10代の若者のメンタルヘルス危機の主な原因はスマホではなく「学校で良い成績を収めなければというストレス」にあると心理学者のピーター・グレイが主張、ジョナサン・ハイトの「若者のメンタルヘルス悪化はSNSのせい」説に異議を唱える

10代の若者のメンタルヘルスが悪化している理由は、SNSが若者に悪影響を与えているためではなく、「学校で優れた成績を収めなければならない」というストレスによるものであると、心理学者のピーター・グレイ氏が語りました。
What if It’s Not the Phones? - The Atlantic
https://www.theatlantic.com/technology/2026/07/phones-haidt-play-gray/687846/
What's the matter with kids today? Phones? Common Core?
https://www.joannejacobs.com/post/what-s-the-matter-with-kids-today-phones-common-core
82歳の心理学者であるピーター・グレイ氏は、「遊び」をそれ自体を目的として行われる自己主導的な活動と定義しています。グレイ氏は「子どもは遊びを通して自らの問題を解決し、人間関係を育み、独自のルールを作り、失望を乗り越える方法を学ぶことができる」と考えているそうです。
しかし、グレイ氏は自身の幼少期と現代では子どもが遊びを通して何かをすることが、ますます難しくなっていると感じる模様。現代の子どもは1日の大半を屋内で過ごしており、自由な時間は減少傾向にあり、大人の監督下で組織的なスポーツをさせられ、ひとりでどこにも行かなくなっています。このような自立性の喪失が子どもたちの精神衛生に悪影響を与えていると、グレイ氏は確信していました。
グレイ氏はこれらの主張を、2013年に出版された「遊びが学びに欠かせないわけ―自立した学び手を育てる」で発表。グレイ氏は「子どもたちは監視や構造化のない屋外遊びを十分に経験することで健康に育つ」と主張しており、この主張はすぐに多くの支持者を獲得。特に、自由放任型の子育てを提唱する人たちから熱烈な支持を得ているそうです。
Amazon.co.jp: 遊びが学びに欠かせないわけ―自立した学び手を育てる : ピーター・グレイ, 吉田 新一郎: 本

そんなグレイ氏と子どもの自立運動を行う非営利団体・Let Growを設立した社会心理学者のジョナサン・ハイト氏は、2023年に「不安の世代: スマホ・SNSが子どもと若者の心を蝕む理由」という書籍を出版し、「若者のメンタルヘルス悪化はSNSのせい」と主張しました。この書籍は瞬く間にベストセラーとなり、学校に子どものスマートフォン利用禁止を促したり、政治家に16歳未満の子どものソーシャルメディア利用を禁止する法案を提出させたりするうえで、非常に大きな影響力を発揮しています。
不安の世代: スマホ・SNSが子どもと若者の心を蝕む理由 | ジョナサン・ハイト, 西川 由紀子 |本 | 通販 | Amazon

グレイ氏は元同僚の「若者のメンタルヘルス悪化はSNSのせい」という主張に対して、「社会として、子どもが抱えるあらゆる問題の解決策は、彼らからさらに自由を奪うことだとほとんど反射的に考えてしまう傾向があります。そしてこの本(ハイト氏の著書である『不安の世代』)は、そうした反射的な考え方をさらに助長している」と指摘。
そして、グレイ氏はハイト氏の「若者のメンタルヘルス悪化はSNSのせい」という主張に反論する、新しい書籍「Restoring Childhood: How to Set Kids Free in the Age of Anxiety(子ども時代を取り戻す:不安の時代に子どもたちを自由にする方法)」の発売を予定しています。
Amazon | Restoring Childhood: How to Set Kids Free in the Age of Anxiety (English Edition) [Kindle edition] by Gray, Peter | Mental Health | Kindleストア

この著書の中で、グレイ氏は子どものメンタルヘルス危機は学校中心のストレスが原因であると主張。グレイ氏は特に2010年に採用された共通教育基準である「Common Core」が「教師の創造的なカリキュラムの選択肢を狭め、平均的なアメリカ人生徒がテストを受ける時間を増やした」と主張しています。
Common Coreは、2010年に始まったアメリカの複数州にまたがる教育イニシアチブで、アメリカの幼稚園から高校までの生徒が各学年の終わりに英語と数学で習得すべき内容の一貫性を高めることを目的としたものです。Common Coreは全米州知事協会および州教育長官協議会によって後援されています。
グレイ氏によると、アメリカの10代の若者のうち「学校で良い成績を収めることがストレスの原因だ」と答えた人の割合は、Common Coreが始まる前の2009年時点では43%だったのに対して、Common Coreが始まった後のタイミングである2013年時点では83%にまで急増しています。これはアメリカ心理学会が毎年発表している「Stress in America(アメリカにおけるストレス)」というレポートのデータをベースとしたものです。グレイ氏によると、スウェーデンおよびイギリスでもアメリカ同様に学校改革が行われたのちに、学生のストレスレベルが上昇したことが確認されています。
ただし、The Atlanticのケイトリン・ティファニー記者は、「2009年から2013年にかけて変化したのは、学校の方針だけではありません。例えば、スマートフォンの利用率もこの期間に急上昇しました」と指摘しています。
Common Coreのような共通教育基準の設定や説明責任を重視する動きは、テストの増加につながるとジョアン・ジェイコブ氏は主張。さらに、このような動きはCommon Coreが登場するよりもずっと前の1980年代から存在したと指摘しています。加えて、Common Coreのような共通教育基準が学生の学習意欲を高めたという証拠は存在していないともジェイコブ氏は語りました。

The New York Timesによると、1950年代に幼稚園に通う子どもは全体の半分以下だったそうです。そして、高校を卒業できたのは約50%に過ぎず、職業上の不利益もなかった模様。これに対して、現代では3歳児や4歳児が1日中学校に通い、幼稚園児がかつての小学校1年生のカリキュラムに取り組むようになっているとのことです。
なお、ハイト氏の「若者のメンタルヘルス悪化はSNSのせい」という主張には、これまでにも多くの学者が反論しており、ハイト氏も再反論してきました。
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