ステーブルコインを悪用してマネーロンダリングする簡単で実用レベルの手法が明らかに

各国政府は国際的な犯罪組織や不当な行為に及ぶ国々などに対し、アメリカドルを用いた取引を禁じるなどの経済制裁を行うことで、対象に経済的ダメージを与えています。しかし、近年ではアメリカドルなどと連動した仮想通貨・ステーブルコインが普及したことで、簡単にマネーロンダリングして経済制裁を回避することが可能になったと、ニューヨーク・タイムズのアーロン・クロリック記者が報じています。
How a Cryptocurrency Helps Criminals Launder Money and Evade Sanctions
https://www.nytimes.com/2025/12/07/technology/how-a-cryptocurrency-helps-criminals-launder-money-and-evade-sanctions.html

かつて密輸業者やマネーロンダリング業者、経済制裁の対象となった人物らは、ダイヤモンドや美術品などを購入することで不正な財産を隠していました。しかし、これらの物品は移動するのが面倒であり、使い道も限られていました。
近年の犯罪者は、宝石や美術品よりもはるかに現実的な代替手段として、アメリカドルなどに連動するステーブルコインに目を付けています。ステーブルコインは現地通貨で簡単に購入することができ、ほぼ瞬時に国境を越えて移動できるほか、デビットカードへの換金などを通じて従来の銀行システム内で利用することも可能。多くの場合、これらのマネーロンダリングは法執行機関に検知されることなく実行可能だそうです。
ブロックチェーン分析企業のChainalysisが2月に発表した報告書によると、2024年にはステーブルコインを介した違法取引の総額が、最大250億ドル(約3兆9000億円)に達したとのこと。ロシアの富裕層やイスラム国の指導者らがステーブルコインを利用し始めており、アメリカの最も強力な外交手段である「敵対国をドルと世界の銀行システムから遮断する」という経済制裁が弱体化しつつあると、クロリック氏は指摘しています。
アメリカ財務省は長年にわたり、違法金融活動の根絶を銀行やクレジットカード会社に頼ってきました。これらの企業は、政府の経済制裁対象となっている団体を追跡・排除するために数十億ドル(数千億円)規模の支出を行い、世界貿易の主流であるドル建て貿易から制裁対象者を締め出すことに貢献してきました。
しかし、ステーブルコインは複数の仲介者層を経由することでこのシステムを完全に回避し、当局による追跡が困難な方法で資金を移動・交換したり、他の資金プールへ混合したりすることが可能です。元財務省職員であり、ブロックチェーンデータ企業TRM Labsの政策責任者であるアリ・レッドボード氏は、「犯罪者はかつてないほど速く動いています」と述べ、犯罪者が数回のクリックで数百万ドル(数億円)の資金を移動できる場合、経済制裁やその他の罰則は効力を失うと主張しています。

実際にクロリック氏は、ステーブルコインがどれほど簡単に銀行による規制をくぐり抜けられるのかを試すため、ニュージャージー州の仮想通貨ATMで現金をステーブルコインに換金しました。20ドル(約3100円)紙幣を2枚投入すると、すぐに「仮想通貨がデジタルウォレットへ入金された」という通知がスマートフォンに届いたとのこと。
その後、あらかじめ設定しておいたTelegramボットが、「ステーブルコインを使ってどこでも使える残高のあるVisaのペイメントカード番号を生成する」というステップを案内してくれたそうです。このペイメントカードはデビットカードとよく似ているものの、クロリック氏の銀行口座とは一切関係なく、発行の際も住所や身分証明書の提示は一切求められませんでした。つまり、これだけでクロリック氏は、現金を「ある程度匿名化された支払い手段」に変換できたということになります。
今回クロリック氏のペイメントカードを発行したTelegramボットは、タイ在住のロシア人が運営する「WantToPay」という企業のものでした。WantToPayは、海外やオンラインで買い物がしたいがアメリカの制裁対象となっているロシア人に対し、VisaやMasterCardのペイメントカードを提供するサービスを展開しています。これにより、ロシアの銀行からの決済を受け付けていないChatGPTやNetflixといったサービスを、ロシア人でも利用できるというわけです。
WantToPayはクロリック氏からのコメント要請に応じず、連絡を取った後にウェブサイト上からVisaやMasterCardへの言及が消え、Telegramにはカード発行を停止した旨の通知が届きました。クロリック氏がテスト後にVisaへ通知すると、VisaはWantToPayへの調査を開始したと回答しました。また、MasterCardの広報担当者は、同社は違法行為を一切容認しておらず、潜在的な問題を精査して現地の法律や基準への準拠を徹底していると返答しました。
さらなる調査により、WantToPayはステーブルコインを介したマネーロンダリングの一部分に過ぎず、ペイメントカードの発行はブラジルの金融テクノロジー企業・Dockが担当していることもわかりました。Dockは、企業が銀行を通じてVisaやMasterCardのカードを発行するのを支援していますが、同社は政府の規制対象となる金融機関ではないため、銀行パートナーと同等のコンプライアンス基準は求められないとのこと。

クロリック氏の調査では、Telegramやその他のプラットフォーム上で、ステーブルコインを資金源とする匿名のVisaおよびMastercard製品を宣伝している企業が24社特定されました。これらの製品の利用限度額は最大3万ドル(約470万円)で、企業はコスタリカやマルタ、ジョージア、カザフスタン、ロシアなど世界各国に拠点を置いているとのこと。
アメリカでは2025年7月、ステーブルコインの規制枠組みを確立する「GENIUS法」が成立し、違法行為や制裁違反に対抗するためのコンプライアンスプログラムが策定されました。しかし、規制は主にアメリカを拠点にする取引所に適用されるため、海外プラットフォームや規制されていない仮想通貨、そしてこれらの要件を一切満たさない分散型金融システムを通じて、資金は依然として自由に移動できるとクロリック氏は指摘しています。
実際、1800億ドル(約28兆円)以上のステーブルコインを流通させるテザーはエルサルバドルに拠点を置き、新規制の対象外となっています。また、テザーは1120億ドル(約17兆4000億円)以上のアメリカ国債を保有しているため、テザーに対する法執行措置は金融市場の不安定化につながるリスクがあるとのこと。
さらに、テザーにサービスを提供する投資銀行・キャンターフィッツジェラルドの会長と執行副会長は、アメリカのハワード・ラトニック商務長官の息子たちです。このように、テザーを巡る政治的・財政的なつながりによって、状況はさらに複雑化しているとクロリック氏は述べました。
・関連記事
トランプ大統領が有罪判決を受けていた仮想通貨取引所・Binanceの創業者に「完全かつ無条件の恩赦」を与えると決定 - GIGAZINE
北朝鮮とランサムウェアギャングが使用する仮想通貨ミキシングサービス「Bender.io」と「Sinbad.io」を運営した疑いでロシア人3人が起訴される - GIGAZINE
仮想通貨大手テザーが「経済制裁またはマネーロンダリング防止に関する規則違反で連邦捜査官の調査を受けている」という報道を否定 - GIGAZINE
仮想通貨テザーが「豚殺し詐欺」などアジアにおけるサイバー詐欺を助長していると国連が警告 - GIGAZINE
仮想通貨詐欺「豚殺し」での110億円の資金洗浄で中国人2人が逮捕される - GIGAZINE
ロシア企業が経済制裁の対抗策として仮想通貨を使い始める - GIGAZINE
ロシアが仮想通貨を使って経済制裁を回避するのではという声、専門家は「仮想通貨を使ったマネーロンダリングは不可能」と指摘 - GIGAZINE
「仮想通貨で経済制裁を回避する方法」を北朝鮮でプレゼンした仮想通貨専門家に懲役5年3カ月と罰金1200万円超の判決 - GIGAZINE
・関連コンテンツ
in メモ, Posted by log1h_ik
You can read the machine translated English article A simple and practical method for abusin….







