生まれたかを調べるのが好きなんです。良い作品がメガヒットした時に、制作者が何をしたのかを調べるのが好きでした。
で、大体共通するのが、みんなから笑われるとか、ばかにされるとか、みんなに相手にされないけれど後で実現させるというサクセスストーリーです。そういうものだとがわかった時に、やっぱり大ヒット作品を作るには、その作品を作る人の心構えが大事なんだと分かったんですよ。スティーブ・ジョブズとか、スタート地点でみんなから笑われることがあったと思うんですよ。スタートは大体そういうもので、逆にそういう状態からスタートするのがいいんじゃないかと。そこでまず、自分が信じる目標を作る。考えたのが、まず200万部売れる本を作るということだったんですよ。
その目標がまずあって、そこから逆算して、どうやって200万部が達成できるのか考えたんです。そう考えたときに、大体200万部ぐらい売れる本というのは限られていて、例の1つとして、「夢をかなえるゾウ」があったんですよ。当時270万部ぐらい売れています。あるいは「ホームレス中学生」、麒麟の田村君が書いた本が200万部ぐらい売れていたのがあって、必ずしも200万部というのは不可能な数字ではないということが分かったので、そこから逆算してスタートしたんです。「夢をかなえるゾウ」あるいは「ホームレス中学生」に共通しているのは作家が無名の作家であること。僕も無名だったので、無名の作家の方が売れる状況でした。また、世の中の風潮として、知識が得られるもの、役に立つもの、それこそ川島教授の「脳トレ」が流行っていました。そういうものとストーリーを組み合わせることができれば何か訴求するモノがあるのではないか、と思って長年芸能業界にいました。
ゲーム業界に関わらずコンテンツ業界の1つの鉄則、安泰で鉄板のものが17歳の女の子なんです。18歳だとおばさん、16歳だとロリコン。何で17歳の女の子が鉄板なのかと考えてたんですけど、いろいろ考えた結果、日本人の男は9割9分ロリコンなんですよ。だから13歳ぐらいの女の子が大好きなんですけど、それを言わないのは自粛の心が働くんでしょう。中学生だったらものすごい犯罪になるし、高校生でも犯罪になるんですけど、ストッパーが外れる時期があるんですよね。だから、17歳が鉄板だと分かったんで、17歳の女の子を主人公にした話にしようと思ったんです。そのころ、「ダ・ヴィンチ・コード」という映画が流行っていました。僕は流行った話しばかりしていますけど、何で世の中で流行っているかをいちいち分析するんですよね。で、「ダ・ヴィンチ・コード」を分析したら、やっぱり流行りの1つには知識欲。レオナルド・ダ・ヴィンチに隠された知識だとか、歴史とかの知識を事件と絡めるんです。その知識とエンターテイメントの融合が「ダ・ヴィンチ・コード」のヒットした要因ではないかと思います。
僕が、17歳の少女を主人公にするのは絞り込まれていたので、17歳といびつなものが絡み合わないかと、異質なもの探しをしたんです。本を出してからよく聞かれるのは、「よくドラッカーと女子高生を結びつけましたね」って驚きを持って聞かれるんです。でも、種明かしをすると大変な話ではないんですよ。しかも別にドラッカーに女子高生を結びつけたわけではなくて、女子高生にドラッカーを結びつけたんで、逆になっているんです。異質なもの探しをしているときに、いろいろなインタビューで語っているんですが、「ファイナルファンタジーXI」をやっているときに、一緒にプレイしていたメンバーがいうことを聞かない、約束を守らない、ということを何度も経験しています。メンバーをまとめられるのか悩んでいたときに、たまたまプレイヤーブログでドラッカーの本を読んでメンバーをまとめたということが書いてありました。それがなかなか面白かったので、本屋に行ってドラッカーを読んだら、これこそ17歳の女の子と結びつけるべきコンテンツだと思いつきました。
三谷幸喜さんが作るドラマの元になる原型があることをご存じですか。たった一つの原型を、手を変え品を変え、作り替えているんですが。三谷幸喜さんの全ての作品の原型は「がんばれベアーズ」なんです。ダメなチームに変革者が現れて、いい人ではないけれど、ああだこうだしている内に、みんなのやる気に火が点いて、最後に強大な敵を打ち負かす、みたいな。だから「がんばれベアーズ」には原型としてものすごい力があるんだなと思って、いつか自分も「がんばれベアーズ」を原型に何か作ってやろうと思っていました。次に、ドラッカーの「マネジメント」を読むと、マネージャーという言葉が書いてあって、そのマネージャーで思い浮かぶ高校野球のマネジャーが「マネジメント」を読んだらおもしろいんじゃないかと思ったんです。そこでドラッカーと女子高生を結びつける題名ができたんです。題名が決まったときには「がんばれベアーズ」を原型にしようと思っていたのでストーリーが決まっていたんですよ。それが「もしドラ」の原型になっています。
ご理解頂けたと思いますけど、僕は作り方オタクで、いかにして作られたかということばっかり研究し、法則を勝手に何とか法則と名付け、公式に当てはめて作ったのが「もしドラ」です。
齊:
ありがとうございます。知識欲によって流行っていることとかを分析されて、公式に当てはめて作る。私たちに近しいこと、参考にすべきことがたくさんありました。
岩:
僕はホントにゲームオタクなんですよ。ディスクシステムの時代、1980年ぐらいの夏、20歳ぐらいに「マリオゴルフ」をやっていました。自慢していますけど、任天堂が「カートリッジをおもちゃ屋さんに持っていくと自分のスコアを全国で集計して全国で争う」というゲームをしてたんですよ。で、夏休みに大学が暇になったので夢中になって、1ラウンド18アンダーを4回プレイして出して、72アンダーで提出したんです。多分33位でした。100位までは、パンチアウトのゲームがタダもらえて、僕は金のマリオゴルフUSAのディスクを見事にゲットしました。ちょっといやな大学生です。
おもちゃ屋さんに、夏休みになって記録を出すと持って行くじゃないですか。おもちゃ屋さんに行くと、たむろしている子どもが「いくつ出した?」「俺、2オーバーまできた」「すげー俺10オーバーなのに」と会話している横で、大学生の僕が行くと、小学生がいやらしく話している振りをして僕のスコア見に来るんですよ。スコアを見て、56アンダーぐらいだったんですけど、小学生が口開けたまま絶句しちゃったんです。いたたまれない気持ちになって、子ども相手に本気になっちゃいけないと思いました。
「ファイナルファンタジーXI」は、準廃人で、仕事が暇だったので昼もログインしてたんですけど、毎日20時間ぐらい、合計で200「日」ぐらいプレイしました。まぁ、どうでもいいんですけど。僕のこと、「ゲームを知らないくせに語るな」って2ch、Twitter、はてなブックマークで叱咤激励のコメントを頂くんですけど、そうじゃないからね。
話したいことがあったんですよ。結局みなさん、本当にヒット作を作りたいと思っていますか。例えば、100万本売れるゲームを自分がこの手で手がけたいと思っていますか。そう思って作ってもらったらと思うんですよね。作り方はあるんですよ。100万本売れるゲームの作り方。100万本売れるゲームっていうのはゲーマーをサルにさせないといけないんですよ。サルっていうのは夢中になるということです。とりあえず、学校へ行かないといけない時間だけどゲームやってるみたいな。母親と殴り合ってでもやってるみたいな。コンプガチャが問題になりましたが、コンプガチャはサルにさせる仕組みだったんで、規制されたのかもしません。でもコンプガチャだけじゃなくて、人をサルにさせる方法が世の中にあるんです。違法ではないけれど、サルにさせる仕組みのようなモノをうまく作っていくことが大事なんですよ。
そして、その仕組みを作るには皆さん自身がサルになる経験をする必要があるんです。でも、どっか醒めていて、サルになったことがないんじゃないかと疑っちゃう。たとえば、麻雀なんかでも意図的にはできるんですけど、1日半とか36時間ぶっ続けでやってみるとか。5万円下ろしてパチンコで使って、取り戻すためにATMに走って5万円下ろして使って、さらにATMで5万円下ろすみたいな、そういう追い詰められた状況、やめたいんだけどやめられない状況を一回味わってもらうことで、サルってなにかがわかると思うんです。朝鮮玉入れとかバカにする人もいるけど、大学生のときに僕はパチンコ中毒だったんです。今のパチンコと違って非常にシンプルで味も素っ気もない作りで、リーチになっても7、7、となっても6か7がすぐにきて止まっちゃうんですよ。でも演出がなくても、サルになってやっていると7、7ときたちょっとの瞬間に非常に集中力が高まって、普段は見えないドラムの数字がハッキリと見えてくるんです。7がくるかこないかがわかるんですよ。この流れだったら、絶対くるっていうのもあるんです。血が昇ってわけ分かんなくなって興奮するんです。そういうのを経験しておくと後で、自分はサルになっていたんだなとわかります。サルになったような興奮を味あわせてやるんだと、真剣に、コンプガチャではない方法をご自身で発見してゲームに落とし込めば、必ず刺さると思います。
ゲームのバイラル(口コミ)とは、任天堂の宮本さんの受け売りですが、重要なのは「ゲームをやっているヤツが楽しそうだなってなる」ことです。AKBが広まったのもそうなんですが、AKBを見に行っているアイドルオタクがあまりにも楽しそうに、AKBのことを話している状況に引かれるんですよね。写真を見せてもらった女の子がかわいいとか、歌がいいとかではいかないんですよ。その友達があまりにも楽しそう、あまりにもサルになっている。そういうような状況を傍目から観察して、ほとんど無意識に興味を示すんですよ。バイラルとは、友達が友達に勧めるから広まるわけではありません。
みなさん、面白いってことを考えていると思うんですよ。大体、アンケートでは顧客満足とか笑顔とかを求めます。だけど、その人が面白いと思ったら負けなんですよ。あるいは笑顔にさせたら負けなんです。皆さんには一度ディズニーランドに行ってもらって、ディズニーランドにいるお客さんの顔を観察して下さい。女性同士が多くいます。その女性の顔を見てほしい、どういう顔をしているか。どういう顔をしているかというと、大体笑顔、満面の笑顔で、すごく楽しそうにしてる。彼女たちの会話を聞いてみて下さい。彼女たちは「楽しいねー」「来てよかったねー」「また来たいねー」って言うんですよ。大体女子の平均的な姿です。
一方対極的に、にっこりともしないお客がいるんです。それは、幼児です。ミッキーマウスと写真を撮っているときの顔を見て下さい。にこりとも歯を見せないで、ミッキーマウスの顔を凝視しているんですよ。真剣な顔をしている。口が裂けても「面白いねー」とは言わないんですよ。なんで女の子が「また来たいねー」と言っているかというと、来たけでつまらないから、わっしょいわっしょいテンションを上げてるだけなんです。女同士で来て意外とつまんなかった。ホントは彼氏と来たかったけどしょうがない。彼氏いない同士の女で来た。つまんないけど、ここで盛り上げないとつまらないから、わっしょいわっしょい「来てよかったね」と笑顔を見せて盛り上げている。
人間とはホントに面白い状態、熱中している状態になったら、笑顔を見せないし面白いとは感じないんです。その状況を目指すのが大事なんです。皆さん目標設定を間違えている。
齊:
ありがとうございます。僕もゲームのサルになりました。当時ストリートファイターで対戦して負けてお金がないときに、大事な本を売ったりしてやっていました。皆さん、そういう経験をしていると思うので共感して頂けたかなと思います。次に「もしドラ」の戦略についてお願いします。
岩:
8年ぐらい前、天皇誕生日の新刊も出ない休みの日に、本屋さんに行列ができていました。何で行列ができているのか店員さんに聞いたんですよ。「この日は毎年行列ができるんですよ」という返事が返ってきました。それは、クリスマスプレゼントに、じっちゃんとばっちゃんが本を買っていくんですよ。プレゼント用に包装をするから行列ができていたんです。
ドラッカーの本の中に「真の顧客を捉える」ということが書いてあったんです。高校生向けの本を誰が買うかというと親なんですね。子どもの本だから買いやすいし、子どもには本読んでもらいたいし、できれば勉強になる本を読んで欲しい。だから、親を狙い撃ちにしないといけないと思いました。親が子どもに贈りたくなる本がものすごく売れることに気付きました。潜在的に本をプレゼントしたい人がいる、出版史上初めてだと思うんですが、本をプレゼントと規定して、デザインしたんです。これはゲームの世界にも通用するんじゃないかと。小学生がやるゲームは小学生が買えるものではないので親が買うものです。だとしたら、親が子どもにさせたいゲーム、川島教授の「脳トレ」がそうだと思うんです。贈って子どもが喜べば、親はうれしいものです。これが、もしドラの1つの戦略です。
ここ4、5年のGREEとモバゲーのTV広告はお金が余っているからやっているのか不思議に思っていたんですけど、広告代理店が調べたところ、TVCMに入った瞬間にTVを見ていた人がやることは、スマートフォン・ケータイをチェックすることらしいですよ。そのときに「ゲーム無料、何とかで検索」とCMが流れると、入ってくるそうです。
齊:
まさに皆が何をしているのかを理解した上で、そこにCMを打つ、見事にはまった例ですね。次に、「ゲームを作るのに、ゲームなんてやらなくてもいいという」ことについて、岩崎さんが放送作家をしていたときに、TVを見なくなった時期があったけどヒット作が生み出すことができた、その点についてお願いします。
岩:
結局ものを作るとはパクルっていうことです。盗撮、コピペではなくて、勘やコツだったり、行動から抜き出して、それを置き換えることです。先ほどのパチンコなどの実体験を概念的に解きほぐすときに、小説の作り方にも当てはまるんじゃないかと。それでうまくいきました。ゲームの種を探すなら、ゲーム以外のところにしかない。それが分かったらゲームなんかやっている暇がないという発想なんですよ。僕は実際本を読まないです。宮崎駿さんが言っていたんですけど、今のアニメ制作者は、アニメの空を見て、アニメーターになるから、アニメの空しか描けない、本物の空が描けないから面白くないというんです。ゲーム業界にも同じことがいえるのではないかと思います。TVゲームが面白いと思ってゲームを作っている。元が似ているからダイナミックな展開がないんですよ。あるいはオリジナリティ、独自性がないんです。だから、キャバクラにいったほうがいいですよ。サルみたいにやっていることがヒントだと思うんです。ゲーム以外のことで1日を埋め尽くせばヒントはたくさんあると思います。
齊:
ありがとうございます。最後に、ゲーム業界のみなさん、集まってくれたみなさんに一言。
岩:
これまでプラットフォームの中でどう戦うかであったんですけど、今はプラットフォームの垣根がなくなって、プラットフォームの考え方そのものから、自分で考えていかないといけない状況です。大変だけど、逆に言えば、チャンスなんですよ。自分たちでプラットフォームを考えて、提供することができれば、20年、30年前のように個人が制作したゲームが、100万本、200万本売れる時代がもう一度来ようとしているんです。ポケモンが初週に売り上げた本数は20万本だったそうで、ポケモンを制作した人はそれを聞いて「首をつろう」と思ったそうです。そういうのうらやましくないですか、そういうのを目指したらいいと思います。
齊:
今日はどうも、ありがとうございました。
岩:
ありがとうございました。
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