なぜ「間隔を空けて復習する」だけで学習効率が大きく変わるのか?

人は新しい知識を学んでも、時間がたつと簡単に忘れてしまいます。試験前に詰め込んだ内容がすぐに抜け落ちたり、何度も読んだはずの文章を思い出せなかったりするのは珍しいことではありません。心理学の研究ではこうした忘却の仕方そのものに一定の傾向があることが知られており、学習内容を一度に詰め込むよりも時間を空けて復習した方が長期的な記憶保持につながる場合があるとされています。作家・研究者であるGwern Branwen氏は自身のウェブサイトで間隔を空けて復習を行う「間隔反復学習」に関する研究をまとめています。
Spaced Repetition for Efficient Learning · Gwern.net
https://gwern.net/spaced-repetition
◆記憶はなぜすぐに失われるのか?
忘却研究の出発点として知られているのが、ドイツの心理学者ヘルマン・エビングハウスが19世紀に行った実験です。エビングハウスは意味を持たない文字列を記憶し、その保持率が時間とともにどのように変化するかを測定しました。その結果、学習直後に記憶が大きく失われ、その後は徐々に減少が緩やかになるというパターンが示されました。この傾向を図にしたものが「忘却曲線」です。
エビングハウス以降の研究でも、学習直後に記憶の保持率が大きく下がりその後は時間がたつにつれて忘却の進み方が緩やかになるという傾向が忘却曲線の代表的な可視化例として示されています。

Branwen氏は「忘却曲線の形を説明する際に放射性崩壊の半減期にたとえる比喩が使われることがある」と述べていますが、これはあくまで直感的な理解を助けるための説明であり同一の仕組みではないとのこと。忘却曲線は条件によって形が大きく変わり生物学的な仕組みについても決定的な説明は得られていないため、「厳密な法則というより、記憶の振る舞いを説明するための近似的なモデルとして扱うのが適切」だとBranwen氏は述べています。
◆なぜ「間隔効果」が現れるのか?
間隔効果が観察される理由については長年にわたって複数の仮説が提唱されてきました。Branwen氏はこれらの仮説を並列的に整理しています。
1つ目は「干渉仮説」で、これは「学習内容が互いに干渉し合うことで記憶が弱まる」という考え方です。まとめて学習すると類似した情報が短時間に大量に処理されるため互いに干渉しやすくなりますが、時間を空けて学習すれば干渉が減り、その分記憶が保持されやすくなると説明されています。
2つ目は「変動的文脈仮説」で、これは学習時の文脈が時間とともに変化する点に注目したものです。間隔を空けて学習すると異なる文脈で同じ情報に接することになるため、想起の手がかりが増えるという考え方です。
3つ目の「想起強度仮説」では、学習の際にどれだけ努力して思い出す必要があるかが重要だとされます。間隔を空けると想起が難しくなりその分だけ記憶が強化されるという考え方です。
これらの仮説のいずれか一つが決定的に支持されているわけではなく、Branwen氏は「間隔効果は単一の要因ではなく、条件に応じて複数の要因が関与している可能性が高い」とまとめています。
◆思い出そうとする行為が記憶を強化する「テスト効果」
学習内容を何度も読み返すよりも答えを思い出そうとする方が長期的な記憶保持につながることを示した研究は数多く報告されています。再読と想起を比較した2006年の研究では、学習直後の成績に大きな差が見られなくても時間が経過した後には想起を行ったグループの方が高い成績を示す傾向が確認され、両者の記憶保持にも明確な差が生じることが示されています。

また、想起の際に必ずしも正解できなくても想起を試みる行為そのものが記憶保持に寄与することが、反復想起を扱った(PDFファイル)2007年の研究で示されています。
◆再読が「覚えた気になる」理由
2009年に行われた研究では、再読が学習の流暢さを高める一方で、記憶としては想起テストの方が長期的な保持に有利な傾向があることが確認されています。こうした主観的な判断と実際の記憶保持のズレについては、学習の難易度や処理のしやすさが学習判断に影響する点として(PDFファイル)議論されています。

・間隔反復学習を仕組み化したSRSとは
間隔効果やテスト効果を実際の学習に取り入れる方法として開発されたのが、SRS(間隔反復学習システム)です。「どの内容をいつ復習すべきかを人の感覚だけで管理するのは難しく、復習の成否によって最適なタイミングも変化する」という問題に対しては、反復学習における間隔を数理的に扱おうとする研究も行われてきました。例えば、ペア結合学習を対象に、記憶保持率を一定水準に保つための反復間隔を計算する方法を提案した論文があります。こういった研究が、後にSRSが理論的な基盤を整える上で参照されるようになりました。
SRSでは学習項目ごとに復習のタイミングが個別に設定されます。その結果、新しく学習した項目と過去に学習した項目が日ごとに異なる割合で混在して提示され復習量が一定になりません。下の画像はSRSソフトが出力した復習スケジュールを可視化した例で、復習量のばらつきが視覚的に示されており、人が感覚だけで管理するのが難しい理由が分かります。

◆SRSが向いている学習、向いていない学習
SRSはすべての学習に万能というわけではなく、語彙や事実関係のように「思い出せるかどうか」が重要になる知識では効果が高い傾向がある一方で、抽象的な概念理解については条件によって効果が異なるとBranwen氏は述べています。
また、SRSは効果が高い一方で直感に反する学習法でもあります。忘れかけたタイミングで復習を行う必要があるため学習者は「できていない」と感じやすく、短期的な達成感を得にくい傾向があるとのこと。
こうした学習法が教育現場に取り入れられにくい理由については、心理学研究の成果が実践に反映されにくいことを論じた1988年の論文でも指摘されています。
Branwen氏は、忘却曲線・テスト効果・間隔反復学習などに関する研究を整理する中で、人の記憶が時間の経過とともに変化する点を前提に学習効果を考える必要があることを示しています。また、学習が楽に進むかどうかと長期的に記憶に残るかどうかは必ずしも一致せず、間隔を空けて思い出す機会を設けることが有効になる場合があるとしています。
◆関連記事
情報を正確に着実に記憶するには一定時間おいて繰り返す「間隔記憶」が有効 - GIGAZINE
Ankiを活用することで5歳なのに10歳から13歳レベルの「読む能力」を身につけさせることに成功した親へのインタビュー - GIGAZINE
無料の英語学習ツール「Duolingo」は機械学習でユーザーが最適な学習タイミングを予測し学習効果を高めている - GIGAZINE
最も効率的に学習できる問題の難度は「正答率85%レベル」であることが判明 - GIGAZINE
・関連コンテンツ
in 教育, サイエンス, Posted by log1b_ok
You can read the machine translated English article Why does simply 'reviewing at intervals'….







